【愛の◯◯】『ワースト』はあるけど『ベスト』は無い

 

「ほのかぁー」

「なに!? おマヌケな声で呼ぶのはやめてよ、おとーさん」

「コーヒー」

「コーヒーが、なんなのっ」

「試飲(しいん)してくれんか?」

「わたしが?」

「おまえが」

「どーして」

「スゴい豆が入ったんだ」

「うわっ……」

「そのリアクションは何かな」

「期待外れのパターン。おとーさんが『スゴい豆が入ったんだ』って言って淹れたコーヒーは、超高確率で期待を裏切る……」

「いや今度は大丈夫だから」

「今回も期待できない。世の中にはどうにもならないコトもあるんだよ? いい加減『スゴい豆』で煽るのはあきらめて……」

「いいや、おれはあきらめんぞ。試飲したおまえがどれほど苦い顔になっても。信じてるんだ、ほのか、おまえが最後には、淹れたコーヒーで幸せ顔になってるのを」

「なんかキモいよ」

「『キモいよ』は感心しないなー。できるだろ? もっと丁寧で汚くないコトバ遣いが。川又家の優秀なひとり娘なんだから」

「わかった。わかったからっ。期待外れ確実のコーヒー、早く淹れてきてよ」

「ぐうの音も出ないコーヒーになるぞ。もう、おまえは『キモいよ』だとか日常会話で言えなくなる!」

「またそんな、キモいドヤ顔で……!!」

 

× × ×

 

「どーだ!? どーだったか!? 夜ご飯の時間になる前に、試飲の感想教えてくれ」

「感想というか、結論というかだけど。ひとことで言って、夜ご飯で口直しをしたくなる」

「ガクッ!!!」

「突拍子も無いリアクションしないでよ!? マジで引いてるんだよわたし!?」

「あのなーーっ。ほのかぁ、『マジで』という言い回しも、おまえの父親として……」

「おとーさん。『マジレス』ってコトバ解る? わたし今日、『マジレス』しか、おとーさんに対してはしてないんだよ?」

「『マジレス』?? わからにゃい」

「そのフザケた態度、これまでの態度の中でワースト5(ファイブ)に入るぐらい」

「えー。ワーストぉ? だったら、『ベスト』はどうなんだよー」

「『ベスト』は、無いっ」

「おぉ〜い、ワーストがあってベストが無いだなんて、父親をそんなに哀しませんでくれよ〜」

「……なんか、ムシムシしてきた。夜なのに、不快指数高過ぎる」

「こらこら。ほのか、そういう仕草はやめなさい。襟元をパタパタさせるなんて、はしたない」

「別にいいでしょ。おとーさんに見られたって咎められたって、わたし何とも思わないし」

「どこ向いてしゃべっているの、ほのかさん」

「お、おとーさんのバカっ!!」

「え」

「そういう、俳句の5・7・5みたいなリズムのおフザケコトバが、わたしこの世でいちばんムカつくのっ!!」

「俳句がそんなに嫌いなんか? なぜに」

「理由は次回以降に」

「逃げ上手の娘だなぁ〜」