守さんとふたりの時間を過ごしたあとは、ご夫妻の新居にお泊りすることになっていた。
23時を過ぎている。
『おやすみなさい』を言うために階下(した)に下りる。
ダイニングテーブルで心(こころ)さんが読書していた。
守さんの奥さん。すなわち、おねーさん&利比古くんのお母さん。
『どんな本を読んでるんだろう?』と思ってしまい、彼女の手元を凝視してしまった。
ソフトカバーだけど、たぶん学術書だろう。
おねーさんもずいぶん難しい本を読むけど、おねーさんのお母さんの心さんも難解げな本を読むみたい。
『血は争えない』って表現は適切じゃないけど、似たような読書の嗜好を感じ取れて、なんだか微笑ましい。
『おやすみなさい』を言うことを忘れたわたしに、
「あすかちゃん。どーだった?? 今晩の『デート』は」
という心さんの問い掛け。
完全なる先制パンチだった。
余裕たっぷりのからかい。
満面の笑みは崩れそうにもない。
守さんと美味しいお肉を食べたこと、守さんに欲しかったCDを何枚も買ってもらったこと……それらを『デート』と形容されて、恥ずかしくならないワケが無かった。
「で、デートとは、ちょっぴし、ちがうとおもいますっ」
気付けば首を横に振っている。
「あらあら」
心さんはいつの間にか本を閉じていて、
「あすかちゃんを眠れなくさせちゃうのは、罪よね」
微笑みを向けられてどうしようもなくなる、わたし。
「そーだぁ」
おどけるように、
「一緒にお部屋に上がってあげよっか??」
ジワリ、と上昇を始める体温。
上昇速度が増していって、制御なんかできなくなる。
それでも懸命に、
「ど、どーゆーことですかっ、いっしょにおへやって、わたしと、つまり、わたしと……」
「細身の女子がふたり入ってもゆとりのあるベッドじゃないの♫」
「ま、ま、ま、まにあってますからっ!!」
「ホントに、だいじょーぶ~~??」
「ヘンなことかんがえなくても、いいですからっ!!」
「この場合、添い寝は理にかなってると思うけど――」
「こ、こ、こ、コドモじゃないもんっっ」
「ケナゲねっ♫」