あれ??
ここは、どこだろう。
モヤッとした視界が、徐々にクッキリとなる。
よく見れば。
よく見れば、少し離れたところに、男女1組が立っている。
あすかさん。
そして、あすかさんの彼氏さんのミヤジさん。
もう少しよく見てみる。
すると、カップルの様子が、なんだかおかしい。
「おかしい」というより、険しくて、穏やかでない。
睨み合っているように見える。
あすかさんが口を開いて、なにやら言いまくっているのに気が付いた。
言っている内容は分からない。
しかし、彼女の声のギスギスした感じが、ガンガンぼくのもとに響いてくる。
彼女はたぶん、怒っている。
たぶん、ミヤジさんに怒鳴っているのだ。
ミヤジさんはひたすら顔をしかめている。
彼の表情の険悪さが「黒い」感じがして、怖かった。
あすかさんがミヤジさんに詰め寄る。
ミヤジさんはシリアスに首を横に振る。
あすかさんは一瞬だけ悲しそうな表情になって、それから再び、キツい表情でミヤジさんに詰め寄っていく。
聞こえた。
声が、聞こえたのだ。
『嫌い。あんたなんか』
あすかさんはハッキリとそう告げた……。
視界が開けた。
天井だった。
電気が点いていないぼくの部屋の天井だった。
……夢から帰ってきたのだ。
× × ×
どうしようもない夢だった。
そして悲惨な夢だった。
かかわりを断つような勢いで、あすかさんがミヤジさんに『嫌い』と告げていた。
よく分からない。
どうして、ぼくが、こんな夢を見るのか。
ぼくは、第三者だ。
あすかさんとミヤジさんの関係にまったく介入していない。
彼女と彼の関係に関係のない人間であるぼくが、どうしてこんな内容の夢を……??
とりあえず。
とりあえず、あすかさんには。
彼女には、さっきまで見ていた夢のことは、決して伝えてはいけない。
常識的に考えて、伝えるほうがおかしいんだし。
『ぼくの中にだけ、しまっておこう』と決意した瞬間に、背筋がゾワリ、と寒くなった。