【愛の◯◯】魔法使いアスミコ

 

ゴールデンウィークに突入。

 

本来今日からだったはずの姉の帰省は、姉自身の都合によって、先延ばしに。

 

――まったく。

 

× × ×

 

今ごろ、姉は、独りでなにをしているんだろう……と思いつつ、タブレット端末をいじっていた。

すると、どこからともなく、明日美子さんが、リビングに姿を現して、

「利比古くん利比古くん」

と、ぼくの眼の前に来て、話しかけてきた。

タブレット端末を手放し、

「なんでしょうか?」

と訊いてみる。

「お腹がすいたんじゃない? いや、ぜったいお腹すいてるはずよ。なんたって、もうすぐ正午なんだもの。ね? ゴハン、食べたいでしょ??」

そういえば、もうそんな時間か。

たしかに、そろそろなにか食べたいな。

「現在(いま)ね、お邸(やしき)、利比古くんとわたしのふたりっきりなのよ。アツマは就活であちこち飛び回ってるし、あすかも流くんもどっか行っちゃったし」

「――じゃあ、ぼくたちも外に出て、どこかのお店に食べに行きますか?」

「――それ、デートのお誘い?

そっそんなわけないじゃないですかっ

動揺しているぼくに、

「外食も、いいんだけど……。

 たまには、わたしに、お昼ごはんを作らせてくれないかな」

「……明日美子さんが、作るんですか?」

満面の笑みで明日美子さんはうなずく。

 

× × ×

 

鶏肉が大量に余っていたので、メインおかずは唐揚げになった。

 

明日美子さんが作ってくれた唐揚げを、味わって食べる。

 

…すごく美味しい。

半端じゃなく美味しい。

 

もちろん、料理上手だということは知っていた。

でも、この領域まで来ると、料理上手というレベルじゃない。

 

姉が作る唐揚げも…とても美味しいけれど。

明日美子さんは、その上を……!

 

 

「――美味しそうね」

「もちろんです。魔法でもかけられたみたいな、味で――」

「あらぁ、わたし、魔法使い?」

「すごく、すごく……美味なので」

「魔法使いオバサンかぁー、わたし」

「んっ……」

魔法少女ならぬ、魔法熟女」

「……」

「魔法熟女よ。40代が、魔女っ子名乗るわけにもいかないでしょ」

なんだか、話が脱線していく予兆もあるが、とりあえずグラスの麦茶をぼくは飲む。

「わたしね、魔女っ子アニメは、ミンキーモモとか、クリィミーマミとか、そんな世代」

「……はあ」

「知らない?」

「知らないです」

「無理もないわよね」

「80年代……ですよね」

「そうよ。――クリィミーマミとか、日テレの平日夕方6時台にやっていたの」

「日テレで、平日夕方6時台に――ニュースじゃなく、アニメ番組を!?」

「今みたいに、ニュース番組の放映時間、長くなかったのよ」

「――勉強になります」

「でしょー? 『テレビ番組』という視点からアニメを考えるのも、面白いわよね」

「ハイ、ぼくの興味に、ドンピシャリで」

「…わたしの昔なじみで、こういうことばっかり考えてるひとがいるのよ。『テレビアニメは、なによりもまず、テレビ番組なんだー!!』って」

「…すごいですね」

「そういう理論で、同人誌を何冊も書いてきて」

「情熱のかけかたが……違う」

 

予感は当たり、激しく脱線していく、ダイニングでの会話。

脱線など、気にかけないように、明日美子さんがぼくに、

「あなたも――同人誌、出してみたら? せっかく放送文化に並々ならぬ関心があるのに、アウトプットしないのは、もったいないわよ」

「ぼ…ぼくは、クラブ活動のほうで、手一杯で、」

編集者になってあげるんだけどな~~

 

説得力のある…笑顔だった。

 

元・編集者であらせられる…戸部明日美子さん。