「お兄ちゃん、きょうは短縮版だよ」
「ｹｯ」
「なにその態度！？」
「…ふんっ」
「あー、もうっ。８００字程度で収めるのっ、きょうの記事は」
「８００字！？ なんつー少なさだ」
「短縮版なんだから」
「短縮版にしたって…」
「土曜は、忙しいんだよ」
「だれがだよ」
「エーッ！？ そんなこともわからないの、お兄ちゃん！？」
「る、るせぇ」
「土曜、恒常的に忙しいみたいだから、今後も、土曜の記事が短縮版になることは多いみたい」
「『忙しい』、ねえ……」
「なんなの、お兄ちゃん。ブログの中の人に文句でもあるの」
「『忙しさ』にも、『質』の違いが、あると思うんよ」
「『じぶんのほうが、よっぽど忙しいぜ』って言いたいんだね？」
「なぜわかった」
「じぶんに甘えてない！？ お兄ちゃん」
「ぬな……！」
「いくら就活中だからって。『甘ちゃん兄貴』って呼んじゃうよ？」
「……あすか、おまえって、酷すぎるぐらい酷くなるときがあるよな」
× × ×
「サークルのひとに、内定が出たんだって？」
「うげぇ、なんでそれをあすかが知ってんだ」
「お兄ちゃんの妹だから」
「…」
「下原さん、だっけ、川原さん、だっけ。お兄ちゃんにとって貴重な、男子の知り合い」
「…えーっと、下原くんのほう、だな」
「…焦ってるんでしょ」
「焦らないほうが、おかしい」
「危機感を、レベルで表すと？」
「レベル？？ …うーん」
「答えてよ。答えられるでしょ」
「うーーむ……」
「お兄ちゃん、じぶんのことが、わかんないわけ！？」
「ぐぬ……」
「『汝自身を知れ』って、ソクラテスも言ってるじゃん！」
「……ソクラテスが言ったんだっけ？ それって」
「た……たぶん」
「や、おれも、正確には知らんけど」
「……」
「おいおい」
「こんなとき、おねーさんが居てくれたら……」
「まあな。あいつ、哲学専攻だからな」
「――おねーさんといえば」
「？ 愛が、どうかしたか」
「こんど、いつ、お兄ちゃんは、おねーさんとデートするのっ」
「…」
「ねぇ」
「…４月初めに会ったときに、『おれの就活が落ち着くまで、デートは自粛』って、指切りをして」
「そんなことでほんとにいいの！？ 就活もいいけど、デートもしようよ」
「……『欲張り兄貴』になっちまうだろ」
