サークル部屋で『疲れ』を癒やしていると、ノック音が。
ドアを開けてみると、
「やっほ~、アツマ君」
「……梢さんですか。」
東本梢さん。
おれより3つ年上で、おれより2つ学年が下の、女子大学生である。
……ややこしいプロフィールだ。
プロフィールはともかく、おれよりもオトナなお姉さんであることは間違いない梢さんが、
「ねえねえ、いまヒマなんだよ私」
と言ってくる。
「……はあ。そうなんですか」
「アツマ君も、ぜったいヒマだよね!?」
……そんなに眼を輝かせなくても。
× × ×
強制的な連行にほとんど近いかたちで、梢さんの所属するサークルのお部屋に入れられた。
『西日本研究会』というサークル。珍妙極まりない。
例によって(?)、おれの真向かいに梢さんが腰を下ろす。
「おれを、ヒマつぶしのオモチャみたいになんか、しませんよね??」
「――それ、反抗心?」
「別に。」
「あ。――ひょっとして、くたびれてるんでしょ、アツマ君」
「なぜそう思われますか」
「声が疲れてる」
「別にそんなことは…」
「目線も下向き」
「……」
オトナの余裕で頬杖をついた梢さんは、
「きみのくたびれの原因を当てるのも、ヒマつぶしになりそうだな。…いや、ヒマつぶし以上に、楽しくなっちゃうかも」
「楽しいのは、あなたのほうだけでしょう」
「いーじゃん。私、きみより年上なんだし」
ガバガバな理屈を……!
「――ズバリ、就活だ。きみのくたびれの原因は」
どう? そうなんでしょ? と言いたげに、じっとりとおれの顔を眺める彼女。
しかしながらおれは、
「ちょっと、違うんですよね。就活でくたびれるのは当たり前です。就活以上にくたびれることが、あったんですよ」
…ヤバいな。
口を滑らせたか。
「就活以上にくたびれることが…」なんて言っちまって。
匂わせぶりみたいな感じになっちまったじゃねーか。
不覚のおれに、梢さんが飛びつく。
「ええっ!! いったい、どんなこと!? それ」
「とっ…とにかく、すごくくたびれることがあった、というだけで」
「気になるよー、お姉さん気になるよー」
そんな眼で見ないでほしい……。
眼を、合わせづらくなるから。
「あーっ、わかったかもー!!!」
「……」
「アツマ君、少し赤面し始めてるってことは。
彼女と、ケンカしちゃったのね!?」
ぐぐぅ。
「……。なんでわかったんですか、愛のことなんか、ぜんぜん言ってなかったですよね」
「愛ちゃんっていう子が、彼女なのね!!」
胃が、キリキリする……。
× × ×
案の定の流れで、おれと愛に関する事情を説明させられる。
もう、こういったことを説明することに、慣れっこになっちまった……!
「そのお邸(やしき)は面白いね」
「…来たいんですか?」
「ダメなの」
「ダメというわけでは、ないですけども…」
「歯切れ悪いね。…ま、きみたちのお邸に突撃するのは、もう少し時間を置いてからにしようかな」
そう言いつつも、来る気満々なご様子。
ところで、
「あの。
おれと愛のケンカについて……詳しく追及したくないんですか? 梢さんは」
すると梢さんはヒラヒラと手を振って、
「そこまではしないよ。…ホラ、追及したら、アツマ君ますますキツくなるでしょ?」
優しい面も、あるのだろうか。
「こんなときは、まったく別の話題で気分転換するに限るよ」
と梢さん。
「別の話題って、どんな」
若干不意を突かれ、尋ねるおれに、
「そこは、『西日本研究会』だからさ、」
「……?」
「……スーパー玉出って、聞いたことある?」