【愛の◯◯】高校3年の夏っぽいダークブルーのシャツ

 

日曜朝の子供番組をボーッと見て、それから部屋に戻ってウダウダしていたら、もう昼前。

4連休の最終日も、あっという間に過ぎていく。

明日から、本格的に長期休暇モードで、またもや喫茶店「リュクサンブール」でのアルバイトの日々が始まる。

バイトだけど、楽しみだな――と思っていたら、コンコンコン…とおれの部屋を誰かがノックしてくる。

この音は、愛だ。

 

× × ×

 

勉強机にからだをもたせ掛けるようにして、愛はベッドに座るおれと向き合っている。

「日曜朝のアニメって11時ぐらいまであるのね」

「観てたの?」

「チャンネル回してたら気づいただけ」

「あ、そうですか」

「……お昼ごはんだけど、」

「はい、」

「ごはんモノか麺類か、どっちがいい?」

「どっちでも」

「それがいちばん困るんですけどっ」

「おまえが好きなほうで」

「えーっ」

「えーっ、じゃねえよ」

そもそも、何の話したくておれの部屋に来たのか。

「昼飯のリクエストをもらいたくて、ここに来たわけでもないんだろ?」

「そうねぇ」

そうねぇ、じゃないだろっ。

愛は少し目線を低くして、

「明日からの…アツマくんの予定を…知りたかったから…」

「予定? バイトだよバイト、いつものところで」

「『リュクサンブール』?」

「そう。話さんかったか?」

申し訳なさそうに舌を出す愛。

「あすかみたいなリアクションするんだな」

「…ホールスタッフって、ずっと立ってたり動き回ってたり、大変じゃない?」

「そんなでもないぞ」

「…あー。愚問だったか。アツマくん疲れないもんね」

「体力だけはあるからな」

「自虐に走らないっ!」

――やれやれ。

「――楽しいよ、バイト。もう辛くなんかない」

「それはよかった。

 がんばってね」

「ああ」

 

「――ところで、おまえの夏休みの予定は?」

「まず受験勉強だよね」

「そう言うと思った。

 けどさ。

 高校最後の夏休みなのに、勉強勉強の勉強漬けで終わらせるのは、もったいなくないか?」

「ごもっともよ。

 ――まぁ8割が勉強として、残りの2割をどう過ごすかだよね」

「どう過ごしたいんだ?」

「今しかできないことが、したいかな」

「たとえば?」

「まだ思いついてないの」

目線を上げた愛は、遠くを見るような眼になって、

「実質半年、か」

「なにが」

「今の学校に、通うのも」

卒業が…見えてきたってことか。

「あっという間に――終わっちゃうんだよね」

「名残惜しいか」

「当然でしょ」

 

普通の高校生らしいことを、

愛にさせてやりたい、

とか、

そのときおれは、ふと思った。

 

「…考え事してるの?」

「あ、いや、ごめん」

「…典型的な、アツマくんが考え事してるときの顔つきだったから」

「なんじゃそりゃ」

なんじゃそりゃ。

 

愛の着ている服が、目に留まる。

青地(あおじ)のシャツ。

青といっても、ほとんど紺色に近いような色合い。

「――珍しいな」

「え、なにが」

「おまえがそんな色のシャツ着てるのが、珍しいなあと思って」

しだいに戸惑い始めた愛は、

「い、いきなりわたしの服の話するなんて、アツマくんがアツマくんじゃないみたい」

「おれはおれだ」

「似合って……ない??」

「その逆」

じぶんでじぶんのシャツを見回しながら、

「ほめられちゃった……た、たしかに、こういうダークブルーっぽい色合いのは、あんまり持ってなかったと思う」

「……高校3年の夏っぽくていいよな」

「なんなの、その感想…」

戸惑いながら、ふくれっ面(つら)になる。

愛にありがちなリアクションだ。

――こういう愛を眺めていると、つい本音が言いたくなって、

「そうやってすぐ怒りっぽくなるのも…愛らしくって、おれは好きだぞ」

と、コメントする。

すると、戸惑いに戸惑ったのか、みるみるうちに顔が赤くなっていって、

「そんなこといきなり言わないでよっ、心臓に悪いじゃないっ」

「悪かった。」

「ほんとにもう」

火照った顔を凝視されるのがイヤだったんだろう。

おれの左隣に場所移動して、腰掛ける。

同じ方向を向いて、ベッドで隣同士。

「アツマくん、怒ってるんだからね、わたし」

「そうは思えないな」

「…」

「じゃなんでそんなに密着してこようとするのか」

「わるい!?」

「典型的な過剰スキンシップ、ご苦労さま」

「ひどい!!」

「脈絡なく肩を寄せ合おうとする典型的な悪癖(あくへき)」

おこるよ!??!

「…でも、きらいじゃない」

んっ……