【愛の◯◯】あしたどんな顔して岡崎さんに会えばいいの

 

年に一度の、特別な日。

もちろん、誕生日である。

 

× × ×

 

で、おねーさんの部屋でおねーさんとお誕生日会。

カンパーイ!!

テーブルには、ジュースやお菓子がわんさかと。

「いや~あすかちゃんも17歳か~! 早いもんだねえ。5ヶ月だけわたしと同い年だ」

「おねーさん、どさくさ紛(まぎ)れにコーラのペットボトルを取らないでください」

ギクッとするおねーさん。

おねーさんは、炭酸を口に含んだら、酔っ払ってしまうのだ。

「コーラは回収!」

「はい…」ショボンとペットボトルを返すおねーさん。

「めーっ」とたしなめるわたし。

「ダメか…」

「学習してください」とわたしはキッパリ。

 

わたしの厳しい炭酸取り締まりのおかげで、シラフのまま話し続けていたはずのおねーさんが、いきなりこんなことを言い出した。

「……あすかちゃん、そろそろ気になる男の子でも出来るころなんじゃーないの」

「な、なんなんですかっいきなり」

思わずわたしはドアのほうを見た。

「なにゆえ後ろ向くの」

お兄ちゃんか利比古くんに、この女子トークを聞かれたらまずいと条件反射的に思ったからだが、言えない。

「おねーさん……炭酸飲料じゃなくても、テンション上がっちゃうんですね」

「え? わたしふつーだよ」

「気になる男子とか、そんなひといませんから!」

「去年はいたよね」

「い、イジワル」

おねーさんがからかってくるから、わたしはペプシコーラのペットボトルを一気に飲み干す。

イジワルなおねーさんは、

「好きな人がいたほうが、楽しくない?」

「苦しいことだって多いでしょ」

「わかるよ。でも――」

「おねーさんがそんなに恋愛脳だったとは」

「だって……あすかちゃん、そろそろかなぁ、って」

「なにがですかっ」

恋の季節が」

だまらっしゃい!!

 

× × ×

 

おねーさんに汚い言葉を吐いてしまった。

コーラの飲みすぎだったんだろうか。

「頭を冷やしたいです……」とおねーさんの部屋を出たら、廊下に利比古くんがいた。

「あっ、どうも…」

わたしは無言で彼とすれ違い、自室に入る。

 

机でしばらく考えた。

なんでみんな、他人の恋愛事情をしきりと気にするんだろうか。

登場人物が恋愛の話しかしないようなラブコメ漫画があったりするけど、つまりは、恋愛を軸にしたらストーリーが作りやすいんだろう。

このブログも、ネタに詰まったら強引にラブコメ展開に持っていっているフシがあるけど。

「――物語の引き出しが少ないのは、罪だな」

おおっと。

『中の人』の悪口言ったって、しょうがない。

声に出して不満を言い募る必要もない…。

 

メタフィクション的脱線はこのくらいにして――わたしの周りの「異性」のことを、ふと考えてみる。

実のところ、気になる異性なんて今はいない。

でも考えてみる。

スポーツ新聞部。

スポーツ新聞部には、現在男子が3人……。

加賀くん。

生意気な子。

入ってきた当初よりは、生意気レベルが下がってきてると思うけど。

まだ15歳で、中学4年生気分が抜けきっていないところが、可愛くもある。

可愛い、といっても、全然変な意味じゃなくて。

わたしに初めてできた可愛い後輩で、それ以上でもそれ以下でもない。

瀬戸さん。

桜子部長、たぶん、瀬戸さんに気があるんだと思う。

でも「気がある」って微妙な表現だな。

桜子さんは瀬戸さんと絡んでると本当に幸せそうで……。

それが、好意を抱いている、ってことなんだろうか?

きっと、そうだ。

桜子さんはハッキリと意思表示をしないけれど、わたしには「筒抜け」で…椛島先生あたりも、おそらく勘付いてる。

なんにも勘付いてないのは、加賀くんだけ。

岡崎さんは……。

桜子さんに邪険(じゃけん)にされている様子を見ると、気の毒に思ってしまう。

ただでさえ、桜子さんが瀬戸さんびいきだから。

桜子さんが岡崎さんのことをどう思っているかよりも、

岡崎さんが桜子さんのことをどう思っているかのほうが、重要だ。

実際どうなんだろう。

岡崎さんが桜子さんに冷たくあしらわれるのを、気の毒に思ういっぽうで、微笑ましくも感じられる。

岡崎さんと桜子さんの関係は、微笑ましい関係。

だけど、予感めいたものがあって。

いつか、ふたりのあいだに、なにか事件が起こって、関係性がドラスティックに変化してしまうんではなかろうか、っていう――予感。

いや。

予感じゃないな。

ただの妄想だ。

いつの間にかわたし、ラブコメ漫画の読者みたいな感覚になってしまっていた。

そういえば。

わたし、今年の1月の終わりだったっけ、岡崎さんとケンカしちゃったんだった。

些細な衝突。

あれは、わたしのほうが悪かった。

岡崎さんが体育館まで追いかけてきて。

わたしが腹いせにバスケットボールを投げまくっていたら、岡崎さんに見つかって、岡崎さんが一発でシュートを決めて。

もう断片的にしか記憶してないけれど、岡崎さんのバスケの腕前はどう考えてもバスケ部でも通用するレベルだった。

――なんで岡崎さん、運動部に入らなかったんだろう。

なんで運動部じゃなくって、スポーツ新聞部を選んだんだろう――。

岡崎さんがバスケの試合に出てるところとか、ちょっと観てみたかったり。

きっとカッコいいんだろうな……。

絶対カッコいいって。

岡崎さんひとりで、試合を決めちゃいそう。

そういう岡崎さんなら、あこがれる……。

 

あ、

あれっ、

あこがれ――!?

わたし、

岡崎さんに、

あこがれてるの?

岡崎さんを、

カッコいいって思っちゃってるの?

 

思っちゃってる、

思っちゃってるんだ。

想い描いた岡崎さんの姿が、

まぶしくなる――。

 

ちょ、

ちょっとまって、

想像も妄想も限度ってものがある、あるはずなのに。

 

違う、

違う、

でも違わない、

ちょっとまってよわたし、

気持ちに整理をつけてよ。

わたしはただ岡崎さんのそんなイメージをカッコいいと思ってしまっただけで。

カッコいいだけ、それだけ。

で、

でも、

岡崎さんを――「カッコいい」って認めてしまった、

それは事実で。

 

 

 

あしたどんな顔して岡崎さんに会えばいいの。

もう夜の11時過ぎてる。

眠れなくなった。

平静を保てない。

あしたが来るのが、果てしなく遠く感じる。

こんなことってあるの。

こんなことって。