【愛の◯◯】あすかちゃん、ごめんね、お詫びにお菓子作ってあげる

昼間から戸部邸(休校なので)

 

 

・猛烈に勉強中

 

「…ものすごい気迫。」

 

「あすかちゃん」

 

「おねーさん、ものすごい気迫で勉強してますね」

「テスト勉強」

「え、期末テストなくなったんじゃ」

「それがあるのよねぇ。

 新年度はじめに、振り替えで、『実力テスト』になった」

「ははぁ…なかなか厳しい…さすが、超名門校」

 

「じゃあわたしもおねーさんと勉強しましょう」

「それがいいわね」

 

× × ×

 

「おねーさん、すこし休憩して、お茶でも飲みませんか?」

「休憩にはまだはやい」

「いやあの、こっちがついていくのがしんどいのですが…」

「べつにわたしにあわせる必要ないよ」

 

「……あせってるんですか?」

 

ピクッ 

 

「焦ってなんかないよ、これが普通」

 

「しゃべり方からしてあせってるじゃないですか!」

 

「そんなことないよ…、

 どうして焦ってるってあすかちゃんにわかるの?」

 

「…おねーさんがテストの成績で苦しんでるのを見てきてるからに決まってるじゃないですか」

 

「た、たしかにわたしの成績は伸び悩んでる、

 だから一生懸命勉強してる、

 これぐらいが本来のわたしの勉強、

 去年は、怠けてた部分もあったからーー焦って勉強してるわけじゃないの。

 わかってあすかちゃん」

 

「………お湯沸かしてきます(プイッ)」

 

× × ×

 

「(投げやりに)おねーさん、はい、お茶」

 

・ゴツン、と湯呑みを置く

 

 

ーーあすかちゃんが、

わたしの顔を見てくれない。

 

修羅場かな?

 

怒らせちゃった、か。

 

怒らせちゃうのは、マズいな。

 

去年の、何月だったっけ、1学期、

「お互い高校生にもなってケンカなんてみっともないことしない」

って約束したんだけどな。

 

どうしよう…わたしもあすかちゃんの顔が見られない。

 

教科書の文字があたまをすり抜けていく。

 

やっぱ焦ってたんだ、

余裕なかったんだ、わたし。

 

あすかちゃんと仲直りしないと、勉強どころじゃない…… 

 

 

・あすかちゃんが淹(い)れてくれたお茶をグビッと飲む

 

・そして……

 

 

「ーーごめん、わたしがまちがってた」

 

 

「おねーさん……」

 

 

「ーーやっぱり焦ってたよ、わたし。

 ごめんね、突っぱねちゃった」

 

 

「に、二度あやまらなくてもいいです。

 わたしからケンカふっかけたようなものだし。

 

 ただーーおねーさんがちょっと心配だと思ったんです、だからあんなことばが出て。わかってください」

 

「わかってるよ。

 

 こんなとき、利比古がこの場にいたら、仲裁してくれるかな」

 

「ど…どうでしょうか」

 

「利比古が来たら、この邸(いえ)、もっと楽しくなるよ。

 さっきまでみたいに、わたしとあすかちゃんでピリピリしてしまうこともなくなる。

 もっとアットホームになる」

 

「あの…」

 

「なあに?」

 

「利比古くんと、わたし、仲良くできるでしょうか……」

 

「うーん、どうだろう」

 

「えっ!? 微妙なんですか」

 

「だって、一緒に暮らしてみないとわかんないよ。

 ケンカするかもしれないし」

 

「利比古くんとわたしが、ケンカ?」

 

「だから、利比古があすかちゃんになんかヘンなこと言ったら、遠慮なくわたしに言って。

 たぶん大丈夫だと思うけど」

 

「お、弟さんにあんまり怒らないであげてください」

 

「でもだったらだれが弟を『しつける』のかって話」

 

「利比古くんだってもう大人だと思いますよ! 高校生になるんだし。

 あの…お仕置きとかするのは…ウチの兄でじゅうぶんです……」

 

「(小さく笑って、)

 きっと、仲良くやっていけるよ、あすかちゃん、利比古と。

 

 (おもむろに立ち上がって)

 さーて、

 お菓子、作ってあげる」

 

「!? 勉強はもういいんですか」

 

「お菓子作るのも勉強だし、

 なにより、あすかちゃんにイヤな思いさせちゃったし」

「わたしはイヤな思いしてませんよ」

「そ・れ・で・も!

 

 なーにつくろっかなーっw

 とびきり甘くて美味しいの作ってあげる」

「おねーさん、わたしも手伝います」

「い・い・か・ら!!w

 

 わたしに任せなさい。

 わかったかしら?

 わ・た・し・が・作ってあげるって言ってるのっ」

 

「やっぱ強いや…おねーさんは」

「ふふんw」

「気持ちの切り替え…早くて、強い」

 

・キッチンに歩いていくわたし

 

 

「……このお返しは、いつがいいですか」

「お返しなんていらない」

「強い…。

 強い、けど、

 その強さが空回りするようなことがあったら、

 わたし、おねーさんを助けてあげる。

 頼ってくれていいんだよ、おねーさん」

 

 

(^_^;)なぜか、途中からタメ口になってる。

自分に言い聞かせているのか。

 

 

「どっちがより強いか」の問題じゃなくて、

あすかちゃんだって、

強くないわけないじゃないの。

 

あー、

でも、

たぶん利比古よりは、あすかちゃんのほうが強いかなー?

 

もっとがんばれ利比古。

ファイトだ利比古。

このお邸が、あんたを待ってるよ。