【愛の◯◯】さやかの志望校と、わたしのなかの「確信めいたもの」

国公立大学の二次試験が始まった。

 

二次試験を受ける先輩たちは多く、3年の教室はもぬけの殻みたいだ。 

 

『すっきりしない天気だね』

 

「さやか。どっから来たの?」

「どっからって、教室の入り口からに決まってるでしょ」

「ほんとだ……w」

 

「アカ子はどうしたの」

「知らない。放課後になったらどっかに行っちゃった。

 ハルくんと通話でもしてるのかなw」

「(-_-;)あのねー」

 

「アカちゃんは偉いよ。

 ーーけっきょく、今年度は、アカちゃんに一度も成績で勝てなかった」

「まだ期末テストがあるじゃない。

 愛はもっと負けん気(き)が強いと思ってたよ」

「負けん気ってw」

 

「たしかにアカ子は偉いね。

 ハルくんとつきあい始めたら、学業おろそかになると思いきや」

「ならないよ、彼女は。どうなっても、ならないよ」

「なんでわかんの?」

「そりゃ中等部のときから知ってるからよ」

「なるほど…」

 

「でも、さやかだって偉いんだよ」

「? どゆこと」

「さやかだっておんなじだよ。とうとう今年度は、わたしよりずっと成績がよくって」

「…期末で挽回しなよ。期末でわたしに勝ちなよ」

 

「…そだね。」

 

「ーー愛、『勉強より大事なものもある』って顔してるね」

 

「…そう?」

 

「『勉強より大事なものもある』ってのは、そりゃ当たり前だよ!

 だけど……そうだけど、勉強だって大事でしょ」

 

いつの間にか、わたしとさやかは、窓際に移動して外を眺めていた。

 

「わかってるよ」

「ほんとにわかってんの?」

「うん…わかってるって言ったけど、じつは自信ない」

「(-_-;)……」

 

「あそこに桜の木があるじゃない?

 あの木に桜が咲く頃になったら、わたしの進路希望を愛に開示するって、年末に言ったんだけど、おぼえてる?」

 

(コクリ)

 

「まだ桜の開花には早いんだけどさ、

 

 ーー言っちゃおうかな。」

 

「いま?」

「いま。」

 

 

「(小声で)言うと周りに聞こえちゃうよ」

「べつにいいよ、

 ちょーっと愛が心配になってきたからさあ」

「……自分の志望校を言って、チャレンジ精神を呼び起こしてもらいたい、と?」

「前はあんたのほうが成績よかったでしょ、というか学年1位だったじゃん。

 ほんらい、チャレンジ精神持つのはこっちのほうだったのに。

 

 (つぶやくように、)正直言って、学年6位とかのままで、愛にはいてほしくないんだよ、わたし」

 

「まあ、それは、わたしがわたしで努力するしかないし。

 それにさやか、あんたの志望校も、おぼろげにわたしにはわかってきてるし」

 

「じゃあやっぱわたし言うよ、わたし具体的な志望校言うよ」

 

「…なら、耳、貸すから」

「なに? 自分の耳もとにだけ、ささやいてほしい、ってこと?」

「じゃなきゃ聞かない、あんたの進路希望」

「……不真面目。」

 

 

・耳もとで志望大学を言うさやか

 

 

 

 

「意外性……ゼロだったw」

「(腰に手を当てて)まったく、世話が焼ける」

「なにが?w」

「こっちの話。

 

 …でもアカ子だって受けるんじゃないの? わたしと同じ大学」

「アカちゃんは東大は受けないよ」

 

「ばばばばかっ、『耳もとでささやけ』って言ったのはどこのだれだっ」

「とにかくアカちゃんは東大受けないから。はっきりとした理由もあって」

「(拳を握りしめ)それより個人情報をむやみに教室に撒(ま)き散らすなっ💢このバカ💢」

 

「さやかちゃん、穏やかじゃないわよ」

 

「アカちゃんだ」

「アカ子、いつの間に」

 

「愛ちゃん」

「どこ行ってたのよ、アカちゃん」

「(華麗にスルーして)ダメでしょ~? 

 さやかちゃんだけでなく、わたしの個人情報も開示される寸前だったみたいじゃないの……」

 

 

 

「ごめんなさい。ふたりとも。

 でもゆるして」

 

「だめ、ゆるさない」

「どうしてなの、さやか……」

「ゆるすなら条件がある」

「条件?」

「今度の期末で、わたしとアカ子より上の成績になること。学年1位に返り咲きを目指してほしい。」

「さやかちゃんの提案、いいと思うわ。がんばって、愛ちゃん!」

 

 

 

…タハハ。

 

ちょっとだけ大変なことになってきた。

さやかとアカちゃんにもがんばってほしいけど、わたしはもっと期末の勉強がんばらなくちゃいけなくなった。

 

でも…重圧だとは、思わない。

前向きに、勉強がんばってみよう。

スタミナには自信あるんだから。

猛勉強だ。

 

 

ーー「学年1位」か。

学年1位になっても、さやかの志望大学は、受けないかもなーー、

 

なんとなーく、「確信めいたもの」が、わたしの心のなかに芽生えたのであった。