いよいよ、キョウくんの合格発表。
葉山家
わたしとキョウくんだけ
「良かったの? わたしがキョウくんのところに行かなくても」
「むつみちゃんがしんどいだろ。発表見たら、すぐに家族には連絡する。
……落ちてたら、東京観光でもしようかな」
「ばかっ、そんな弱腰でどうするのっ、発表の前から」
「そうだよね、やることはぜんぶやったんだし、なに考えても、しょうがないよね」
「その通りよ。
……万が一、ダメだったら、なぐさめてあげるから」
そうやって、ふたりで微笑みあった。
× × ×
わたしはベッドに座っている。
キョウくんは机に向かい、わたしのPCで早稲田のサイトにアクセスして、合格発表の時刻(とき)を待ち構えている。
・合格者発表時刻
・PCを操作するキョウくん
・
・
・
「……どうだったの?
無言じゃダメよキョウくん、なにか言ってよーー」
「受かってる」
「ーーーほんとにーーー」
「見てよむつみちゃん、画面。まちがいないよ、おれ、受かってるよ!!」
「ーーーーほんとだ。」
PC画面を確認した次の瞬間。
キョウくんに抱きついて、
仰向けにベッドに倒れ込んで。
キョウくんをぐいっと引き寄せるようにして、
彼の肩を抱きしめて、
たぶんわたしは泣いていて、
キョウくんも、ベッドも、
もみくちゃにして、しわくちゃにして、
「おめでとう」のひとことも言えずに、
ひたすら、むしゃぶりつくように、
キョウくんのからだに、からだもこころもぜんぶ預けてしまっていた。
「…ごめん。
ケガ、してない?
いきなりこんなことしちゃって」
「してないよ。
きみがうれしかったのが、伝わってきたよw」
「でもいちばんうれしいのは…あなたのはず。
おめでとう。そして、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
「親御さんに連絡してあげて、すぐに」
「そうだね」
キョウくんが連絡しているあいだに、ベッドのもつれを直そうかとも思ったけど、せっかくだからーーしわくちゃのままにしておいた。
「(スマホを置いて、)ふう。
信じられないよ。
信じられないけど、信じていいんだな」
「当たり前。
信じるもなにも、
叶えたんだから、夢を」
「まだ叶っちゃいないよ。
夢への、第一歩さ」
「でも、大きな大きな一歩よ。
キョウくんにとって」
「むつみちゃんにとっても、ね」
・キョウくんの決めゼリフに対し、ことばが出なくなってしまうわたし
「きみが…恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。
そんな赤くなって」
キョウくんの肩に手をかけて、
また、彼をわたしのほうに引き寄せ、
とってもとっても距離が近い彼に、
声を振り絞るのが精一杯だった。
「おめでとう。
あらためて。
…好きよ」