戸部邸
「じゃ……行ってくるね、アツマくん。
今日は帰らないから。
悪いね、夕ごはんと朝ごはんの当番、急に代わってもらって」
「いいってことよ、ヒマだからどうせ。
ヒマだったら、邸(いえ)のために何かしたいからさ。」
「いつか、美味しいもの作ってお返しするからね」
「よろしく」
× × ×
『向こうに迷惑かけんなよ』と、釘をさされた。
(-_-;)とくに、炭酸飲料には、絶対に口をつけるな、と。
× × ×
某マンション
伊吹先生夫妻のお部屋のドア
あたりまえだけど、「白川」って書いてある。
学校では、「伊吹先生」って呼びつづけていたから、
少し、調子狂っちゃうな……w
(チャイムを押す)
(向こう側から)『は~い』
♪ガチャ
「よく来たね~、ほら上がって上がって」
「伊吹先生、そのっ、お世話になります」
「カタくなっちゃってぇw」
「だって……」
「表情がカタいよぉ。
(おもむろにわたしの頭に手を置いて)
リラックス、リラックス。
ーーあたしたちは、自分の教え子がいちばんカワイイんだからさぁw」
「ーー先生が言うと説得力ないですね」
「エッ」
「冗談です冗談ww ごめんなさい」
「だよね~ww」
「おじゃまします、先生」
「どうぞ~~」
× × ×
伊吹先生「武彦くん、彼女が、あたしの教え子の羽田愛さん」
わたし「羽田愛です。ひと晩ですけど、ご迷惑をおかけします」
ダンナさん「よろしく。
迷惑かけまくっていいんだよ、羽田さんw」
わたし「えっ…」
伊吹先生「ホントよ。好きなようにしてもらったほうが、こっちもうれしいから」
ダンナさん「そ、そ。えんりょはいらないw」
わたし「じゃあ……。
わたし炭酸飲料飲むと、酔っぱらったみたいになっちゃうので、
そこだけ自重します」
夫婦『wwwwww』
わたし「(ソファに腰を下ろして)あの、先生荷物はどこに、」
伊吹先生「荷物は後回しにして、」
わたし「?」
(わたしのお腹にクッションをぽふ、と押し付ける伊吹先生)
わたし「……いきなりなんですかっ」
伊吹先生「このソファ、きょうとあすだけ、あなたのもんだから」
わたし「(クッションを抱きながら)ーー好きに使っていい、と?」
伊吹先生「(*´ω`*)えんりょしないの」
わたし「じゃあえんりょしません!!
(クッションをわしづかみに抱きしめて、ソファにふんぞり返るようにもたれる)
ーーいきなりおなかにクッション押し付けないでくださいよ。
びっくりするでしょ。」
伊吹先生「メンゴメンゴw」
わたし「まったくもう…」
伊吹先生「羽田さんらしくなってきた。
いい感じ、いい感じ」
ダンナさん「うん、羽田さん、ウチに馴染んできてるね!」
わたし「わたしもう馴染んでますか!?
(^_^;)なんか真面目じゃなくて、すみません」
伊吹先生「あなたの真面目そうで真面目じゃないとこ、好きだよあたしは」
わたし「いやそれはほめられてるのかほめられてないのかわかんないです…」
× × ×
わたし「……フランス文学だったら、スタンダールやフローベールやアンドレ・ジッド、ヌーヴォー・ロマン近辺はあまり詳しくないけど、ル・クレジオを読んだりしてます」
ダンナさん「すごいなあ。今どき珍しい、文学少女じゃないか」
わたし「でも今どき珍しい趣味の古さですけどw」
伊吹先生「……文学の話で盛り上がってたの?」
ダンナさん「海外文学談義が盛り上がってたんだ」
伊吹先生「羽田さん、あたしより文学に詳しいのよ」
わたし「ぷ、プレッシャーかけないでくださいっ!」
伊吹先生「武彦くんの本棚、翻訳書ばっかりだもんね」
ダンナさん「きみ専用の本棚もあるじゃないか」
わたし「(テンションが上がって)えっ!
わたし、先生の本棚、見たいですっ!!」
伊吹先生「うふふ…あとで案内したげる♫
でも、日が暮れてきちゃったじゃん。
そろそろ夕ごはんの支度、ってところじゃない?」
わたし「ごっごめんなさい。文学談義に夢中で時間を忘れてました。
わたし買い出しに行ってもよかったのにーー。
なんなら、わたしが夕ごはん、作りましょうか?
(強気に)料理の腕には自信があるんです。」
伊吹先生「気持ちはうれしいけど……」
わたし「け、けど!?」
伊吹先生「せっかく土曜の夜なんだし…。
あのね羽田さん、
あたし、こう見えても、
料理の腕、自信あるのよ!」
わたし「( ゚д゚)ポッカーン」
ダンナさん「きみは料理得意だからなあ」
わたし「( ゚д゚ )え、ええっ、それ、ほんとなんですか…!?」
ダンナさん「騙されたと思って食べてみるのがいいよ~」
伊吹先生「羽田さんはくつろいどいてよ。
ぜんぶあたしが調理するから。
…久しぶりに、腕が鳴るわね~~」
意外だった。
ほんとうに意外だった。
伊吹先生、
料理、するんだ。