戸部邸
あすかの部屋
スポーツナビのテキスト速報で、ACLのサンフレッチェvsメルボルン戦の行方を見守りながら、校内スポーツ新聞のバックナンバーを読み返している。
ハルさん。
ハルさんが、「サンフレッチェって強いの?」って訊いてきたことがある。
・・・・・・
『で、サンフレッチェ強いの? 戸部さん』
『やだな~、「あすか」、でいいんですよww』
『そうだよな、”妹さん”』
『だwwだからwww「あすか」でいいってwww言ってるじゃないですかwwww』
『タハハ…そりゃそうだな、あすかさん』
『ーーーーーーーーーーー』
・・・・・・
ハルさん。
ハルさんに、「あすか」さんと、名前で呼ばれた瞬間に、
胸が、とくんーー、1秒だけ高鳴って。
その胸の高鳴りはやがて、ちくり、というーー針で刺された痛み、針が中まで食い込んでしまったかのような、小さいけれどしたたかな痛みに変わっていって。
わたしはハルさんの写り込んだ写真を撮り重ねて。
ハルさんは、どのサッカークラブが強いのか知らない。
わたしは、それがハルさんの個性なんだと思った。
そのハルさんの個性が・・・好きだ。
でも、
そんなこと、
アカ子さんはとっくに気づいている。
いつだって、ハルさんに距離が近いのは、わたしよりも、同学年のアカ子さんのほうだった。
あたりまえ。
鎖骨のあたりが、チクチク痛むような錯覚がした。
サンフレッチェが1点リードしている。