湘南地方
来てしまった。
ひとりだけで。
幼なじみの鎌倉キョウくんが、
住んでいる土地にーー
行きの電車。
なんとかガマンできた。
でも、
キョウくんに6年ぶりに会うと思うと、
そこはかとなく胸が苦しくて、
何度か深呼吸をして、
ほかの乗客に変な目で見られたかもしれない、
ーー、
だ、だめ!!
マイナスの思考回路になっちゃ、だめ、わたし!!!
「(・_・;)たぶん…ここらへんが、キョウくんの住所の近く」
「ーーーーーー」
足が止まる。
脚がぶるぶる震える。
手のひらにじんわりと汗をかく。
まるでわたしの目の前に、開けちゃいけない部屋のドアが存在しているみたい。
そのドアを開けたら、わたしの心臓は張り裂けてしまうかもしれない。
勇気……、勇気。
でも。
「雨が降ってきた……」
「傘、傘」
「あ、あ、折りたたみ傘、落としちゃった。
どうしよう、
気分が悪いかも、
このまま、雨に濡れて、うずくまっていたら、通る人にヘンにみられちゃう」
たすけて、
たすけて、
でも、
わたし、
だれをたよるの。
八木が、電話で、受験の結果を伝えてきた。
「わたし、日東駒専もひっかからなかったよw」
そう伝える八木の声に、卑屈さは微塵もなく、朗らかだったーー。
歩き出さなきゃ。
八木は自分でもう一度歩き出そうとしている。
だったらわたしもわたしの足だけで歩き出さなきゃ。
「でも、でも、わ、わたし、
たちあがれない。
「むつみちゃん?」
「(゜o゜; きょ、キョウくん!?」
「そうだ、むつみちゃんだよね、キョウだよ、覚えててくれたんだね。」
キョウくんだーー、
キョウくんが、助けてくれる。
キョウくんに、
身体を起こしてもらって、
傘をさしてもらって……。
キョウくんの肩にすがりながら、
相合い傘で、キョウくんの家まで、いっしょに歩いた。
「むつみちゃん、からだ弱かったもんね。
ごめんな。
もうちょい早く迎えにいきゃあよかったな」
「わたしひとりで行かなきゃだめだと思ったの。
じ、自信は……なかったけど。」
「よくがんばったんだな」
涙が止まらなかった。
キョウくんのお父さんもお母さんも、ぜんぜん昔通りで。
とりあえず、濡れた服を、着替えられるだけ着替えて。
お母さんのいれてくれた紅茶を飲んで。
用意してもらっていたお昼ごはんを4人で食べて。
窓辺に雨が降りしきるなか、
午後は、 昔話に花を咲かせ、
それから、
離れ離れになってからの、
キョウくんとわたしの6年間のことについて、
じっくりと語り合った。
で、「どうやって帰ったか」、って?
ヒ・ミ・ツ。