【愛の◯◯】絶妙な手さばきのナデナデを見て◯◯

 

羽田愛(はねだ あい)の彼氏さんの戸部(とべ)アツマさんの実家たる邸宅に来ている。

 

あたし、太刀川(たちかわ)ヒカリ。5月3日生まれの23歳。神奈川県生まれの神奈川県育ちの神奈川県住み。大学も神奈川県の某・国公立大学だったんだけど、2026年度からは、東京都心の某・大学の大学院に通うコトになる。

羽田愛とは、昨年の9月に高知県高知市で知り合った。『ひろめ市場(いちば)』というスポットで出会い、瞬く間に意気投合した。愛は、あたしが進むコトになる大学院の在(あ)るキャンパスの学部5年生だった。そのコトが判った時、『この娘(こ)とあたしは運命の糸で繋がっているのでは?』と感じた。

高知旅行の最終日は2人とも同じ日だった。『旅行から帰ったあとで必ず会おうね』と高知駅で約束した。その約束通り、あたしの住む家を愛が訪ねたり、愛がかつて住んでいた邸宅をあたしが訪ねたりを何回か重ねた。

『愛がかつて住んでいた邸宅』というのが、本日お邪魔している、戸部アツマさんの実家たる邸宅なのである。

 

× × ×

 

アツマさんと会うのは初めてだった。ようやく会えた。

広々とした玄関ホールと凄く大きなリビングを結んでいる通路で、アツマさんが出迎えてくれた。『はじめまして』の挨拶を交換した。

『逞(たくま)しそうなヒト』が第1印象だった。180センチ近くて、170センチ超えのあたしよりも身長が高い。何より、『あのひと』よりも数段、カラダがガッシリしている。『あのひと』は、あたしと背丈がそんなに変わらないし、厳しめに言えばヒョロヒョロな体格なのだ(そこが『良(い)い』とも言えるんだけどね)。

彼はあたしを見下ろしながら、『邸(ここ)に来るの、疲れたでしょ』と言ってくれたあとで、

『ダイニング・キッチンで愛が待機してるんだが、ヒカリさんは、飲み物は何がいいかな?』

と訊いてきたから、すかさず、

『ヒカリ〝さん〟って呼ばれるより、ヒカリ〝ちゃん〟って呼ばれる方が嬉しいです』

と、『くすぐって』みた。

『んんんっ……』

と声を出す彼がたじろいでいるのが、表情を細かく見なくても分かった。

 

× × ×

 

さてダイニング・キッチン。あたし・愛・アツマさんの3人だけが居る。あたしの向かいに愛&アツマさんのカップル、あたしから見て右には愛、左にはアツマさんが着席している。

茶店員のアツマさんが、あたしのために、ホットカフェラテを作ってくれた。意外と言っては失礼だけど、可愛らしいラテアートも描いてくれた。

あたしが、半分近く飲んだカフェラテのカップをテーブル上に置いたら、愛が、入れ替わりのようにして、ブラックでホットなコーヒーの入ったカップを口元に寄せていった。

ぐい、と飲んだ直後に、

「ヒカリ」

と呼んできて、

「三ヶ日は、どんな感じだったの!? あなたの恋人さんと、いろいろなコトをしてたんじゃないの!?」

と物凄い勢いで訊いてきた。

一気に訊いてきた愛の迫力にビックリして、あたしと『あのひと』のカンケイに興味を持ちまくっていそうな彼女に対する応答のやり方を見失ってしまう。

「コラッ、おまえお行儀が悪過ぎるぞ。23歳のくせに、13歳みたいにはしゃぎやがって」

叱るアツマさん。彼が愛を叱るのを初めて目の当たりにする。

「『13歳みたいに』!? わたしのコトどこまで『お子様』だと思ってんの、叩くわよ!?」

暴れるように抵抗する愛。もう少しで、アツマさんの胸板を両手でポカポカ叩きそう。

夫婦ゲンカに限りなく等しいケンカが始まっちゃうんじゃないか……と不安になる。

でも、

「おれに『制御』されたいみたいだなー」

とたしなめた次の瞬間に、アツマさんは愛の頭頂部に右手をぽん、と置き、絶妙な手さばきでナデナデし始めたのだった――。

 

× × ×

 

あたしは今、駅の改札口。帰りのJRに乗車しようとしているトコロだ。

Suicaをタッチして改札内に入り、ホームへの階段に向かう。

階段を上がっていくのと連動して、愛のデレデレぶりが脳裏に蘇ってくる。アツマさんに頭をナデナデされて急速に赤面していった愛は中学生の女の子みたいだった。愛は、13歳みたいにはしゃいだあとで、アツマさんによる頭ナデナデを食らって、13歳みたいに恥ずかしがっていた――。

 

帰りの車内では座るコトができた。バッグの中の本を読むコトも可能だ。でも、あたしは敢えて何もしない。眼を柔らかく閉じながら、ステキなカップルのステキ過ぎるやり取りを思い浮かべ続ける。

微笑ましさの中にあたしは浸る。微笑ましさとはもちろん、愛&アツマさんカップルの微笑ましさ。まるで、バスタブ内のちょうどいい温度のお湯みたいな……そんな心地良き微笑ましさに浸り続ける。

浸り続けるがあまり、微笑ましさ以上のモノを感じ取る。『微笑ましさ以上のモノ』がいったい何なのか、上手くコトバにできない。表現力不足かな。

ただ1つ言えるのは、

『今度、『あのひと』に会ったら、ゼッタイに、『ナデナデして……』って、要求するんだ』

という想いが、あたしの中に湧き上がり始めているというコト。

要求したら、素直に従ってくれるはず。

物足りなかったら、コドモっぽい表情とコドモっぽい声音を作って、『そんなんじゃマンゾクできない。あたしがナットクできるまで、ナデナデ中断するの禁止』って言ってやるんだ。

『あのひと』は、あたしより年上。だけど、遠慮したコトはほとんど無いし、これからも、遠慮するつもりなんて無い。