【愛の◯◯】ミニマリズムな親友は先生と仲良し

 

「こんなカフェ、あたしの財力だとなかなか来れないのよね。両親がお金に厳しくて、お小遣いをあまり出してくれないから」

そう言ってからアップルティーカップに注(つ)ぎ足すあたしに、

「それなら、今日の支払いの4分の3はわたしが出してあげるわ?」

と、おっとりまったりした声で、万都(まつ)が言ってくれた。

ありがたい。

だけど、

「4分の3なんて、精確に計算できるのかな」

「細かいコトは置いておきましょうよ、素子(もとこ)〜。今は、お茶をゆっくり楽しみましょう?」

はぐらかされた。

万都は、細かいコトを気にしないタイプ。でも、細かいコトを放置しっ放しにする時があって、そこが難点だ。

あたしがちゃんと伝票を見るべきよね……と思いつつ、万都の手前のグラスを眺める。抹茶カフェラテ。定番といえば定番のカフェラテ。そして、万都という女の子に非常に似つかわしい飲み物である。見た目も中身も、万都はそんな女の子。

「この抹茶カフェラテがそんなに気になるの?」

あたしの注目を覚(さと)られたから、抹茶ラテから眼を逸らす。それから、手元のテーブルに両手を重ね、やや間(ま)を置いてから、

「抹茶ラテを凝視しててゴメン。相手の飲み物を変な眼で眺めるなんて、ダメよね」

と謝る。

穏やかなニッコリ顔を見せ続ける本日の相方に対し、

「話題は変わっちゃうけど……。万都、あんた、今日、カバンに参考書とか問題集とか入れてきてる?」

向かいの万都は、どういう文脈でもってあたしが話題を変えたかを理解した表情で、

「英単語集なら、1冊。電車の中でも読めるから」

1冊だけ、か。

「英単語集1冊だけだなんて、ずいぶんと余裕に満ちてる気がしちゃう」

「素子にはそう見えるの?」

やや肩をすくめ、

「見えちゃう」

と返答。

すると、

「わたし最近、ミニマリスト志向だから」

と万都が、いきなり。

「……唐突ね。唐突なミニマリスト宣言ね」

「宣言じゃない。志向してるだけ」

ミニマリストってさ」

あたしは、重ね合わせた両手をアゴの下にくっつけて、

「女子高校生には、なーんか、似合わなくない?」

「そうでも無いんじゃないかしら」

と万都。

「わたしは素子に、『ミニマリズム似合ってるわよ』って言ってもらいたいキモチがあるけど」

「イマイチよく分かんない。謎のこだわりに見える、万都のミニマリズムへのこだわり」

「こだわるわよ」

「どーして?」

「秘密」

「……おいおい」

 

× × ×

 

あたしはあたしのバッグに参考書を4冊入れている。万都の4倍。

あたしのアップルティーも万都の抹茶カフェラテも風前(ふうぜん)の灯(ともしび)だ。ほとんど飲み切っている。

スマートフォンを見て、夕方4時になろうとしているのを確かめたら、

「わたし、実はね、小泉先生から、本をお借りしたのよ」

と万都。

ほほお。

やるわね。

「仲が良くていいじゃないの。本の貸し借りだなんて、先生と生徒の間だと、なかなかできない気がする」

「あなたも、もっと小泉先生と仲良くなるべきよ、素子。卒業するまであと約半年よ?」

「あたしは……小泉先生とは、良好な関係、築けてると思うけど。部長として、顧問の彼女には、たくさんお世話になってるし。彼女はピチピチの若さだから、世代近くて、話しやすいし」

「先生を『彼女』って言うのって、なんだか変な感じもする。だけど、ふたりが信頼し合ってる裏返しであるとも言えるわね」

「それで……どんな本を、あんたは、小泉先生から?」

「ひ・み・つ・よ」

「秘密が、ちょっと多過ぎない!? 親友として教えてほしいんですけどねぇ」

強めの口調になってしまった。

言ってから、反省と後悔。

「もしかして、小泉先生に、妬いちゃってる?」

あたしの強めの口調を万都は気にも留めない。この子らしさと言ったら、この子らしさ。

でも、

「妬いてなんかないよ。あんたがいろいろ焦(じ)らしたりするのが、あたしには不満なだけ」

いったんうつむき、それから再び目線を上げる。

どちらかと言うと長めの黒髪の万都は、おっとりまったりフェイスを維持している。

「不満にさせちゃったのは、ごめんなさい」

と万都。

「まぁ、謝るほどじゃないから……」

とあたし。

「明日、わたし、学校に行ってみるつもり」

と万都。

「夏休み中なのに? 何をしに行くの」

「小泉先生に、借りた本を返す。それだけの用事」

「……ふーん」

「素子も来れば?」

「ど、どうしてよっ。あたしは用事なんか無いし」

「『財政難』なのを訴えれば、小泉先生が、お小遣いをくれるかもしれないわよ?」

「じょじょじょ冗談はやめてよ!? 先生にお小遣いもらったりしちゃったら大問題だよっ!?!?」

「ユーモアが無いのね」

「……バカっ」