【愛の◯◯】妹分ゆえに戯れて

 

おねーさんは今日もとってもキレイだ。

涼やかなスカートを穿(は)いてダイニングテーブルの椅子に腰掛けている。

おねーさんと愚兄のふたり暮らしのマンション。

午後2時台。愚兄はもちろん仕事場に行っている。したがって、わたしとおねーさんのふたりきり。

マンションに向かう道中のウキウキワクワクが今も持続しているわたしは、

「おねーさーん」

と呼び掛ける。

某野球雑誌をぱらぱらめくっていた手を止め、

「なーに?」

と訊くおねーさん。

「7月から、『愛ポイント』制度が始まったんですよね」

そう言ったら彼女は苦笑し、

「アツマくんがわたしに良いコトしてくれたら、『愛ポイント』を進呈するシステムね」

「それですそれです」

「でも、それがどーかしたの?」

「兄貴限定じゃズルいんですよお」

「あーっ……。あすかちゃんも『愛ポイント』貰いたいのね」

「さすがに、おねーさんは理解が早い」

「それなら……」

キレイな眼をわたしの眼と合わせ、

「初回特典で、500ポイントサービスしてあげるわ」

やったー。

だけど、

「初回特典500ポイント嬉しいです。嬉しいんですけど、500ポイント程度じゃ、わたし満足できそうに無い……」

「あすかちゃんは欲張りだもんねえ」

おねーさんが素敵に微笑む。

わたしは、

「例えば」

と言い、それから、

「『今日のおねーさんのスカートが清涼感に溢れてる』って言ったら、どのくらいポイント進呈してくれますか?」

「もーっ。『言ったら』じゃなくって、言っちゃってるんじゃないのー」

そうツッコミつつも、優しく透き通った声で、

「もう500ポイント、追加で進呈してあげるわ」

「わ〜〜い」

いきなり1000ポイント貰っちゃった!

これは、兄貴と競争になるな。

 

× × ×

 

2杯目のブラックコーヒーを飲み切った愛しいおねーさんが、

「音楽活動の方はどうなのよ、あすかちゃん」

「わたしのバンドのコトですか?」

「うん」

「順調ですよー。奈美がボーカルに復帰するメドは立ってないけど」

「それってホントに順調なのかしら」と、おねーさんはまた苦笑い。

「2代目ボーカルの成清(なりきよ)くんがエネルギッシュなので、順調です」

「あははっ」

「ここだけの話ですが。成清くんとベースのレイが、最近、とっても仲良くて」

「え!? まさかのカップル成立!?」

「その段階ではまだ無いです」

「でも、いずれ進展して――」

わたしは敢えて押し黙り、含みのある笑い顔を作るのみ。

少しだけ戸惑ったおねーさんは、

「れ、レパートリーは、増えたのかな」

「若干」

「そう……」

「メンバー各自、気になるミュージシャンの音源を聴いて勉強していまして……」

「熱心なのね。向上心があって良いわ」

「わたしは、60年代終盤のスワンプ・ロックとかフォーク・ロックとかを聴いてます」

「すごいのね。『愛ポイント』、300ポイント追加してあげるわ」

「やったー! 瞬く間に累計1300ポイントに」

「ちゃんと記録しておかないとねえ」

優雅に椅子を立ち、素敵な足取りでリビングへ歩いていく。

おねーさん専用の横長の低い机。そこから、立てて納めていたノートを取り出し、腰を下ろして机と向き合いながらポイントを記録する。

わたしは、おねーさんを追って、リビングの奥の方に接近していく。

おねーさんの傍(そば)でカーペットに両膝を付けて腰を下ろすわたしに、

「あすかちゃん。あなた、『産まれる前のロック・ミュージックばっかり聴いてる』って言って自虐気味になるコトもあるけど」

そう指摘してからわたしに振り向き、

「自虐的になる必要なんか無いのよ? 時代関係無しに、それぞれがそれぞれの好きな音楽を聴くべきだと思うし。わたしだって、両親が青春時代を過ごした頃の楽曲をたくさん聴いてるし」

「具体的には」

ストーン・ローゼズとか。80年代末期のXTCとかも良いわよね」

ソニック・ユースとかも愛聴してるんじゃないですか? わたしの勝手な予想だけど」

「よくわかったわね。どうしてわかったの」

出たーっ。

おねーさんの決めゼリフ。「どうしてわかったの」。

笑いがこみ上げてきつつも、

「おねーさんのコトで、知らないコトの方が少ないんだし」

「そっかー。わたしをそれほどまでに慕ってくれてるってコトね」

「妹分の座は譲れませんから」

とってもスキンシップがしたくなってきた。

向かい合っているから、好都合。

このチャンスを逃したくなくて、おねーさんの左腕に、右手の人差し指と中指で触れてみた。

「もぅー、なによぉ、あすかちゃ〜ん」

そうは言うけども、彼女も戯れの笑い顔になる。

「おねーさんをくすぐったくさせたくて」

「え〜」

「いいでしょ?」

「まぁ、いいわよ。あすかちゃんだったら」

そう言ってくれたので、彼女の上半身に身を預けるがごとく前屈みになる。ハグ寸前。

「甘えたいのー?」

「ちょっと違うかな。甘えるよりも、もっと積極的になりたくて」

答えるやいなや、両手を素早く彼女の背中に回していくわたし。

「あ。エロいぞ。あすかちゃん」

「愚兄の居ぬ間になんとやら……ですよぉ」

エアコンの設定温度、ちょうど良し。

おねーさんの柔肌の感触が……素晴らしい。