「星崎さん」
「なーにー? ムラサキくん」
「星崎さんの仕事は大分融通が利くみたいですね。金曜日なのに、仕事場の名古屋から東京に帰って来られるぐらい」
「あれ〜〜? ムラサキくんって、社会のコト、そんなに無知だったの〜〜?」
「ぬな」
「利くのよ、融通! だから、母校の学生会館の『MINT JAMS』のお部屋を訪ねるコトもできるのよ」
「OG訪問の意図は何ですか」
「ムラサキくんの行く末が心配だったから」
「ぬななな」
「……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。いきなり押し黙って、ぼくの顔を凝視しないで欲しい……」
「あのね」
「は、ハイ」
「名古屋の某・放送局のローカル番組に、わたしが担当してる男の子アイドルが出演するのよ」
「それが??」
「ムラサキくん、思い切って、就職するんじゃなくてアイドルになったら!? 向いてるかもよ」
× × ×
「勧誘してくるような口ぶりだったから、サブイボが立ちましたよ!!!」
「あなたみたいな男の子が『サブイボ』なんて言っちゃだめよ」
「まったく、星崎さんは好き勝手に……。ぼく、PCで音楽流して、気を落ち着かせます」
「プレイリスト?」
「プレイリスト。」
「どんなコンセプトのプレイリスト? 年代縛りとか?」
「どうして分かったんですか。1996年の邦楽ヒット曲をまとめたプレイリストを、これから……」
「96年って何よ」
「何よ、と言われましても」
「96年ヒット曲プレイリストの再生にあなたを向かわせるモノは何なの」
「か、噛み砕いてください」
「……今日って、7月『6日』よね? まさか、『6日』だから、199『6』年のプレイリストを再生しようとしてるんでは……!」
「せ……正解です、星崎さん」
「なーんか、手当たり次第、って感じするね、あなた」
「手当たり次第?」
「今すぐには、わたしのコトバ、呑み込めないかもしれないけど。それはそうとして、どーして、『1996年』なの? 2006年でも2016年でも良いじゃないの」
「90年代後半のJ-POPがしっくり来るからです」
「なにそれー。ムラサキくんの産まれる前なのよ?」
「星崎さんだってそうでしょ」
「ゆとり世代の知り合いが居たりする? 96年とか、ゆとり世代が物心つく頃だし」
「居ますが」
「おおおー。どこで知り合ったの?」
「SNSで」
「それから、オフ会したり?」
「いえ、してません。タイムラインの上だけでの交流です」
「……なによっ。なんなのよそれっ」
「ほ、ほ、星崎さん!? 不自然なくらい唐突に怒りだす理由は……!?」
「怒(おこ)りんぼなの。これが『わたしらしさ』なのよ」