【愛の◯◯】乱調が極まり密着も極まる

 

今日もサークル部屋の『幹事長席』に座っている。

わたしの近くの席にいる後輩の和田成清(わだ なりきよ)くんがアニメソングについて熱く語っていて、わたしはそれを聴いている。

テレビアニメの主題歌がお題だった。

かつてはアニメの内容と関係の無い楽曲が目立つ時期もあった。特にフジテレビのアニメに顕著だったと成清くんは指摘する。

「おれたちが産まれる前の話ではあるんですが……」

「成清くんは、そういった『現象』についてどう思ってるの? アニメと関係の無い曲がテーマソングになるのは、やっぱりおかしいと思う?」

彼はモゴモゴと、

「『是非』については……コメントは……しないでおきます」

どうしてかなーっ。

「どうしてモゴモゴするのよ。ハッキリ意見を言っても良いじゃないの。どうせわたししか聴いてないんだし」

わたしと成清くん以外に誰も居ないサークル部屋だった。

「たとえタイアップであっても、作り手にタイアップするアニメ作品のコトをリスペクトする気持ちがあれば、それでOKなんです」

あー、逃げちゃったかー。

「わたしの要求から逃げるなんて成清くんも良い度胸してるわね」

「はっ羽田センパイ!?」

激しくキョドる成清くん。

わたしは楽しくて、

「ジョーダンよぉ、ジョーダン」

と言って、その後で、

「あなたそれなりに話をはぐらかすテクニックは持ってるみたいだけど、手強い相手には通用しないかもしれないわよ」

「ど、どーゆうコトっすか」

「ふふーん♫」

「センパイ!?」

 

× × ×

 

昼下がりのダイニングテーブル。

「サークルのお部屋に成清くんが居たから、からかってイジめちゃった」

わたし専用マグカップに注いだ熱くて黒いコーヒーを飲んでから、眼の前のあすかちゃんに言った。

マンションに来てくれたあすかちゃん。あすかちゃん用のマグカップにはミルクティーが入っている。そのマグカップの取っ手を持ってあすかちゃんは、

「そんなに成清くんはイジりがいがあるんですかー? おねーさーん」

「うちのサークルの後輩男子はみんなそうよ」

「年下の男の子で遊び過ぎなんじゃないですか〜〜?」

あすかちゃんはニッコリとたしなめる。

「あらぁ。あすかちゃんだって年下の男の子で遊ぶのは楽しいんじゃないの?」

「ぬぬ」

可愛いリアクションを見せてくれたかと思うと、徐々に思案顔になり、

「コメントは、差し控えます」

へぇ。

さっきの成清くんみたいなコト言うのね。

あすかちゃんよりも1つ年上の優しさで、話を転換させるコトにして、

「成清くん関連だと、『ソリッドオーシャン』はどうなの?」

「わたしたちのバンドの近況ですか?」

わたしは頷く。

「好調ですよ。成清くんのボーカルもGOODです」

「彼は元々、奈美ちゃんのピンチヒッターで入ったのにね」

「奈美はもうちょっと外国語の勉強を続けたいみたいで」

「頑張ってるのねぇ」

「成清くんと言えば、なんですけど」

「エッ、なになに」

「成清くんと、レイが……」

「ベースのレイちゃんと!? わたしそういう話題だったらこれ以上激しくなれないぐらい激しく気になるわ」

苦笑のあすかちゃんは、

うどん屋さんに2人で行ったってだけですよ」

うどん屋さんでデートしたってコトじゃないの。晩ごはんをそこで食べたのなら、そのあと……!」

「おねーさんストップストップ。怒られちゃいますよー」

「どの方面から怒られるの」

「いろいろな方面から」

 

× × ×

 

ソフトにリスニングできるBGMを流しながら、リビングのソファに隣り合ってゆるゆると座っている。

「うどんといえば讃岐うどん讃岐うどんといえば香川県香川県といえば四国地方

そう言ってわたしは、

四国地方には今まで1度も行ったことが無いの。いつかは旅してみたいわ」

するとあすかちゃんが、

「おねーさんは氷室冴子の『海がきこえる』って小説知ってますか?」

「知らない」

「香川じゃなくて高知が舞台なんですけど、それでも四国を舞台とした小説の有名どころでして」

「そうなのね」

高知市内に『聖地』があるんですけど、わたしの知り合いで最近『巡礼』してきた人がいて」

「どんな人?」

何故か答えを返してくれないあすかちゃん。ただひたすらニッコリニコニコと隣のわたしを見つめてくるだけ。

「こ……答えられないってコトは、それこそ、答えちゃったら各方面から怒られたりしちゃうの」

「そんなコトは無いです。でも」

一気にあすかちゃんがカラダを寄せてきた。

わたしの肩にあすかちゃんの肩が密着した。

「わたしはそんな質問に答えるよりも、おねーさんにギューッとしていきたいかなーって」

乱調!?

「今日は5月下旬にしては気温低いですよね? おねーさんに引っ付いてあったまりたいキモチ強くって」

「あ、あ、あったまるにしても、少しゴーインなスキンシップだと、思うんだけど」

「だんだんポカポカしてきた。流石はおねーさん」

「あすかちゃん!? ポカポカするよりも、わたしの言うコトにも少しは耳を……!!」

「ごめんなさい。ポカポカしてるけど、物理的に『ポカポカ』されてもしょーがないですよね」

「あ、あ、あなたを叩くワケ無いでしょっ、話を聴いてほしいってだけ」

「高知の夏は、暑くなるみたいですよ??」

 

嗚呼……。

あすかちゃんの乱調が、極まっちゃってる。

どうしてこうなるの……。