【愛の◯◯】部長と副部長が頭痛をぼくに運んでくる

 

放送部部長の若松花(わかまつ はな)さんが、某ポップコーンスナック菓子をお皿にどばぁ、と放流する。

「どうぞ食べてください」

と言う若松さん。

きょう、放送部のお部屋にぼくを連れ込んだ張本人たる、若松さん……。

 

「食べてください」と言われたら、食べざるを得なくなる。

遠慮気味にポップコーンをつまみ、口に持っていく。

 

たまに食べると、美味しいな……という感想を持つ。

持っていたら、

 

「羽田先輩。

 羽田先輩のお姉さんは、身長何センチですか??」

 

と……若松さんに訊かれた。

 

「どうして、ぼくの身長じゃなくて、姉の身長を」

疑問をぶつけるのだが、

「それは羽田先輩のお姉さんだからです」

と強引に押し切られる。

 

姉のことが気になるのは理解できる。

できるけど、さ。

 

「え!? 教えてくれないんですか!?!? ヒドいです

 

……若松さんが厄介なことになりそうだ。

なりそうだから、仕方なく、

「わかったよ教えるよ。

 姉は、160.5センチ」

 

「――メモっても、いいですか??」

 

どうぞご自由に。

「どうぞご自由に」

 

どこからともなくメモ帳を取り出し、姉の身長を走り書き。

 

にしても――、

「油売ってる場合なの、きみ。部長になったんでしょ?」

「まぁまぁ」

「な、なに……そのリアクションは」

せんぱぁい

「……どうしたのかな」

ついでに羽田先輩の身長も、知りたいです」

 

……呆れ気味に、

「168だよ。ぼくは」

と伝える。

サバ読みのない情報開示。

 

これで、若松さんも満足のはず……と思ったのが、甘かった。

 

メモ帳とペンを握ったまま、彼女は、

先輩はいつ、身長の伸びが止まりましたか??

と、不可思議な問いをぶつけてくるのだ。

 

どうしてそんなこと訊くかなあ……。

 

致し方なく、

「高校1年の時点で、ほぼ伸びは止まってたよ」

と回答。

 

すると彼女は、

「ふ~~ん。

 ――早熟寄りですね」

 

……なにそれ。

 

× × ×

 

「羽田先輩って168センチなんですね」

 

若松さんと入れ代わりに寄ってきたのは、副部長の高津かがみさん。

 

「花(ハナ)よりだいぶ大きい」

高津さんは、若松さんとぼくの背丈を比較する。

そしてそれから、

「わたしがハナより身長高いのは、お分かりだと思うんですけど」

と言って、

「気になりませんか? ――わたしの、身長」

と。

 

「――気には、ならないな」

正直に言う。

言ったのに、

「えー、ヒドくないですかー??」

と、ふざけたような口調で言われてしまい、

「身長のことは、ちゃんとしておいたほうが良(い)いと思うんですよぉ」

と、さらにふざけたような口調で……言われてしまう。

 

高津さんの厄介さが、無限大に拡がっていっているので、

「きみのパーソナルデータのことは、また今度だよ。高津さん」

とたしなめる。

「若松さんにも言ったんだけどさ。

 油売ってる場合じゃ、ないんじゃない?

 売り過ぎでしょ、油。

 わかってるんでしょ、きみだって? この学校の放送部は本来、ダベり系文化部とは違うんだってことを」

 

「あちゃー」

 

……なにが「あちゃー」なのかなあ。

 

どうしてそんなにふざけるのっ。

高津さん。きみ、もっと真面目っ子じゃなかった!?

副部長に就任したあたりからどうも、キャラクターがちゃらんぽらんになってきてる、というか……。

 

「ちゃらんぽらん」は、部長である若松さんにも、言えることなんだけどさ。

 

パーフェクトツッコミモードになろうとしていたぼく。

そんなぼくに、ちゃらんぽらん化著(いちじる)しい副部長が、

「羽田せんぱーい」

と呼びかけてくる。

 

……なにかな。

 

「いまの、先輩の顔って」

 

顔??

 

「わたしたち放送部のこと、分かったつもりでいる……って顔。」

 

なっ。

 

「放送部OBでもなんでもないのに」

 

……。

そういうことじゃ、なくってですね。

 

「あのねえ。

 ぼくの尊敬する男子(ひと)が、言ってたんだよ。

『当事者ではなく第三者であるからこそ、見えてくるものもある』

 ってさ。

 いい機会だから言うけど、第三者の客観的視点から見て、きみたちは、もうちょっと……」

 

「先輩、先輩、」

 

「さ、遮(さえぎ)らないでくれるかな」

 

いいえ遮ります

 

 

だからっっ。

どうして……どうして、厄介を通り越して、そんなに迷惑キャラに成り果てちゃってるの。

 

 

頭が……ズキズキしてきたんだけど……。