「…はい。
こんにちは皆さん。
ランチタイムメガミックス(仮)を、始めたいと思います。
金曜日です。
つまり、あと半日で、輝かしい週末が……」
「ちょっと待ってください羽田先輩。テンションおかしくないですか」
「……」
「黙っちゃダメですよー、ラジオだと放送事故になっちゃうんですよー? 先輩、そんなことぐらい弁(わきま)えてるはずって、思ってたのに」
「……リスナーの皆さん。いま喋ってるのは、アポイントメントもなんにもとらずにスタジオに殴り込んできた、2年生の高津かがみさんです」
「ウワッ、投げやり口調」
「仕方ないよ。
ぼく、疲れてるんだ」
「なんでですか? 金曜日だから? 平日ずっと激務だったサラリーマンみたく消耗してるとか?」
「そういう理由じゃないんだ」
「だったら、いったい」
「高津さん……。
きみのせい、きみのせい、きみのせいだよ」
「……なんで3回繰り返したんですか」
「……思春期だからかな」
「えっ、おかしくないですか」
「どこが」
「先輩は3年生で、18歳でしょう? 思春期、抜け出しかかってるはずでは」
「それは……どうだろうか。
いくつになったって、思春期な人は、思春期だよ。
大学生でも、社会人でも……」
「――すみません、良くわかんないです」
「……」
「せんぱぁい」
「なに」
「『達観するのはよし子ちゃんカード』、作りましょうか?」
「……。
わけがわからないですよね、皆さん。
ここはひとまず……オープニングナンバーを」
× × ×
「解散したバンドの楽曲をまた流しましたね、先輩」
「あーっ、流したけど?!」
「投げやり~~」
「チャットモンチー流して、なにが悪いの」
「悪いなんてわたし言ってません。
ただ…」
「きみの言いたいこと、読めてるよ。
『本格的に懐メロ番組と化してきてますよね』
って、言いたいんでしょ?」
「よくわかりましたね」
「…。わかるさ」
「2012年辺りから時が止まってるみたいですよ。2022年も終わろうとしてるのに」
「もーしわけなかったね、それは!!」
「だからぁ、投げやり過ぎますって」
「……高津さん。きみだって、」
「??」
「ついこのあいだ、約20年前のヒット曲を、この放送で勝手に流してたじゃないか」
「あれは、リクエストです」
「いいや、勝手に流した!!」
「おー、一気にキレ気味に」
「…高津さんが勝手に放送で流した曲の名前は、過去ログを参照してください」
「こらこら先輩。過去ログ言わない言わない」
「…。
きみ、代わってみる??」
「代わってみるって??」
「…あのさ。
ぼく、いよいよ卒業も迫ってきてるから。
試しに、なんだけど。
高津さん。
2年生であるきみに、1週間の1日だけ、パーソナリティを任せてみてもいいかもしれない……という考えが」
「――嬉しいこと言ってくれますね。羽田先輩も」
「……思いつきさ。
この場で、きみを適当にあしらいながら、思いついただけ」
「あしらってたんですかー」
「語弊が、あったかもね。
ぼく、海外で暮らしてた期間が長かったから、日本語に慣れてない面もあるんだ。
…『あしらう』って表現は、不適当だったかも、だな」
「せ・ん・ぱ・い」
「…どうしたの」
「日本語得意になりたいのなら、広辞苑買いましょうよ☆」
「……。
広辞苑を、姉から借りてみる」