【愛の◯◯】『どうぶつの森』 水ピンの10点

・兄とポケモンで対戦中

 

「ーーそっか、あしたもうマンションに帰っちゃうんだ」

「仕事に出ないわけにはいかないからね」

「月曜の朝まで泊まっていけばいいのに。ここから出勤すればいいんじゃん」

「そういうわけにはいかんのよ」

「なんで?」

「社会人の事情で」

「テレワークには?」

「ならないならない」

「…兄さんがここにいながらでも仕事できるようになったらよかったのに」

「現実は甘くないのさ」

「…そうみたいだね」

 

「さやかの学校はいつから春休みになったんだっけ?」

「もう3週間以上前からだよ」

「もうそんな長いこと休んでるのか。逆につらいなあ、それは」

「勉強で気を紛らわしてる」

「それはよくないなあ」

「…言うと思った、兄さんw」

 

「でもわたしの第一志望、日本でいちばん難しい大学だし。いまから『助走』しとかないと、間に合わないし。

 とは言っても、きょうは息抜き。

 せっかく兄さんがこっち来てくれたんだから、さ」

 

「疑問があるんだけど」

「何の?」

「成績のこと。

 急に休校になって、学校の先生どうやって成績出すんだろうって」

「あー大変だったみたいだよウチの先生も」

「通知表はーー」

「郵送で来た」

「へーっ」

「みたい?w」

ポケモンのほうが優先」

「兄さんなら言うと思ったw」

「さやかの通知表見るとさぁ、なんだか、打ちのめされそうだからさぁw」

「努力の結果なんだけどな~」

 

「でもオール5じゃないんだろ」

「その通り」

「5じゃない科目、当ててやろうか」

「わかってるくせに!w」

「ーー家庭科と体育」

「さすがにわかるかー、わかるよねー、妹のことだもんねー」

「……まぁそれもさやかの個性だよ、不得意、っていうのも」

「不得意じゃないですーっ、5じゃなくても4ですーっ」

「はいはいw」

 

「じゃあ、父さんと母さんにはもう見せたんだな?」

「とうぜん。」

「反応は?」

「いつもどおり」

「ほめちぎり、ってやつか」

「ほめられたことはほめられたけど…ほめちぎられてるのかなあ?

 ふたりともニコニコしてたのは、たしかだけど。

 

 なんかこう、父さんも母さんも、わたしには甘いよね。

 甘い気がする。

 昔っから」

「そりゃ、俺とだいぶ年齢(とし)が離れてるからだよ」

「そういうもの?」

「俺はそう思ってるけど」

「ーー特別扱いされたとかじゃ、ないけどさ。

 

 どーーーーーも、過保護っぽい気がする」

「愛されてる、ってことだよ」

「ヤキモチ焼かなかったの? 兄さんは」

「どうかなあ?ww

 

 忘れたよ、そんな昔の話ww」

 

「ーー甘やかされてるから、人当たりが強い人間になっちゃったのかな」

「さやかが?」

「わたしが。」

「それは考えすぎ」

「えーっ、どうしてっ」

「甘やかすのと、優しくするのは違うっしょ。さやかは優しく育てられたんだよ」

「でもその結果ーー」

「人当たりが強くなった?」

「うん、うん」

「それも、自意識過剰じゃないの」

「で、でもっ、ほら中等部のころとか、とんがってなかった!? わたし」

「…、

 どうだったかなあ、

 記憶が薄れてるw」

あのねえ💢」

 

× × ×

 

「ところで『どうぶつの森』の新作が出たねえ」

「兄さん、もうやってる?」

「まだ」

「じゃあ兄さんがやり始めるまでわたしも待つから」

「(^_^;)……」

 

「この家、まだ64あるのかな」

「あるよ」

「……、

 64の初代『どうぶつの森』から、もうすぐ20年か」

「わたしが産まれる前だったんでしょ? 初代が」

ゲームキューブが発売されたのと同年だったからね」

「知ってる」

「すごいな」

「兄さんってそういうことに関しては記憶力いいんだね」

ど、どういうこと

 

× × ×

 

 

「(気を取り直すようにして)

 ……ファミ通、って雑誌があるだろ?

 ほら、毎週『クロスレビュー』ってやつが載ってるじゃないか。

 64の『どうぶつの森』が発売されたとき、本誌のクロスレビューで10点つけた編集者がいたんだよ。

 

水ピン』っていうどうしようもないペンネームの編集者だったんだけど……、

 

 でも、彼が、水ピンが10点つけてくれたおかげでーー、

 どうぶつの森シリーズも、軌道に乗ったんであって、

 あの水ピンの10点がなければ、今のようなブームも起こっていなかったんじゃないかなー、って」

 

「それって、『週刊』ファミ通?」

「『週刊』。」

「兄さん、よくそんなこと覚えてたね…」

「なんでだろう、自分でもよくわからないけど、覚えてるんだ」

「どうりでわたしにヤキモチ焼かないわけだ。」

「Σ(^_^;)」