スパゲッティを食べたら眠くなってしまい、自分の部屋のベッドでうとうとしていた。
すると午後2時を過ぎていて、「これはいけない」と思い、起き上がって、冷蔵庫に入っていたペットボトルのアイスコーヒーをコップに入れて飲んだ。
ふと思い立ち、私は戸部君に電話をかけてみた。
なぜ戸部君にだったかと言うと、午前中アンに電話したので、アンの同級生だった戸部君のことを、「連想」のように想い起こしたから。
「もしもし戸部くん」
「いかにも。
珍しいな、葉山からかけてくるなんて」
「ごめん、良くなかったかしら」
「まさかあ」
「そう・・・」
「で、どんな用件」
「すごく、すごく変なこと、言うけどね、」
「なんだよw」
「人生相談かな」
「アン…藤村さんのほうが、同じ学校だったから、よく戸部くんを理解してると思うんだけど」
「藤村のこと、アンて呼ぶんだなww」
「うん…。
それでね、戸部くんは、例えば、落ち込んでいる子を慰めたり励ましたりするのがとてもうまいと思うの。
とくに女の子」
「ウチの愛のこと言ってんのか?w」
「そうだけど、羽田さんだけじゃないでしょ。
もちろん想像よ。妹さんとかーーもしかしたら、アンにも」
「ふーむ」
「思い出さない、高校時代振り返って」
「ああ、 2年生のときだけど、藤村が失恋してさ。
ショックだったみたいでさ、あからさまにおかしかったから、声をかけてやったら、元に戻った。
そんなことがあったな」
「やっぱり。」
「まあ、妹に関しては……、兄弟だからなあ」
「これは男の子女の子とか関係ない話だけど、戸部くん、多分面倒見がいいのよ」
「なるほどね。
で、葉山の人生相談はどこ行ったんだ?w」
「実は午前中に、アンと長電話しちゃったんだ」
「ほほお」
「で、アンが励ましてくれて。それはもちろん嬉しかった。
でもね、自分のできないこととできることの違いと言うか、弱みと強みと言うか、そういう話になって。
彼女は自分がいた部活に顔を出していたようだから、悪いと思って、『長電話になっちゃったね』ってこちらから電話を切ったんだけど、
それから私、私の強みーー得意、と言い換えてもいいわね? それってなんだろう、って考えてて」
「藤村も罪作りなやつだなあ」
「そんなことないって」
「いいや。葉山を今悩ませてる責任がある」
「そこまで言うの」
「これは、藤村の人格が分かってるからなー、あえて」
「すごいね…戸部君って」
「すごくない」
「すごい」
「じゃあすごいんだろw」
「ふふw」
「で、戸部くん去年の秋のお料理対決覚えてるよね? 私、料理はできるから、自分でスパゲッティを作ってみたんだけど……どうも美味しくないの」
「そりゃ一人で食ったからだよ」
「そう! そうなの!」
「例えばさあ、一人でサイゼリヤで食うとわびしいだろ?」
「戸部くん、一人でサイゼリヤ行くの!?」
「一人で行ったことあるっけ、あ、葉山はそもそもサイゼリヤ行かないか」
「確かに行ったことはないわね。
でも、家ででなくて、例えば喫茶店でナポリタンを食べたら美味しかったと思うわ」
「喫茶店でナポリタンなんて、あだち充の漫画の世界だよ」
「確かにww」
「わかる?w」
「わかるwww」
「意外と漫画の知識あるんだな」
「人は見かけによらないって」
「そうなあ、人が見かけによらないんだったら」
「?」
「例えばさ」
「?」
「葉山、きみのお父さんが」
「おとうさんが?」
「えっと、きみの父さんは料理を作ったりするか?」
「見たことない」
「へーっ」
「考えてみれば、今時珍しいかもね」
「でも、でもだよ」
「でも?」
「きみの父さんは、実はひょっとしたら昔、料理が得意だったかもしれない。
人ってもんは、意外性と二面性があるから」
「確かに…。
戸部くんにも意外性と二面性があるわ」
「え、どゆことw」
「羽田さんが教えてくれるよ。」
「(きょとん、としているのか)・・・・・・」
ーーーーーーー
「おかえり、おとーさんっ」
「おー、ただいまぁ」
「今日は昼間、むつみ一人だったよな。
ご飯はどうした?」
「自分でスパゲッティ作って食べたわ」
「スパゲッティかあ」
「でも一人だったからかしら…美味しくなかった」
「それはよくないなあ」
「よーし」
「?」
「今日はお父さんが晩御飯作ってあげよう」
「ちょちょっと!? 藪からヘビに何言うの!?」
「それを言うなら藪から棒だろ?
母さーん! 台所を使わせてくれー!」
「(呆然)」
× × ×
「父さんなあ、西武新宿線の、各駅停車しか停まらん駅で、貧乏下宿生活してたんだ」
「(きょとん)」
「自分でもよくわからんもん作ってたよ。…でも、なかなか家が仕送りをよこさんかったからな」
「(きょとん・・・)」
「一年のうち360日は自炊だった」
「本当に!?」
「嘘じゃないよ」
「これ……昼間に私が作ったナポリタンにそっくり」
「簡単ですまんね」
お母さんは、うっとりするような目でテーブルを見つめてる。
「美味しい。
一人とか3人とか、そういうのじゃなくて。
私が作ったのより美味しい!! どうして!?」
「それは、一年のうち360日毎食自炊だったからだと思うよ」
「・・・・・・う、ううッ」
「ど、どうしたむつみ」
「・・・ぐす・・・ぐす」
お父さんは少し困惑して、
それでも、私の頭にそっと手を置いてくれる。
「お父さんに料理で負けて悔しいの」
「嘘つけ。分かるゾ~むつみ」
「うん。
嘘。」