某日放課後
「ふー終わった終わった」
あれ……?
どこからか、バイオリンの音が聞こえてくる。
弦楽部の練習場所とは反対側のーー。
わたしは、思わず、そのバイオリンの音に引き寄せられるように、音がする方向に歩いていった。
すると、見覚えのある誰かが、ひとりきりで、バイオリンを弾いていてーー
「あ、青島さん!?」
間違いない! この前ガーデンで言い合いになってしまった、同学年の青島さやかさんだ。
青島さんの弾き方は、とても情熱的だった。
でも、あまりにも動きが激しすぎて、弦を傷めつけているふうにも映った。
「……羽田愛。」
呼び捨てですか。
「ごめんなさい? 来ちゃって、見ちゃった」
「別に見られたっていいわ」
「上手いじゃない」
「バイオリンできるの」
「いいえ。でも、一緒に演奏したことがあるから」
「でも、弾けないんだ」
「あなた、ピアノは? ( ^_^)」
「(不服そうに)5歳でやめたっ!」
「なんで弦楽部入らないの」
「いじめられたから」
「お、思い込みでしょ?」
「あんたが居ると弦楽部の和が乱れるって直接言われた」
「誰に」
「複数の人間に」
そう言った途端、青島さやかは、再びバイオリンを情熱的に弾き始めた。
荒々しい。でも、つい見とれてしまう。
「ねえ、青島さん」
「なに」
「これからどうするの」
「どうするって」
「文学も音楽もひとりきりで三年間?」
「……」
「三年間って、長いと思うんだ」
「くっ……」
「続かないよ、ひとりきりじゃ、というか、もたない。
(優しく)こころが折れちゃうよ」
「あんたはいいよね、羽田さん。公私ともに充実していて(声が震え始める)」
「青島さん。わたしね、昔はーー」
「(口調が激烈になり)昔話は必要ない!!」
「そ、そんなに激しく弾いたら、バイオリンが……!」
弦が切れた。
青島さやかはその場に崩れ落ちるようにうずくまった。
両膝を地面につけ、両手で地面を押さえ、うつむきながら、懸命にじぶんの身体を支えようとしていた。
彼女は、ワナワナと震えていた。
バイオリンが、その場に転がっているみたいに落ちていた。