保健室
わたしは、青島さやかを、保健室まで連れていき、ベッドに寝かせた。
いまは、彼女が寝ているのを見守っている。
熱があったみたいだ。
彼女の寝息は、しだいに穏やかになってきていた。
夕方の六時が過ぎたときだった。
青島さやかが、眼を覚ました。
彼女はガバァっとからだを起こした……
「頭が痛いの?」
「……変な夢見た」
「頭、押さえてるじゃない。片頭痛なんじゃ……先生に薬もらってきたほうが」
「変な夢見たから!!」
「ドキッ」
「みんながわたしの敵になる夢!!」
「青島さん……」
あまりにも絶叫がヒステリックだったので、保健室で大きな声出しちゃダメだよーと、保健の先生に叱られた。
なんかわたしがとばっちり受けたみたいじゃない、青島さん。
「そうよね、嫌な夢見たあとって、決まって頭がガンガン痛むものよね」
「知ったふうな口きかないで」
「わたしもね、みんながわたしの敵になる夢、ときどき見るの」
「どうして」
「わからない……わたし、優しいひとに囲まれて、あの邸(いえ)で生きてる。それでも、定期的にこころが落ち込むんだな、これが」
「あなた、それ、カウンセリングとか受けたほうがいいんじゃないの」
「大丈夫よ、最高のカウンセラーが周りにたくさんいるから……あ」
言ってはいけないことを言ってしまった。
おそらく、青島さんには、じぶんのお兄さん以外、最高のカウンセラーは……!
「………………………グスン」
「青島さん」
「………………………グスグスン」
「………………………グスグスグスングッスン」
「………………………グスグスングッスングッスングッスングスンスン」
気がつくと、青島さんは声を出して泣きはらしていた。
戸部邸
青島さんは到底ひとりで帰宅できるようなコンディションではないと判断したので、タクシーを呼んで戸部邸に連れて行った。
わたしのベッドに青島さんを寝かせて、見守り続けた。
青島さんは、本の文章を、逐一脳内で音声化して読んでいるらしい。
そうだ!
読み聞かせをしよう。
宮沢賢治の詩はどうだろう。
賢治の童話でもいい。
「銀河鉄道の夜」はやめておこう。
悲しすぎて、青島さんが、ますますさみしくなってしまう。
「青島さん。
わたしが、青島さんの、最高のカウンセラーになってあげるよ。」