夕方
戸部邸・キッチン
鼻歌を歌いながら、冷蔵庫から野菜を出し、まな板で切り始める、エプロン姿の愛。
愛「~♫」
トントントントントントントントントントントントントン…と、非常にリズミカルで気持ちの良い音がキッチンで演奏される……。
愛「(まな板を洗おうとして)おっとっと。
すっごく冷たい水出すところだった。
お湯、お湯」
なぜか、シンクの近くにある鳩時計に、しきりにしきりに愛は眼を走らせる。
愛「……まだかなあ……」
『ただいまーっ』
愛「ピクン!!」
愛(元気な声だ。)
愛(「声」は元気だけど、「顔」は……どうなんだろう)
ダイニング
アツマ「おーっす。帰ったぞ」
愛「(うつむき加減に)おかえり。」
アツマ「なんだよ。下ばっか向いてると姿勢が悪くなるぞ」
愛「ほんとだね。」
ーーと言って、顔を上げる愛。
しかし、その顔は、不安混じりの顔だった。
愛「あ、あのその、し、しけん、さ……どう……だったの?」
アツマ「(満面の笑みで)難しかったな~!!」
愛「ちょ、ちょっと!! ドヤ顔で不吉なこと言わないでよ」
アツマ「難しかったけどさ、納得はいってる!」
愛「(青ざめて)な、なっとく!? どういうことよ!?」
アツマ「じぶんが決めたことに、ぜんぜん後悔してないっ!」
愛「(だんだん怒りっぽくなって)話がそれてるじゃない! わたしだって中学受験したから、試験の緊張感ぐらい知ってるわよぉ!!! 手応えは!? ねえ!!!!!!」
アツマ「(座っている愛の目線になって)ばーかw
難しかったけどさ、
おれの決めた進路にも、
おれの出した答案にも、
納得行ってるよ。
おととい、しこたまプールで泳いだのが、効果あったみたいd…っておい」
アツマの顔に手作りチョコレートを押しつける愛。
アツマ「ば、ばっきゃろ、袋に入ったままじゃ食えないだろが」
愛「――夕ご飯のあとで部屋に戻ってから食べてね」
アツマ「ん~? よく聞こえんぞ~w」
すると、愛はアツマの手にチョコの袋をのせて、
にっこりと笑った。
アツマ「・・・・・・」
愛「・・・・・・」
アツマ「おまえは、いっつも、素直じゃねーなぁとか思いながら、つきあってきたけどさ」
愛「つきあう……」
アツマ「(-_-;)う……なんか別の意味にとってないか……まあいいや、おれたち、つきあってるといえば、つきあってるんだろうな」
愛「意味が変わったw」
アツマ「るせー!!
(深呼吸して)
今まででいちばん素直に笑えてたよ、愛」
30秒間固まる愛。
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愛「は、ははは、それはよかった」
アツマ「そのセーター、さやかさんに選んでもらったんだろ」
愛「どうしてわかるの……」
アツマ「おまえはファッションセンス、あんましないから」
愛「ファッションより文学が好き、とか、気の利いたこと言えないのっ?」
アツマ「おれは好きだよ、そのセーター」
愛「ーー」
× × ×
アツマが自分の部屋に行き、ダイニングテーブルには愛だけになった。
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・
愛「わたしもーー、
がんばらなくっちゃ。」
『でもガンバリスギナイヨウニネー』
愛「Σ(*_*; )ギク」
ソファーからにゅ~っと現れた明日美子さん。
「(^o^)肩もんであげよーか?」
「……よろしくおねがいします。」