【愛の◯◯】呼び捨ては決定力

自室にて

 

「すーっ」

「はーっ」

「すーっ」

「はーっ」

「すーっ、」

 

 

『何、スマホを持ちながら、深呼吸してるんですか? お嬢さま』

 

「なんでノックしないで入ってくるのよっ蜜柑💢」

「(スケベ心丸出しの顔になって)ーーあっ、もしかしてw」

「もしかして、じゃないわよ。

 ーーわかってるんでしょう?

 誰に電話するのか。

 わかってるなら、とっとと部屋から出ていってちょうだい」

 

 

× × ×

 

「(-_-;)…蜜柑を部屋から追い出すのに30分かかった💢

 

 ……、

 さて。」

 

 

 

『プルルルルルルル…ガチャ』

 

『もしもし。』

 

「ハルくん、こんばんは。」

 

『こんばんは、アカ子さん

 

「ーーちょっと待ちなさいハルくん」

『へ?』

「憶えてるわよね?

 おとといの日曜、公園で会ったとき、

 わたし、なんて言ったかしら?」

『いろんなこと言ってたじゃんw』

そーじゃなくってっ!!

 

『ど、どしたのアカ子さん

「…、

 また『さん』付けにした。

 

 怒るわよ?

 まったくもう。」

 

『あー、あー、

呼び捨てにしてくれ』ってきみ、

 言ったんだっけか。』

 

この鈍感…。

口には出さないけれど、

この鈍感!

 

『でもなんで?

 なんで呼び捨てがいいの?』

「そ、

 それも説明したでしょーがっ!!

 

× × ×

 

『たしかに、さん付けだとよそよそしい感じはするよな。

 ーー『アカちゃん』じゃ、ダメなのか?』

 

「……、

 愛ちゃんは、『アカちゃん』って呼んでるけど、あなたには『アカちゃん』って呼ばれたくないの」

『なんじゃそりゃw』

「あなたには呼び捨てにしてほしいの。

 ーー『アカ子』、って。」

『でもおれには『くん』付けのままなんだww

 

 わがままだなあ、

 アカ子は。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お~い?

 アカ子?』

 

「……わがままだって言われたのは、うれしくない。

 だけど、呼び捨てにされたのは、うれしい。」

『女の子を呼び捨てにするなんて、ぜんぜん慣れないなあ。

 ヘンなカンジだよ。』

慣れて。

 

× × ×

 

「あなたは『押しの強さ』が足らないのよ。

 

 キャッチボールのときも、一方的にわたしのほうが攻めていたじゃないの

『それ、自分で言う?w』

「…そういう、飄々(ひょうひょう)としたところが、ハルくんらしいといえばらしいんだけど、

 だけどね、

 わたしを呼び捨てにして、もっと『押し』を強くしてほしい。

 

 決定力よ、決定力っ

 

『ーーで、アカ子さんの用件は?』

また『さん』付けしたっ💢

『あーごめんごめんw

 

 それでアカ子、きみの用件は?』

 

「…、

 こんど、試合なんでしょう。

 もちろん応援に行くから。

 ーーーー」

 

 

 

× × ×

 

『おじょーさまー、おフロ入っちゃったらどうですかーっ』

 

『おじょーさまー?』

 

<スッ

 

『?

 メモ用紙??

 

 なんですかこの飛び道具は』

 

 

 

 

 

もう少しだけ待って

 

 蜜柑にこんな顔、

 見せられない

 

 わたしが落ちつくのを、

 待って

 

 

 

 

【愛の◯◯】文学的な野球選手

羽田愛です!! 

 

いよいよ読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋、かしら?

 

お天気もよかったので、今日はサイクリングに出かけていた。

本格的なサイクリングよ。

サイクルウェアも新調したんだから。

 

(-_-;)……サイズにまったく変化がなかったのが、

ちょっと…むなしかったのは、ここだけの秘密…。 

 

そんなことはどうでもよくって、戸部邸に帰ってきて、サイクリングの汗をお風呂で流して、長い髪を乾かして、リビングにやってきたら、

あらら、もう相当夕方なのに、スカパーの阪神戦中継、まだ終わってないじゃないの。 

 

「アツマくん、きょうたしかメッセンジャー引退試合よね」

「そうだよ、(藤川)球児が出てきて、てっきりゼロ封で終わると思っていたら」

「ーーまさか球児打たれてんの?

 

 …あ、長打。」

 

けっきょく3点で済んだけれど、

いまの阪神の監督が矢野というのも、何の因果か。

(^_^;)矢野の引退試合のときになにが起こったか、なんて、もちろんリアルタイムでは見ていないけどね。

 

「……ねえ、球児って、若い頃はもっともっとすごかったんでしょ。」

「ああ、もっともっとすごかったらしいな。

『火の玉ストレート』なんて言われて」

「『今もすごいでしょ! 阪神ファンでもないくせにっ』って、どこからともなくクレームが来そうだけれど、」

「そうやって予防線を張るのは、控えめにしとくんだな。

 ーーほら、メッセンジャーの引退セレモニーはじまるよ」

「ーーねえ、わたし、藤川球児ってさーー、」

「なんだよ、語り始める気か」

「ーー藤川球児って、すごく文学的な野球選手だと思うの」

 

「(ソファーからすっ転んで)は、はぁ!?!?」

「突拍子もない言い方なのは、じぶんでもわかってる。

 でも、文学的な野球選手って、確実に存在すると思うの。

 阪神OBだったらーー江夏豊だよね。いの一番に。

 

 江夏も球児も、文学的な野球選手。

 

 ーーそんなに呆れ顔にならなくても、いいじゃないw」

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】バカって言ったひとがバカだけど、とりあえずノーサイド!

はいこんにちは! スポーツ新聞部の岡崎竹通(おかざき たけみち)です。

 

きょうも部活するよって、教室のドアを開けたら、同級生の一宮桜子(いちみや さくらこ) だけがいた。

 

「うーっす。部長は?」

自分の胸に手を当てて考えてみて

 

「…は?」

「だから、自分の胸に手を当てて考えてみて

 

「(^_^;)あー、なるほど。

 

 桜子、言葉が足りないよ。

 

部長の在り処は』自分の胸に手を当てて考えてみて、

 

 ほら、こういうふうに、言葉を補わないと」

 

「……」

 

「いい文章も、書けなくなるぞ」

 

がたっ

 

いきなり立ち上がる桜子。

ムカついてんのか? 

 

桜子は窓際にそれとなくもたれかかる。 

 

ラグビーさ」

ラグビーがどうかしたか?」

ラグビー、つまんないよね」

「そ、そんなことはないとおれは思うぞ!」

「つまんないというより、『難しい』」

「で、でも、観てるだけで激しくて、いいじゃないか」

「ーーま、人それぞれだけど。

 それにイマイチ盛り上がってないと思わない?」

「それは……そうかもな」

「特定の大学のシンパである人たちには、『ラガーマン』ってこの上なくいい響きかもしれないけど」

「(;´Д`)そ、それは早◯◯や明◯の人たちに失礼じゃないか!?

 おまえラグビーになんか恨みでもあるのか!?」

「早稲田や明治を受験したくないわけではないんだけど」

「答えになってねえぞ桜子!

 ラグビーっていうスポーツを尊重してやれよ!

 

 どのスポーツも尊重するのが、スポーツ新聞部精神ってものじゃないのか!?」

それは岡崎くんがいま思いついた精神でしょっ

(# ゚Д゚)でもほんとのことだろがっ

わたしラグビーに恨みなんてないし

(# ゚Д゚)じゃあラグビーの悪口言うなよ、バカ!

ひどい!! バカ、だなんて。

 バカって言ったひとがバカなのに!!

 

 

 

『はい、ノーサイド

 

 

 

 

ーーいつの間にか、

あすかさんが、教室に入っていた。

 

 

【愛の◯◯】幼なじみとふしぎなリボン

放課後

校内プール

 

「(プールから上がって)ふ~~っ」

 

2000メートル泳いだ。

 

羽田さんが、ざぱあっ、と水中から顔を上げる。

泳ぎ足りないって顔してる。

ほんとにもう…w

 

わたし千葉、高等部の3年で、本当は水泳部引退済みのはずなんだけど、さいきん足しげくプールに通ってる。

 

目的は……どう考えても、からだとこころのリフレッシュ。 

 

今日は、ひとつ後輩の羽田愛さんに、わたしの気分転換につき合ってもらっている。

 

羽田さんは水泳部員じゃない。

でも、羽田さんは、どの水泳部員よりも、すべての泳法(えいほう)で、持ちタイムが速い。

 

 

昨日、わたしのこころの…、”わだかまり”、みたいなモノを、羽田さんに話した。

 

そしたら、貴(タカ)ーーわたしの年下の幼なじみの、貴(タカ)の存在のことが、明るみに出てしまったのだ。 

 

× × ×

年下の男の子だったんですか!?

 センパイの幼なじみって」

 

「こらw声が大きいw

 

 ひとつ、年下。

 

 だから、羽田さんと、同学年」

 

「タカくん、かあ」

「会ってみたい?」

「ーー少し、会ってみたいかも。

 

 でも、まずはセンパイの話を、聴いてみたいかなぁー、って、」

 

「しょうがないなあw

 

 いいよ。

 

 

 

 タカの部屋はね、

 わたしの部屋の窓越しにあるの。

 

 つまり、家も隣どうしなら、部屋も隣どうしーー。

 

 一回、糸電話で、通話を試みて、けっきょく失敗しちゃった、ってなことがあったなー。

 

 

 タカはからだがあんまり丈夫じゃないの。

 

 以前は、ぜんそくがあってーー個人レッスン、じゃないけれど、タカのぜんそく治療のために、プールでわたしがつきっきりで、タカを泳げるようにしてあげたりした。

 

 ねぇ、

 年下だからーー、

 年が同じじゃないから、

 タカのこと、こんなにほっとけないのかな?

 

 ご、ごめん、唐突だった、わたし。

 

 タカはあんまり背も高くないし、からだも強くないから、

 わたしが守ってあげなきゃ!

 って、いつも思ってた。

 

 

 ーーあれ?

 

 こんなこと、他人(ひと)に話すの、はじめて。

 羽田さんがはじめてだよ。

 

 なんでかな。

 

 

 あのね、

 あのねわたし、

 中等部のときに…スイミングと水泳部に同時に入っていたんだけど、

 『どっちもやめちゃおっか?

 って思ったことがあって。

 

 どうしてやめたくなったのか? ってのは、

 いまは省略。

 

 わたしは周囲の大人よりもだれよりもまず真っ先に、

 タカに相談した。

 一切の事情とわたしが考えてることの一切を、

 タカに打ち明けた。

 

 タカは強硬に反対したよ。

 スイミングも水泳部もどっちも続けろ!

 って。

 両方とも投げ出しちゃうなんて、らしくないだろ!

 って、言ってきかなかったの。

 

 それで、

 すごい言い合いになってーー。

 

 タカと本気でケンカしたの、あれが最初で最後。

 クチゲンカだけどね。

 

 ーーで、しばらくタカと冷戦状態になって、

 わたしが、タカと顔を合わせようとしても、合わせられないもんだから、

 親が不可解に思って、

 それで、

 結果的に、わたしが抱えてる問題を、親に打ち明けることができた。

 ーーふしぎだね。

 

 そんでもって、わたしはスイミングを辞めて、水泳部は辞めずに残って、

 現在に至る。」

 

 

 

× × ×

 

「なんか、脈絡のない話になっちゃったね」

「ーーたしかにそうかもしれませんけど、

 なんだか千葉センパイとタカくんのエピソード…、

 短編小説、というよりも、読み切り少女マンガのネタになりそう

えっ

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

その夜。

 

わたしは、タカの部屋が見えるわたしの部屋で、ストレッチをしていた。

 

不意にタカが部屋のカーテンを開け、わたしとタカはお互いを見合う形になって、少し気まずかった。 

 

タカが、カーテンを開けたまま、スマホをぽちぽちしている。 

 

♫着信音(byスキマスイッチ)♫

 

 

「なに? タカ。

 言いたいことがあるなら、窓から言えばいいじゃん。」

 

『バカ。近所迷惑だろっ』

 

「だけど……」

 

『ひとつ言っておく』

 

「なによっ」

 

ストレッチしながら、そのリボンは似合わねーぞっ

 

(プッツン)

 

 

「……、

 

 ……、

 

 ……、

 

 …たしかに。

 

 なんでわたし、こんなリボンつけてるんだろう?

 

 …、

 ……、

 タカの話を、羽田さんにしたから、?」

 

 

【愛の◯◯】幼なじみ、いる?

きのう、戸部邸で、ルミナさんのお誕生会をひらいた。

 

ーーギンさんと、ルミナさん。

 

幼稚園から、ずっといっしょの、

いつでもいっしょの、どこでもいっしょの、

幼なじみ。 

 

ーーいいなあ。

幼なじみ。

わたしには、幼なじみ、いないから。

 

葉山先輩における”キョウくん”さんみたいな存在。

正直、うらやましく、思うときも、ある。

 

 

……ウチの学校のみんなは、どうなんだろう? 

 

 

さやか

「いないねえ」

 

アカちゃん

「いないわ。

 ーー強いて挙げるなら、蜜柑がそうなのかしら?」

 

文芸部の香織センパイ

「いたら教えてほしいぐらいだよっ」

 

文芸部の川又さん

「特にそういった人は…」

 

伊吹先生

いるよ

 

「えっ、もしかして、ダンナさんですか?」

 

「まっさかぁ。

 マンガじゃあるまいし。

 

 ーー自立して、家庭を作ってるよ。

 ずっと近所に住んでたんだけどね。

 

 でもアイツはいい相談相手になってくれたなー。

 

 中学のとき、あたしに初めて恋人ができたときも、一番最初に相談相手になってくれたのは、アイツだったし。

 

 あたしが悩んでるとき、よく相談にのってくれた。」

 

「ーーなんか、お悩み相談窓口みたいですね…」

 

 

× × ×

 

けっこう久々な感じの校内プール。

 

水泳部の練習を顔パスで見学する。

 

3年の千葉センパイが泳いでいる。 

 

 

「千葉センパイはもう大会には出られないんですよね」

「ーーうん。ほんとうは引退なんだけど、身体がなまっちゃうからw」

「大学でも水泳は続けられるんですよね?」

 

「(遠くを見るような目で)

 ーーどうしよっかな。」

 

「ど、どうしてそこで迷ってるんですか、センパイ!?」

 

「迷うよ~?w

 

 小学生のころとかは、大会でいい成績残すとチヤホヤされて、それはそれでうれしかったんだけどさ。

 自己ベスト出したら、美味しいもの食べさせてもらったりさ。

 

 でも、最近、思うの。

 

 記録を更新すること、他人よりいい成績を出すことだけが、水泳なのかな、って。

 

 表彰台に上るのだけが、スポーツじゃないよなあ、って」

 

「で、でもっ! スポーツってのは自分を高めるものじゃあないんですか!?」

 

「羽田さん、運動部に入ったことは?」

 

「ありませんけど…」

 

「体育会畑に長年いるとね、いろいろな不都合も見えてきちゃうんだよ」

 

「千葉センパイ……、

 どうして、そんな寂しい眼をするんですか!?

 

 そ、そういうことで相談できる、

 悩みを打ち明けられる、

 幼なじみの男の子とか、いないんですか!?

 

 

ーーーー!!

 

「(;´Д`)せ、センパイ!?!?

 顔が真っ赤ですよ?

 

 もしかして……、

 図星ですか?」

 

 

【愛の◯◯】きこしめすルミナさんの誕生日にカンパイ!?

「アツマくん、ジャガイモの皮、むいてくれない?」

 

おれと、愛と、母さんとで、

ルミナさんのお誕生会の準備をしている。 

 

「ーーバイトでジャガイモの皮むきが上手になったというわけではなさそうね」

「あのなー、厨房で働いてたわけじゃないんだよ」

 

「おれもさ、なんか料理作ろっか」

「うーん、別に?」

「おいひでぇな!!」

「間に合ってるの。ごめんなさいねw」

「ま、いっか。

 早くルミナさんとギンさんに、おまえが作った料理、食べてもらいたいな」

 

流さんが帰ってきた

 

「おっ、僕も手伝うよ~」

 

 

あすかが帰ってきた

 

「あっ、わたしも手伝う~」

 

 

× × ×

 

ギンさんとその友達が、先にやってきた

「ここがきみの邸(いえ)か、戸部くん。すごいなあ」

「へへ。

 えーっと、鳴海さんはーー」

「空気を読んだ。

 彼は自重したよ」

「それでこそ鳴海さんですw」

「ルミナの天敵だからなあw」

 

「それでケーキ買ってきたよ」

 

・ルミナさんのバースデーケーキを持ち上げるギンさん

 

わぁケーキだぁ

 

「…妹さん?」

「(-_-;)いいえ、妹ではないです。妹はキッチンのほうに。

 こらっ、愛、そんなにはしゃぐな」

「ご、ごめんねアツマくん、さいきんケーキと縁がなかったからw」

 

「(ぴしゃり、と姿勢を正して)はじめまして。

 羽田愛といいます。高校2年です。

 この邸(いえ)に居候させてもらっています。

 アツマくんがいつもお世話になっております。」

「山田ギン、大学3年です、よろしく。

 こっちのほうが戸部くんにお世話になっているくらいだよww」

ほんとですかぁ~?

 

愛のバカヤロウ。

 

「ぼくたちプールに行って泳いだりするんだけどさ、戸部くんはまるでインストラクターだよ。

 オリンピックにも出れたんじゃないか……っていうぐらいの泳ぎっぷりで」

 

「そ、それは大げさすぎますよギンさん」

「そうでしょう?

 アツマくんは、わたしのヒーローですから」

「……愛?」

「~♫」

 

「愛さんのヒーローになってあげたらいいじゃないか、戸部くん」

「ぎギンさんまでっ」

「……おれは、とてもルミナのヒーローには、なれない……」

「(;´Д`)こ今夜ぐらいは、ルミナさんのヒーローになってくださいよ、おねがいしますよ」

「できるかな、おれに?w」

 

 

× × ×

 

ルミナさんとその友達がやってきた

 

「ーーケーキ、用意してくれたんだ」

「あたりまえじゃあないか」

「ありがとうーーギン。」

 

「ルミナ」

「えっ、なに!?」

その服……、

 いいな。

 おれはファッションのこととか詳しくないけど、

 今日のは似合ってるよ。

 

「……どうしちゃったの、ギン?!」

 

「ちょっとだけ気を配ってみたんだよぉ。

 悪いか?」

「(はにかんで、)…悪いわけ、ないじゃない。

 すっごく嬉しい、ギン。」

 

 

ルミナさんの女友だちが、ふたりを眺めてニヤニヤしている。

 

ーー目ざとい。

 

 

お誕生会のセッティングができた

 

「ーーさすがにローソクは21本も立てられないけど」

「いいよ、気持ちだけで」

「ーーでは、茅野(かやの)ルミナさんの末永い健康と幸福を願って、」

「なにそれ!?

 

 ふつうにやってよギン」

「ーーそうだった。」

 

 

「ーーでは、茅野ルミナさんの21回目の誕生日を祝って」

 

ハッピバースデートゥーユー

 ハッピバースデートゥーユー

 ハッピバースデー ディア ルミナちゃん(/さん)

 ハッピバースデートゥーユー

 

♫拍手喝采

 

 

 

「お料理、愛ちゃんが作ったの? すっっごく美味しい」

「ほとんどこいつのレシピです」

「気に入ってもらえてうれしいです」

 

「……嫁入り修行、しようかな」

 

「(゜o゜; わ、わたしにですか!? どういうことですか!?」

 

 

 

× × ×

 

「ねえ、アツマくん、炭酸…飲んでいい」

「お調子者めが。

 おまえが炭酸飲んだら酔っ払っちまうだろ。

 収拾がつかなくなる」

ちぇっ

「(-_-;)舌打ちすんな」

 

「ルミナさんギンさん、わたしとあすかちゃんは宿題をするので……」

「高校生だねえ」

「楽しんでってくださいね」

「うん、ありがとう、お料理」

「愛さんの料理、週1ぐらいで食べに来れないかなあ」

「突拍子もないこと言うんじゃないのっ、ギン」

 

 

「戸部くん、すごい娘だね、羽田愛さんは」

「性格以外は長所だらけですね」

「うれしかったよ、あたしたち。

 あたしとギンに、1曲ずつ、ピアノで弾いてくれたじゃない。

 あんなのは初めてだったから」

「そうだなあ、かつての『おたんじょーかい』は、もっとこじんまりしてた」

 

 

・流さんがお酒を運んできた

 

「アツマは飲んじゃだめだぞ」

「わかってるって」

 

「た、高そうなお酒ですねえ」

「この日のために買ったんだ」

「それはどうも…ありがとうございました、

 ってギン! 言ってる端から飲んでるし」

 

母さんも、隅っこのソファーで、気持ちよさそうに流さんのお酒を飲んでいる。

 

 

ルミナさんとギンさんのお友達が帰って、

お誕生会のフロアには、

 

・おれ

・ルミナさん

・ギンさん

・母さん

・流さん

 

の5人だけになった。

 

いま何時だろう。

愛とあすかは、もう寝ちまっただろうか。 

 

ながりゅく~ん、もういっぱい~

「(;^_^)強いですねえ、明日美子さんはw」

 

 

 

 

 

「ねぇギン」

「なんだ」

「あたし、やっぱし公務員受けることにした」

「そっか。」

 

「ねぇ」

「『ねぇ』ばっかりだな、ルミナw」

うるさいうるさいうるさい


「ねぇ」

「ほらまた言った」

「……不安になってこない?

 大学3年の後期にもなると。

 『終わっちゃう』っていう不安が」

「なにが『終わっちゃう』んだよ」

「モラトリアムみたいなもの。

 じきに社会人になって、もう子供じゃいられなくなる」

「気が早いなあ」

 

「それにさ、」

「(すっかり顔が赤くなって)ヒック…なによぉ、ギン。…ヒック」

「大学が終わっても、おれとおまえが離れ離れになるわけではないだろ?」

「(酔っぱらったのか)歯が浮くようなセリフゆーね、ギンわ。

 きめじぇりふ、ってやつー?

 (ギンさんの肩をガンガン叩いて)ポイントしんてーしてあげるー

 

「もしかして、ルミナさんお酒弱かったり」

「一定以上飲むとこうなる」

 

「なあ…ルミナよ。

 つらいことがあったら、おれに言えよ」

いまはにゃ

「就職活動するなかで、つらいことはいっぱい出てくると思うんだよ」

そうかにゃ~??

「もし、そういう、つらいときがあったら、おれに話してみろよ。

 家族だろ」

あたしギンのいもうとになったおぼえないんだけど~

「ーーじゃあ、いまだけ、ルミナはおれの妹だ。

 家族だ」

 

いもうとはヤーダ

「どうしてさ。

 

 ……って、る、るみなっ」

「(ベロンベロンになってギンさんに抱きつき、)

 あたし、ギンのおよめさんがいい

 

「ーーじょうだんだろ?」

じょうだんじゃないもん、じょうだんじゃないし、あたしこどもんころのゆめが、ギンのおよめさんだったんだもん、そんでもって、あたしギンのおよめさんになるの、

 あたしまだこどもなの

 

 

「(ルミナさんに絡みつかれたまま、)ーー戸部くん」

「( ゚д゚)はい」

「ルミナに水を持ってきてやってくれ」

「……( ゚д゚)かしこまりました」

 

 

 

【愛の◯◯】岡崎くんと中村部長とあすかちゃんと

岡崎竹通(おかざき たけみち)です。

ひとによっては「たけゆき」と読み間違えられることもあるけど、

「たけみち」です。

 

…えー、そんでもって、おれは『スポーツ新聞部』っていうちょっとおかしな部活に入ってるんですよ。

最近は、MGCの記事を書いたりしましたねえ。

じぶんの学校の陸上部の取材とかもやってるんですけどね。

 

『スポーツ新聞部』の部長は、3年生の中村創介(なかむら そうすけ)というお人です。

あと半年で卒業だけど、まだ部長の座を譲っていない。

 

「……、

 部長は、進路は?」

 

「進路? あー、進路!!

 どうとでもなるよ

「(-_-;)」

 

「大学…受けるんですよね?」

「受けるよ」

「一般入試ですか?」

「困ったなあ。ボクが推薦にひっかかるとでも思っとるのかね~岡崎くんは」

「(-_-;)」

「(手をヒラヒラさせながら、)内申が壊滅的でねえ。

 模試の結果も壊滅的なんだ」

「(゜o゜; ど、どうするんですか……」

がんばるよ

 

「まあ早慶上智やMARCHや成成明学獨國武日東駒専大東亜帝国だけが大学じゃあないから」

(;´Д`)それ私立大学ほぼ全部じゃないですか!!

 

「甘いよ岡崎くん。

 シュークリームみたいに、甘いね」

「(;´Д`)は!?」

「(チッチッチッ、と指を振り)大学ってのは、関東だけに在(あ)るものじゃないだろう?」

 

(;´Д`)えっ……、

中村部長は、いったい何処(どこ) へ?!

 

 

 

× × ×

 

頭が痛くなってきたので、後輩の戸部あすかさんのところに行く。 

 

「バンド始めたんだって?」

「∑(・ω・ノ)ノえっ! どこからそれを!」

「どこからともなくw」

 

「ねえあすかさん、ギターの練習が忙しくなるだろ。

 球技パートをひとりだけで担当するのは大変だから、手伝ってあげるよ」

「(ノ≧∀)ノわぁ~! ほんとうですか? 助かります!!」

 

元気だなあ。

高校1年の若さか。 

 

「うん、半分くらい、おれが肩代わりしてあげてもいいくらいだよ。」

 

大袈裟だなあ岡崎w

 

(# ゚Д゚)部長はだまらっしゃい!!

 

「……(;^_^)で、きょうからいよいよラグビーワールドカップだよね。

 NHKがなにやら宣伝張り切ってるみたいだけど。」

「日本大会ですもんねー。

 それに、ラグビーとサッカーは元々おなじ『フットボール』だったんですから、サッカーのワールドカップ並みに盛り上がってもいい気がするんですよ」

「(;^_^)そ、それはどうかなw」

 

「でもおれ、開幕試合がどこでやるのか知んないな」

味の素スタジアムです」

「へえー!! ここから近いじゃん!! 

 なんだかラグビーがすっげえ身近に感じてきたよ!!」

飛田給は近いですよね~。

 でも、ワールドカップ期間中は味スタが『味スタ』じゃなくなるんですよ」

「えっどゆこと」

ネーミングライツってのが事情がややこしいらしくて、わたしもうまく説明できないんですけど……。

東京スタジアム』って呼ばなきゃならないらしいです」

「『東京スタジアム』?」

「味スタの正式名称が『東京スタジアム』なんです」

「げっはじめて知った」

「ちなみにわたしはFC東京のファンというわけではありません」

「?」

「ちなみにちなみに千葉ロッテマリーンズの大昔の本拠地も『東京スタジアム』でした」

「???」

 

 

 

 

【愛の◯◯】木曜、お昼前、姿見の前で

♫アラームの音♫

 

<ガッ

 

ーー鳥の鳴き声。

朝。

 

あたしルミナ。

大学の長期休暇も、まもなく終わり。

……、

(-_-;)それはそうとして、

少なからずよくない目覚め。

というのはーー。 

 

朝ごはん

「きいてよおかあさん!

 とんでもない夢見たのあたし!

 

 夢の中でね、高校の制服着てあたし走ってたの。

 『遅刻遅刻~』って、学校に向かって走ってたの。

 さすがに食パンはくわえてなかったけど。

 

 で、一心不乱に走ってたら、だれかと正面衝突して。

 ドッカーンって、マンガみたいに。

 そしたら、ぶつかったのが、なんと登校中のギンだったんだよ!!

 高校生のギンが、手を出して、『立てるか?』って。

 あたしどうしたと思う?

 もちろん首を振った。

 横にね。

 そうしたら、ギン、あたしに向かってなんて言ったと思う!?

 

 『もうちょっとスカートは長くしたほうがいいぞ』って!!!!!!

 

 ちょっと笑わないでよおかあさん!!

 爆笑?!

 

× × ×

 

部屋に戻り、

パジャマを脱ぎ、

服を選んで、

髪をポニーテールに結(ゆ)わえる。

 

ここで、今朝の一曲。

ーー90年代JPOP名曲発掘シリーズじゃないけれど、

globeの『Feel Like dance』 を再生する。

 

 

globe

globe

 

 

で、1曲聴き終わって、今朝の音楽タイムは終わり。

 

「公務員試験の参考書でも見るかあ」

 

 

 

「…まだこんな時間か。

 時間の経つのって、意外と遅いなあ」

 

読書タイムにすることにした。

こんな本を読む。 

 

ビート・キッズ-Beat Kids

 

 

 

 

「(本をパタン、と閉じて)ふー。

 もうちょっと速く読めたらいいんだけどな。

 

 まだお昼にならない。」

 

おもむろに立ち上がり、

姿見(すがたみ)に自分の姿をうつす。

 

おととい、戸部くんがバイトしてる喫茶店で会った、

葉山ちゃんっていう女の子。 

 

「可愛かったな、葉山ちゃん」

 

着てた服も可愛かった。

 

ーーちょっと、わたしもあの服、着てみたいかもしれない。

どこで売ってたのかな?

貯金もいっぱいあるし。

葉山ちゃんの連絡先、訊いておくんだった。

ーーでも、着たら着たで、ギンがなんか言いそう。

それが気がかりだ。

もっというと、怖い。

 

ギンはあたしの幼なじみで、

遠慮なく、服装についてなんか言ってきそうで。

 

『どぎつい色のスカートだなあw』

って、

いっぺん、遠慮のないギンが、あたしのスカートの色にツッコんで、

もちろんそのときあたしはギンの頭をはたいたけれど、

ほんとはほめてほしいの、

ギンに、

あたしの服、

こんなこと、誰にも言ってないけど、

ちょっとはわたしの服に好意的意見を表明してもいいじゃないの、

ギン。

女の子は、着ていく服を選ぶのに、時間がかかるんだから。

ずぼらなギンにはわかんないかなぁ。

ーー、

でもちょっとは、

わたしの着てる服、ほめてくれてもいいじゃん、ギン。

 

「………………、

 心のなかで語ってても、しょうがないんだけど、さ」