放課後
校内プール
「(プールから上がって)ふ~~っ」
2000メートル泳いだ。
羽田さんが、ざぱあっ、と水中から顔を上げる。
泳ぎ足りないって顔してる。
ほんとにもう…w
わたし千葉、高等部の3年で、本当は水泳部引退済みのはずなんだけど、さいきん足しげくプールに通ってる。
目的は……どう考えても、からだとこころのリフレッシュ。
今日は、ひとつ後輩の羽田愛さんに、わたしの気分転換につき合ってもらっている。
羽田さんは水泳部員じゃない。
でも、羽田さんは、どの水泳部員よりも、すべての泳法(えいほう)で、持ちタイムが速い。
昨日、わたしのこころの…、”わだかまり”、みたいなモノを、羽田さんに話した。
そしたら、貴(タカ)ーーわたしの年下の幼なじみの、貴(タカ)の存在のことが、明るみに出てしまったのだ。
× × ×
「年下の男の子だったんですか!?
センパイの幼なじみって」
「こらw声が大きいw
ひとつ、年下。
だから、羽田さんと、同学年」
「タカくん、かあ」
「会ってみたい?」
「ーー少し、会ってみたいかも。
でも、まずはセンパイの話を、聴いてみたいかなぁー、って、」
「しょうがないなあw
いいよ。
タカの部屋はね、
わたしの部屋の窓越しにあるの。
つまり、家も隣どうしなら、部屋も隣どうしーー。
一回、糸電話で、通話を試みて、けっきょく失敗しちゃった、ってなことがあったなー。
タカはからだがあんまり丈夫じゃないの。
以前は、ぜんそくがあってーー個人レッスン、じゃないけれど、タカのぜんそく治療のために、プールでわたしがつきっきりで、タカを泳げるようにしてあげたりした。
ねぇ、
年下だからーー、
年が同じじゃないから、
タカのこと、こんなにほっとけないのかな?
ご、ごめん、唐突だった、わたし。
タカはあんまり背も高くないし、からだも強くないから、
わたしが守ってあげなきゃ!
って、いつも思ってた。
ーーあれ?
こんなこと、他人(ひと)に話すの、はじめて。
羽田さんがはじめてだよ。
なんでかな。
あのね、
あのねわたし、
中等部のときに…スイミングと水泳部に同時に入っていたんだけど、
『どっちもやめちゃおっか?』
って思ったことがあって。
どうしてやめたくなったのか? ってのは、
いまは省略。
わたしは周囲の大人よりもだれよりもまず真っ先に、
タカに相談した。
一切の事情とわたしが考えてることの一切を、
タカに打ち明けた。
タカは強硬に反対したよ。
スイミングも水泳部もどっちも続けろ!
って。
両方とも投げ出しちゃうなんて、らしくないだろ!
って、言ってきかなかったの。
それで、
すごい言い合いになってーー。
タカと本気でケンカしたの、あれが最初で最後。
クチゲンカだけどね。
ーーで、しばらくタカと冷戦状態になって、
わたしが、タカと顔を合わせようとしても、合わせられないもんだから、
親が不可解に思って、
それで、
結果的に、わたしが抱えてる問題を、親に打ち明けることができた。
ーーふしぎだね。
そんでもって、わたしはスイミングを辞めて、水泳部は辞めずに残って、
現在に至る。」
× × ×
「なんか、脈絡のない話になっちゃったね」
「ーーたしかにそうかもしれませんけど、
なんだか千葉センパイとタカくんのエピソード…、
短編小説、というよりも、読み切り少女マンガのネタになりそう」
「えっ」
× × ×
その夜。
わたしは、タカの部屋が見えるわたしの部屋で、ストレッチをしていた。
不意にタカが部屋のカーテンを開け、わたしとタカはお互いを見合う形になって、少し気まずかった。
タカが、カーテンを開けたまま、スマホをぽちぽちしている。
♫着信音(byスキマスイッチ)♫
「なに? タカ。
言いたいことがあるなら、窓から言えばいいじゃん。」
『バカ。近所迷惑だろっ』
「だけど……」
『ひとつ言っておく』
「なによっ」
『ストレッチしながら、そのリボンは似合わねーぞっ』
(プッツン)
「……、
……、
……、
…たしかに。
なんでわたし、こんなリボンつけてるんだろう?
…、
……、
タカの話を、羽田さんにしたから、?」