蜜柑です。
少し、調子を崩して、
お嬢さま…アカ子さんに甘えてしまって、
それで、アカ子さんが、
『今週はいっしょに寝てあげる』
って言い張るものですから。
朝が来た
「むくり」
「い、いけない、もう起きなきゃーー」
『蜜柑』
そこには、
制服に着替えた、
アカ子さんが。
「蜜柑…しばらく、家のことは、わたしたちでなんとかするから」
「(;´Д`)しばらく、って…いつまでですか」
「もうっ、野暮なこと訊かないで、ちゃんと休んでなさい!
朝ごはん、用意してあるから、もう少し寝るなら、あっためてね」
「(;´Д`)……」
× × ×
起きるのが億劫(おっくう)で、
ようやくベッドから出られたときには、
信じられない時間に。
どうしちゃったんだろ、わたし。
でも、からだは正直だ。
休みたがってるんだーー
い、いや、それじゃダメでしょ、わたし。
でも、からだがうまく動かない。
着替えるのにすごく時間がかかって、
作ってくれた朝ごはんをあっためていたら、
コーヒーがある場所すら忘れてしまって、
ラチがあかないから、代わりに冷蔵庫のコーヒー牛乳を飲んだ。
で、なにもできなくなったわたしは、どうすればいいんだろう。
読書?
本を読む気がまったくない。
テレビ?
なにも観る番組がない。
仕方なく、自分の部屋でCDを流してうだうだしていた。
時間が経過するのが、とてつもなく遅い。
ふと、高校時代の、友だちのことを思い出した。
卒業してから、まともに連絡をとっていない。
もう忘れられてるのかもしれない。
わたしは天涯孤独なメイドになってしまった。
支えてくれるのは、この家のひとだけ。
持つべきものは友。
苦しい時に、支えてくれるはずの友人が、わたしには…。
<ブルッ
LINEのバイブ音。
…メグ!??!!?
メグから連絡が来た。
望月恵(もちづき めぐみ)、
高校時代の、わたしのいちばんの親友だった。
『なんか調子崩しちゃったんだって? 蜜柑』
『どうしてわかったの……』
『アカ子ちゃんから、ねw』
『いつの間に』
『ねえ薄情だよお蜜柑。もっと連絡よこしてくれてもいいじゃあん。
もっと頼ってよ』
『ごめんなさい…。
でも、ありがとう』
『で、いま、あんたんちの前にいるから』
(ベッドから飛び起きるわたし)
× × ×
『おじゃましま~す』
「メグ、ごめんけど、きょうは紅茶、入れられない」
「わかってるよ、つらいんでしょ。
服の着かた、見てたらわかるw
ダメダメだもんね、きょうのあんたのファッションw」
「(・_・;)ーーそんなに私服を見せる機会があったかな」
「目撃談」
「へ?」
「目撃談、けっこうあるんだよ、あんたのw
あんたの知らないところで」
「(・_・;)」
「…お昼、過ぎちゃったね。なんにも用意がない……」
「出前とればいいじゃん」
「たしかに。その発想はなかった」
「どうせKくんにフラれたトラウマでも掘り返しちゃったんでしょ。
それで、変な夢を見たりして」
「どうしてわかるの、メグ…」
「空回りしてたもん、あの頃のあんた。
失恋がつらかったら、もっと寄りかかってくれてもよかったのにね。
慰安旅行にでも連れてってあげたのに」
「慰安旅行って、高校生だったでしょ、わたしたちw」
「わたしアルバイトしてるって言ってなかったっけ? 高校だけどけっこう貯金もあったんだよ」
「バイト、してたっけ、そっか。
ーーわたし、薄情だ。
メグがバイトしてたかどうかも、忘れちゃってた」
「やけにネガティブだね、きょうの蜜柑」
「そうかなあ」
「ーー前向きなことばっか言ってたじゃないの。
前向きなことをひたすら言ってるあんたが好きで、親友になった」
「前向きーー? わたしが」
「だから、今みたいにしょげてるのは、気に食わない」
「気に食わない、って、ずいぶんハッキリと」
「だってあんたがあんたじゃない気がするもの!!w
引きこもりがちなんじゃないの!?w」
「そんなことないよ」
そんなことない、けど、
たしかに、
公共交通機関に乗ったりすることは、
ここ1年、滅多になかった。
「ねえ、ほんとに慰安旅行に連れてってあげてもいいんだよ。今ならーー」
「ありがとうメグ。
気持ちだけ受け取っておく」
「あちゃあ」
「ほんとうにありがとね。
でも、この家で、待ってるんだから、わたし、」
「アカ子ちゃんを?」
「そう、彼女が、『ただいまー』って、帰ってくるのを」
「また美人になったんでしょ、あの子w」
「そうね…妬(や)いちゃうぐらいに」
「蜜柑だってスタイルいいじゃんよ」
「それで寄ってきたオトコは全員振ってたから」
「(;^_^)…そうだったんだ」