蜜柑さんを元気づけてやってくれと、アカ子さんに頼まれて。
『男女1対1だと、何かとなあ』と、ためらっていたら、
アカ子さん、
『アツマさんが知り合いの大人の女の人に、一緒に来てもらうのはどうでしょうか?』って。
大人のおねえさんの知り合いなんて、思い当たりませんでした。
で、都合がつくのが、星崎姫ぐらいだった、という始末。
星崎。
こいつは断じて大人の女じゃねえ。
大丈夫なのか、蜜柑さんとの、相性ーー?
都内某商業施設
「こんにちは蜜柑さん。
すみません、星崎ってヤツがあとから来るんですけど、あいつ、時間にルーズみたいで」
「(テンション低めに)いいんですよ。」
ほんとうに、元気がないみたいだ。
いつもとテンションが、真逆だ。
「(うつむきがちに)すみません、あんまり眠れてなくて。」
「つ、疲れてませんか?」
「(小さくガッツポーズするようにして)へっちゃらです☆」
「ーー無理しなくてもいいんですよ。」
背の高い蜜柑さんが、小さく見えてしまう。
アカ子さんぐらいの大きさに見えてしまっている。
『おっはよーございまーっす』
「げっ星崎」
「ドン引き? ひどいね、のっけから」
「さっきのおまえの挨拶、なんかキャラが違う…」
「やる気元気星崎♫」
「いやわけわかんねぇ」
ちらりと蜜柑さんの様子を見る。
おれたちのやり取りが微笑ましいのか、小さく笑っている。
ちょっと元気が、出始めたのかもな。
星崎も、捨てたもんじゃないじゃないか。
「はじめまして、戸部くんの大学の同級生の星崎です」
「こちらこそはじめまして、永井蜜柑と申します。
羽田愛さん、ご存知ですか?
愛さんは、わたしが住み込みで働いている邸(いえ)の~(以下略)」
「メイドさんってほんとうにいるんですね。
でも、メイドさんっぽくないというか…とっても、カジュアル」
「メイド服はほんとうに限られた機会でしか使わないんです」
「ファッション誌のモデルさんみたい……」
「…嬉しいです……。
アカ子さん、普段そんなこと言わないから…」
普通に感激してるよ。
「じゃあ新しくできたっていう店でランチにしますか」
× × ×
・食後のティータイム
「おいしかったー。
どうでした? 蜜柑さんは」
「あの、ここに来る前は、食欲があんまりなくて、それが、気がかりだったんですけど…不思議、食べられちゃうものですね。
とはいえーー」
「とはいえ、?」
「(星崎の耳もとで何ごとかささやく)」
「ーーさすがw」
「これ、オフレコですからねw」
「じゃ、会計はぜんぶおれが持つから」
「え、い、いいんですか、アツマさん」
「バイトの稼ぎが思いのほかよかったんです。
ま、よくなかったとしてもーーぜんぶ持ってますけど」
「ーーアツマさんは、
いいダンナさんになりますよ」
「な、なにいってんですかぁ」
× × ×
「戸部くんってよくキョドってるね」
「おまえこそNGワード言ったらキョドるくせに」
「む~っ」
「なあ…蜜柑さん、さっきおまえの耳もとで、なにつぶやいてたのか、訊(き)いてもいいか?」
「ダメ。オフレコ。」
「ケチ。」
「ヒントはね、蜜柑さんのプライドに関わること」
「プライド…? 仕事に関係してるってことか? メイドさんの」
「野生の勘だけは鋭いのね」
「」
「で…このあとどうするか、決めてなかったという」
「突発的な企画だったみたいだから、仕方がないですね」
「あの…マズかったですか? 無理に元気づけようとするみたいで、」
「まっさかあ!!
アツマさん、
わたし、
もう一度前向きなわたしになれる気がします。
もし、アカ子さんやメグやアツマさんや星崎さんが後ろ向きになっちゃったら、
わたし恩返ししてあげたいなー、って」
「…そうこなくっちゃ。
前向きな蜜柑さんが、蜜柑さんですよ」
(^_^;)『メグ』さんって誰なんだ。
まあいいや。
「じゃあ蜜柑さんがいまいちばんやりたいことしましょうよ」
「お、星崎にしてはいい提案だな」
「だってそうでしょ!? それっきゃないでしょ」
「賛成」
「中性」
「アルカリ性」
(爆笑する蜜柑さん)
「ーーでw
なにがしたいですか? 蜜柑さん。
せっかく知り合いになったんだから、もっと仲良くなりたい、わたし」
蜜柑さんは、
もうすっかり元通りで、
小さく見えない。
蜜柑さんが蜜柑さんに戻ったんだ。
「そうですねえ~w
じゃあ星崎さん、わたしはーー」