【愛の◯◯】愛とあすかの「修学旅行」(2日目)

旅行2日目

 

 

「いいのか? 奈良公園オンリーで」

「まったりしたいの」

「でも愛おまえ、『古寺巡礼』なんて本まで持ってきたのに」

「いいのよ。

 また来ればいいでしょ。

 また来ることに、もう決めたんだから、わたし」

「……そんな気に入ったのか?」

「気に入った」

 

と、いうわけで、

2日目は、奈良公園でゆっくりすることに。 

 

× × ×

 

興福寺

五重塔(ごじゅうのとう)

 

「木造(きづく)りの塔だと、日本で2番目に高いんだって」

「ふーん。じゃあ日本一高いのは?」

「(すかさず)京都の東寺(とうじ)にある五重塔

「さすがおねーさん! ちゃんと予習してる」

「『予習』……」

「実質修学旅行なんでしょ? アツマくん。

 修学旅行は予習して行くものでしょ」

「すんません、なんにも下調べしてなくて」

 

・三重塔(さんじゅうのとう)

 

五重塔だけじゃなくて三重塔もあるんだな」

鎌倉時代からあるの。

 五重塔はこれまでに何回も焼けちゃってるから、三重塔のほうが、古くから立ち続けているのね」

「…詳しいな。どんだけ予習したんだよ」

「公式サイトを何度も見返しただけよっ」

「エッ興福寺って公式サイトあるの!?」

「お兄ちゃん知らないの? おっくれってるう。有名なお寺は公式サイトがちゃんとあるんだよ」

「お坊さんもインターネットするのかよ…」

「それはどうかしらねえ?」

「ビミョーですよねw」

 

仏教とデジタルーー

なんかそぐわない気もするが。

(^_^;)ま、いっか。 

 

鎌倉時代からってことは、800年くらい昔からある、ってことですよね」

「いろんな歴史を見てきたのね……」

「すごい生命力ですねー」

 

・東金堂(とうこんどう)

 

おれは300円、愛とあすかは200円払い、なかに入る。 

 

薬師如来日光菩薩(にっこうぼさつ)と月光菩薩(がっこうぼさつ)をあわせて薬師三尊(やくしさんぞん)って言うの。

 薬師如来の右が日光菩薩で、左が月光菩薩

 

薬師如来の左を指さして)あれが維摩居士坐像(ゆいまこじざぞう)。

薬師如来の右を指さして)反対にこっちにあるのは、文殊菩薩坐像(もんじゅぼさつざぞう)。

 どっちも国宝ね。」

 

維摩居士像って、なんだかおじいちゃんですねw」

「若い文殊菩薩との対比になってるのよ」

「へぇ~、さすがおねーさん

 

どんだけ公式サイト閲覧したというのか、こいつは。

 

「ーーお堂の中って、なんかひんやりしてるんだな。」

「空気が清らかなのよ。厳粛な気持ちになるわね

 

そこまで言うかー。 

 

 

見知らぬおばあさん「姉ちゃん物知りねぇ」

そ、それほどでもないですっ

 

ーー目立ちやがって。 

 

見知らぬおばあさん「高校生かい?」

「はい、2年です」

見知らぬおばあさん「文殊菩薩はね、智慧(ちえ)の仏(ほとけ)さまなのよ。

 学問祈願、しときなさいな。

 

 京大だって受かるから」

 

ーーどこまで本気の言葉かわからなかったが、そう言い残し、謎のおばあさんは去っていった。 

 

「…お祈りしておこう。

 来年はきっと来れないから、

 1年早い、合格祈願」

「じゃ、わたしは2年早い合格祈願を」

「妹よ、気が早いぞ」

「なにいってんの、お兄ちゃんもお祈りするんだよ」

「なぜに!?」

「留年しないように祈るの」

「……」

 

× × ×

 

・国宝館

 

おれは700円、愛とあすかは600円払い、入館。 

 

有名な興福寺仏頭(ぶっとう)の存在感にびっくりしたが、元は、山田寺(やまだでら)というお寺にあった仏頭らしい。 

 

「国宝館」ゆえ、国宝が目白押しだったわけだが、文字数のつごうで、もろもろカット。 

 

有名な金剛力士とか阿修羅像とか千手(せんじゅ)観音とかは、もちろんバッチリ観た。 

 

仏像だけでなく、お椀や燈籠(とうろう)、古文書(こもんじょ)なんかも展示されていて、当然それらもぜんぶ国宝。 

 

梵鐘(ぼんしょう)、つまり釣り鐘(がね)のことだが、国宝館とは別の場所にあるらしいけれど、やはり国宝らしい。

 

愛によると、日本で2番目に古く、でも妙心寺(みょうしんじ)というお寺にあるのが日本最古の鐘で、これは7世紀末、つまり平城京ができる前から存在するそうな。

(どんだけ下調べしてんだよ……) 

 

× × ×

 

奈良国立博物館

 

ようやく興福寺から抜け出せた。

 

おれは260円(学割)払い、愛とあすかは高校生なのでフリーパスで入館した。 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

あー楽しかった!

 

「愛に残念なお知らせがある」

「?」

「文字数のつごうで博物館観覧の様子はカットだ、苦渋の決断だ」

「え~~っ、あんなにおもしろかったのに、展示」

奈良公園だけでこんなに『みどころ』がある、ということが<想定外>だったようだ」

「<だれが>想定外だったの?

 

 …あ、わかったw」

 

 

「おねーさん、『葉風泰夢(ハーフタイム)』ってところでお茶できるらしいですよ」

「アツマくーん、わたしコーヒー飲みた~い」

「わかったよ。

 この記事も、ハーフタイムだな」

「こっち向いてしゃべりなさいよっ💢」

 

◯ハーフタイム

 

 

 

 

 

 

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というわけで、

ここからは羽田愛がお送りします、

奈良観光。 

 

コーヒーも飲むことができたし、

あとは大仏様を拝(おが)んで、

シカとたわむれるぐらいかしら。 

 

えっ?

 

『どうしてそんな多くの奈良情報を一度に記憶できるんだ』って? 

 

ーー理解すれば、覚えるでしょ。

『答えになってねーぞ』って、アツマくんに言われちゃいそうだけどね!w

 

それはそうと、本日のクライマックス、東大寺に行くわよ。

 

ついてきてね。

 

 

東大寺

 

「さすがに人が多いですね」

「そうねえ。外国人旅行者もいっぱい」

「ふたりともはぐれんじゃねーぞ。

 迷子になったら放送してもらうからな」

「そんなことしてもらえるの!?ww」

「おwwwお兄ちゃんwwwそれひょっとしてギャグで言ってるのww おwおwおかしいwwwwwwww」

「(顔を赤らめて)バッキャロー、おれにも責任ってもんがあんだよっ」

「わかった、わかったからアツマくん。

 早速だけど、大仏殿に行きましょう。

 事前情報だと、全員、料金600円みたいだよ」

「え…大仏見るのって、お金かかったの?」

「あたり前でしょおにーちゃん、興福寺でもお金払ってお堂に入ったばっかりでしょうがっ」

 

やれやれ。

 

日本史の教授(せんせい) の息子とは思えない。

 

 

ーーあっ。

 

 

良馬(りょうま)さん……

 

アツマくんとあすかちゃんの、

おとうさん、

か……。

 

 

「ど、どうした愛、突然しんみりした顔になって」

 

「(悟られないように)ううん、なんでもない。レッツ&ゴー」

 

× × ×

 

 

 

 

・シカとじゃれ合うあすかちゃん

 

 

「ーーったく、高校生にもなって、幼女みたいに」

「もう、たとえかたがひどすぎ。」

 

「ーー大きかったなぁ大仏」

「ーーなにその月並みな感想」

「わるかったなボキャブラリーが貧しくて」

「ーーいいのよ、別に」

「……、

 

 なんか、ヘンなことでも思い出したのか?」

 

 

ギクッ。 

 

 

「だ、だいじょーぶだよ、なんにもないから、なんにも」

 

「ーーおれたちの父さんのことか」

 

 

「ーーどうしてピンポイントでわたしが考えてたことを言い当てられるの……」

 

 

「『日本史教授の息子なのに、なぜ大仏を観るのにお金が要(い)ることもわからなかったのか?』

 

 ーーこういう疑問から、

 父さんのことを連想した、連想してしまった。

 

 こんなとこか。」

 

「大正解。120点満点」

「ほらな。

 

 ーーいいんだよ、気をつかわなくても。

 

 

 昨日さ。

 

 父さんと約束したんだ。

 これからは毎年、おれがあすかのサンタクロースになってやる、って」

 

 

アツマくんの明るい笑顏。

 

あすかちゃんはシカの子どもと追いかけっこをしていて、こちらの対話は一切耳に届いていない。 

 

良馬さんとのアツマくんの約束が心に大きく大きく響いて、アツマくんの顔がまともに見られなくなって、

 

ほんとは、アツマくんだってあすかちゃんだって、

 

つらいはずなのに、

 

さみしいはずなのに、

 

かなしいはずなのに。 

 

 

「…ごめん」

 

「……重いか。

 こちらこそ、ごめんな」

 

 

アツマくんの背中を、うしろから少し動かして、その背中に、顔を押しつける。

 

こうすることでしか、

 

わたしの気持ち、表現できない。 

 

 

「ーーそれでも。

 おれは、おれたちは、

 今をがんばって、今を精一杯楽しむことしかできないんだから。」

 

「強いね」

「強がりだよw」

「わたしよ、強がりは」

「あのさ……」

「恥ずかしい? この体勢」

「いや、そーゆーことじゃないんだw

 

 おまえが強がってるところに出くわすとさ、

 

 ーーカワイイんだ、

 おまえの、強がりがw

 

 

(静かに顔を背中から離す)

 

 

ーーこの、バカ正直!w

 

「素直じゃないより、100倍いいだろ?」

「さっきのあなたの『カワイイ』は殿堂入りね」

「なんの殿堂だよw」

「なんでもいいでしょ」

 

 

 

…アツマくんは、

やっぱり、

カッコよかった。

 

アツマくんが、カッコいい。

 

あすかちゃんが、はしゃいでる。

 

 

ーーそれだけで、素敵な今だ。 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

ーーというわけで、平穏無事に、今回の関西旅行は終わった。

 

帰りの新幹線では、もちろん、わたしとあすかちゃんは、爆睡。

 

『おまえとんでもない寝ごと言ってたぞw』ってアツマくんに指摘されたのは、ちょっとショックだった。

 

そういうことは女の子には言わないでおくものでしょーがっ!!

 

無神経……w

 

 

 

最高にアツマくんらしい無神経で、

 

最高に、好き。