【愛の◯◯】大きな弁当箱

戸部邸

月曜日。

新しい1週間のはじまり。

 

少しだけ遅く起きて、

少しだけいつもより眠かった。 

 

少しだけ眠い目をこすりながら、

階段を降りて、

ダイニングへと向かう。 

 

「おっはよ~。

 あ、あれ!?

 

アツマくんが、

わたしより早く起きて、

台所に立っている。 

 

「どうしちゃったの」

「どうもこうもない。

 料理してるんだ」

「でもそれ朝ごはんじゃないでしょ」

「そうだよ。

 だって弁当だもん」

「えらいじゃない、大学にお弁当自分で作って行くなんて。

 いい心がけよ」

おまえのもあるぞ

 

びっくりして、

一気に目が覚めた。 

 

えっ、なに、それは、つまり、どういうことになるの

「なんだ、おまえの弁当も作ってるってことに決まってるだろー。

 ニブいなあ」

は、はじめてだよね、こういうこと

「おれも大学生だからな!」

「関係ないと思うけど」

「でもたまにはいいだろ、こーゆーのも」

「たしかに」

 

× × ×

 

「ねえ、アツマくん……、

 お弁当とは関係ないんだけど」

「なに」

いっしょにアツマくんの服買いに行こうよ。

 夏物の服

「いつ」

「できるだけはやく」

「アバウトだなあ」

(ムカッとして)じゃあ今度の土日!!

「カルシウム不足か?」

「は!?」

「おれの弁当でも食っておちつけ」

 

そう言って、

アツマくんはわたしにお弁当を渡してくれる。

 

……いただきます

「いってきます、だろ?」

……いってきます

 

 

 

学校

昼休み

 

昼休みのチャイムが鳴った。

誰にもさとられないように、

こっそりと、教室を抜け出そうとした

もちろん、アツマくんの手作り弁当とともに。

 

「愛ちゃん、どこ行くの?」 

というアカちゃんの声が聞こえたが、

聞こえてないふりをして、

どうにか廊下に出ることができた、

と思ったら、

こんどは、

不運にも、

廊下に出たわたしの正面に、

さやかが待ち構えていたのだった。 

 

「あんた弁当持ってどこ行くの」

「これはーー、えーーーーーーーーーーーっと」

「(優しい微笑で)ひとりで食べたい?

 そっとしてほしいことでもあった?」

「あるっちゃ、あるんだけど」

「歯切れ悪いなあ。

 あっ、愛の弁当箱、いつもより大きい

 

ニヤリとするさやか。

追い打ちをかけるように、

アカちゃんが近づいてきて、 

 

「本当だ。

 まるでアツマさんが食べるみたい

 

 

わたしは黙って自分の席に戻った。

アカちゃんとさやかが、楽しげな表情を浮かべている。

 

弁当箱の入った包みを、ゆっくりゆっくりほどこうとした。

 

だんだんと、クラスメイトが、わたしの周りに群がってきた。

 

「み、みせものじゃないのよ」

「あ、カードみたいのが入ってる」

「か、かってにひろわないでよ、さやか!!」

「『この前のお返し。アツマより』」

 

おおお~っ

 

震える手で、

大きめの弁当箱を、

パカっと開けた。

 

おおおおお~っ