『彼女』に、直接電話をかけた。
『も、も、もしもしっ』
「アカ子さん?」
『そうよ…』
「今、ちょっといいかな?」
『まじめな話…?』
「うん、まじめな。
ーーきみに謝ろうと思って。
商店街の日は、おれがバカだったよ。
おれがバカなこと言って、
きみをバカにしてた。
ごめん。」
『……………』
「なんとか言ってくれたほうが、うれしいんだけどw」
・
・
・
『ーー会ってはなしがしたいわ』
「どこで?」
『あの公園で。』
「ああw 前にきみと出くわしたことがあった」
『一度ならずとね』
「そうだったね。
ーーそうだ、」
『?』
「きみ、からだを動かすことは、嫌いではないんだよね?」
『ええ。
体育の成績は良いほうよ。
ハルくんーーあなたほどじゃないと思うけど』
「あはは。じゃあさ、
キャッチボールしようよ」
『キャッチボール?!』
「最近、からだがなまってて、だめなんだ。
少しは動かしたいなあと思って」
『わたしもーー奇遇ね。わたしもちょうどそう、思ってた』
× × ×
公園
「よくグローブを持っていたね」
「お父さんが持っていたの」
「きみのお父さん、案外ヒマだよねw」
ぎゅーんと豪速球が飛んできたので、
デッドボールを避けるために、素早くグローブでキャッチする。
「無神経なこと言わないで。
ヒマなわけないじゃないの。」
『その割には平日に家にいたりするよね』という言葉を呑み込んで、
「ごめん。悪かった」
「…素直すぎない!?」
「アカ子さん!
きみの球、すごく速かったよ」
「速ければいいってものではーー」
「今度はそっちが捕るんだぞ。」
<バシッ
「…本気で投げた? ハルくん」
「手加減はしてない。
よく捕れたね」
「(山なりのボールを投げてきながら)
ハルくん……、
悪かったわね」
「(受けとめて)謝るときはなんていえばいいんだっけ?w」
そうやって、アカ子さんに7割ぐらいの力加減でボールを投げ返す。
彼女は左のグローブだけで捕球し、うつむきつつ、ピリピリとした様子になる。
そして彼女は、
力任せに、暴投しながら、
こう叫ぶ。
『ごめんなさいっ!!』
× × ×
「やれやれ。ずいぶん遠くに飛んでいったから、走ってって少し息が切れちゃったよ」
「ごめんなさい」
「2回もごめんなさい、って言わなくてもいいよ」
「でもーー」
彼女は、ぼくの5メートルぐらい先に近づいてきている。
「アカ子さん、」
「(ビクン、として)はいっ」
「本当は、『ごめんなさい』なんて、言ってほしくないんだ」
「!?」
「でも、『ありがとう』なんて言われるようなこと、きみにしてあげたような記憶もないんだけどさw」
彼女が、3メートル前方に近づく。
「たしかに、あなたがわたしのために何かりっぱなことをしてくれたことはないかもしれないわね」
「素直だなあ」
「でも、わたし、感謝したいことがあるの」
「え? ぼくに?」
あと1メートル。
「ハルくん、あなたに、じゃなくて。
あなたに感謝したいんじゃない、
あなたと出逢えたことに感謝したいのよ。」
「どうしたのハルくん?
ひとりでにボール落として。
ーーわたしが言ってる意味がわからない?
それとも、わたしが言ってる意味がわかったから、そうしてるの?
(はにかんで、)たぶん、後者なのね。」
ゼロメートル。
そして彼女は、
拾い上げたボールを、
ぼくの胸の真ん中に、
押しつける。
彼女がぼくの顔を見上げ、
ぼくが彼女の顔を見下ろす。
そんな状態が、しばらく続いた。
「ーー好きです、ハルくん。」