・土曜日
・ハルくんに、電話
「ーーごめんなさいね、お正月なのに、こうやって電話で話すヒマもなかなかなくって」
『忙しいんだね』
「毎年この時期はあわただしいのよ」
『きみんちの事情はなんとなくわかるよw』
「てんてこ舞いだわ。いろんなつながりがあるから、出向いたり出迎えたりで」
『それはご苦労さま、だなあ』
「ありがとう……年々苦労が増えてるけれど、負けないわ、わたし。
そ、それでね、ハルくん。
きょう通話したのは、あなたの声を聴きたいから、というのもあったんだけれど、」
『けれど、?w』
「おねがいごとがあるの」
『どんな?』
「ええっとね…えっと……もう三が日は、過ぎちゃったんだけど……いまさら初詣、なんて、ヘンかしら?」
『ヘンじゃないと思う』
「ほんとうに?」
『ああ。よく知らないけどさw』
「いい加減ねえ」
『で、アカ子は何がいいたいの』
「それは…」
『きみは何がやりたいのw
おれと何かやってみたいんでしょ?w』
「あ、あなた、ことばづかいがガサツよっ、『おれと何かやってみたいんでしょ』なんて」
『日本語が不自由で申し訳ない』
「わざと下品なことばづかいしたら怒るわよ」
『わざと、じゃあないよ。
けっきょくさ……ww』
「なに笑ってるのよ💢」
『けっきょく、おれと一緒に初詣に行きたいんでしょ?w
はじめっからそう言えばいいんじゃんか』
(;-_-)あのねー。
…言えたら苦労しないことぐらい、わかるでしょう。
× × ×
・日曜日
都内某神社にて
「あけましておめでとう、ハルくん。」
「うん、おめでとう、アカ子」
「今日はよろしくね。
そして、今年もよろしく。
……、
着物のほうが、よかった?」
「(・・;)え、いきなり、なんだよ」
「もうお正月休みっていう空気じゃないから、和装(わそう)だとかえって変に見えるんじゃないかしらと思って、それで着物は着てこなかったんだけれど」
「……自分が『いい』と思う服装で来るのが、いちばんじゃないのか」
「……、
キザね」
「ど、どこがだよ!?」
「~~♫」
× × ×
「お賽銭、いくら入れる?」
「いくら入れたって変わんないさ」
「ご利益(りやく)がぜんぶ逃げていくわよ」
「きみはそういうこと気にすんのか。金額の大きさとか」
(わたしは黙って紙幣を財布から取り出す)
「( ゚д゚ )ポカーン」
「あんまりまじまじと見ないでよ…毎年、こうしてるのよ」
「( ゚д゚ )着物を着る着ないを気にしてると思ったら、そういうところは無頓着なんだな」
「どういう意味よ」
「いや、別に……(小銭を投げ入れる)」
ハルくんがどうしてうろたえたようになっているのか、
全然わからない。
「(お祈りするハルくんに接近して)
ねっ、今年のお願い、何なのw」
「ーー決まってるだろがっ」
「そうよね、決まっているわよね」
「ーーわかるの? おれの願いごと」
「もちろん♫」
「そう言うきみは、何を…」
「この願いごとは、秘(ひ)めごと。」
「はぁあ??」
(取り澄まして、拝殿の鈴をカランカラン…と鳴らす)
「まったく、素直じゃないなー」
「やっぱり言うわ」
「どんだけ素直じゃないんだよ!?」
「ハルくんが、
ハルくんが、ぜったいケガしませんように、って。」
そう言って、
わたしはほんとうに素直じゃないからーー、
わざとハルくんから、顔をそらした。
「アカ子ーー。」
「おみくじ。おみくじ引きに行かない?」
「いや、おみくじはちょっと……」
「凶が出るのが怖いのね」
「ずばりだな」
「ずばりでしょ」
「でも、きみにそう言われたからには、不吉なのを怖がっちゃいけないよな。
引くよ、おみくじ」
「き、切り替えがはやいわね」
「誰かさんと違って素直なタチなんだ」
「もうっ、あなたってば!!」
「おみくじ代は別々で」
「あなたって素直だけどイジワルなのね」
「そうでもないと思うがw」
・おみくじを引いて、開封した
「お互いにいい結果が出たわね」
「…どこが、いい結果なんだか」
「受け止めなさいよ。
それと、
このおみくじ持って、写真撮るわよ」
「え、まじで」
「結果がわかるようにおみくじを見せながら、あなたとわたしが写ってる写真を」
「ツーショットってことか」
(ハルくんのことばに構わず、
左腕を彼の右腕に回して、
右手でスマホを掲(かか)げる)
「そっちの手(左手)でおみくじ持って、結果が写るように、手をこっちに近づけて」
「ーーこう?」
「よーくわかってるじゃないの」
♫パシャ♫
「念のためもう1枚」
♫パシャ♫
「ふう……、
いろいろあわただしいって言ってたから、正月疲れで、きみはてっきりくたびれてると思ったよ。
それが、こんな体力が残ってるなんて」
「だからなんでそんなにわたしの体力を甘く見てるのよ?
スポーツテストの成績、見せてあげようかしら? 今度。
と、
ところでーー、
あなた、いつまで、
わたしの、
手、握っているの、」
「(ぶっきらぼうに)握ってきたのはアカ子のほうだろ。」
「わたしは握ったんじゃないわ、腕を回したの、
そう、腕を回した、だけ……」
「(しどろもどろに)そうとも…いえる。」
(わたしの左手を握ったまま、持ち上げる)
「(見つめ合いになって、)
は…はる、くん、どうして」
「言い忘れたことがあって。
…今年もよろしく。」
「……はい。」