加藤周一 読書術 拾い読み

幾山河

 

なぜ加藤周一はこれを章題? にしたのか

 

 

 

 

2 幾山河

おれ、学生時代から、本を持たないで外出したことないよ。これは自信を持って言えるね。だってさ、いつどこで「ちょっと待っててね」って言われて待たされるかわからないじゃんよ。「ちょっと待っててね」って言う人は偉い人かもしれないけど、おれが隠し持ってる本の作者よりは偉くないでしょ? たとえば誰かって? 森鴎外。ところでさ、森鴎外って、おれの大学の先輩なんだよね。あ、学歴自慢しちゃったw

 

第二次世界大戦の時の話していい? 

おれ、自分の家から片道1・5時間かかる東大病院に毎日通ってたんよ。

ほら、『新年の抱負』ってあるじゃん? 書き初めなんかして、大抵は絵に描いた餅になる。でもおれは本気だったんだ。何をしようと思ったかって? ラテン語のお勉強。文法よ文法。イギリスからラテン語文法の教科書が2冊出てたから買ったの。教科書っていってもみんなが想像する教科書じゃないよ、すごく小さいの。文庫。しかも中身がすげークオリティ高いんだわ。

で、おれんちから東大病院まで片道1・5時間って言ったでしょ? 「通勤電車の中で必ずこの教科書を見る!」って心に決めたんだわ。で、1年間経ったら、『新年の抱負(笑)』が満更でもないわけだわ……!

 

もうひとつ自慢話していい?

だめ?

先生が「ネアンデルタール人」を知らなかったって話。

 

 

 

参考文献:加藤周一 『読書術』 岩波現代文庫 2000 「Ⅰ-2 幾山河」