【愛の◯◯】葉山さんの極悪さを見過ごせなくて◯◯

 

昨日に引き続き葉山(はやま)むつみさんが邸(ウチ)にやって来た。競馬担当記者になるコトが決定してしまったわたしへの『レクチャー』のための来訪だ。

今日の『講習会場』は『リビングB』である。昨日の『リビングC』よりもワンランク上の規模である。

温かい紅茶を『リビングB』へと運び込んだのだが、ソファの手前に葉山さんが立っている。

優雅な立ち姿は大変よろしいんだけど、

「座らないんですか?」

「この空間の雰囲気を味わってるのよ、あすかちゃん」

わたしの問いに謎めいた答えを返す葉山さんがいたのであった。

ティーカップを置きながら、

「今日は、お馬さんレクチャーがあんまり横道に逸れたらイヤですよ。昨日よりも厳しく行きますから、わたし」

「横道に逸れたら、怒っちゃうってコト?」

「そーゆーコトです」

「どっちが講師でどっちが受講生なのか分かんないわねえ」

無言でジトォッ……と流し目を送るわたしがいた。

「そういう流し目も、あすかちゃんの『厳しさ』の表れなのかしら☆」

……無言でドサァッ、とソファに腰を下ろすわたしがいた。

 

× × ×

 

土曜日に中山競馬場で行われる『ホープフルステークス』について教わった。

今でこそG1競走だが、ホープフルステークスはかつてはグレードレースですら無かったそうな。

2006年のホープフルステークスもオープン特別に過ぎなかった。ディープインパクトが有終の美を飾った有馬記念当日にレースが組まれ、ディープインパクトの弟のニュービギニングが優勝した。

『G2時代の優勝馬シャイニングレイは良(い)い馬だったわねえ~』と話す葉山さん。シャイニングレイホープフルステークスを勝った時、彼女が何歳だったのかについては触れない方がヤケドしないと思われます。

 

2杯目の紅茶を飲み干したわたしが、

「G1じゃ無かった頃のホープフルステークスの方を熱く語っちゃってるじゃーないですか」

と言ったら、

「そうともいうっ☆」

と、不可解にも右眼のすぐ横でピースサインをしながら葉山さんは応えるのだった。

溜め息混じりに、

「飛ばし過ぎは厳禁(ゲンキン)ですよー。このあと、もう1人『講師』がここに来るんですから」

とたしなめたら、

「そうともいうっ★」

と、葉山さんはまたもや右眼のすぐ横でピースサインを……。

 

× × ×

 

中村創介(なかむら そうすけ)さんが『リビングB』の入り口に立っている。

「あすかさんのお邸(ウチ)にお邪魔するの、初めてだ」

「そーでしたっけ?」

「そうだよ」

『わたしは何度も何度もお邪魔してるのよ~~!!』と向こうから声を飛ばしてくる葉山さんをシカトして、

「どうでしょうか、邸(ここ)の第一印象は」

「すごいね」

すぐに答えてから、

「きみが部活の後輩だった頃は、きみを『お嬢さま』みたいに認識したコトは無かったはずなんだけど」

「そーゆー感想漏らすヒト、比較的多いんですよ」

「なはは……」と苦笑いしてから、わたしが高校1年だった時の『スポーツ新聞部』の部長は、

「あすかさん、しばらく見ない内に……」

と言いかけるけど、コトバを停(と)めてしまう。

「言い切っていいんですよ、そこは」

微笑(わら)ってわたしは促すけど、

「いや、敢えて言い切らないでおく」

「えぇー」

「『きみの予想印が『青春(せいしゅん)スポーツ』の馬柱(うまばしら)に載る日を心待ちにしておく』とだけ言っておくよ」

 

× × ×

 

「ずいぶんとわたしを焦(じ)らしてくれたじゃないの、ふたりして立ち話で」

ニヤつきながら葉山さんが言う。そんなに長い立ち話じゃー無かったでしょーが。葉山さんがいちばん年長なんだからガマンしてくださいっ。

わたしから見て左斜め前、葉山さんから見て右斜め前のソファに腰掛けた中村創介さんが、

「早速ですが、週末の『ダブルG1』のハナシ、しますか? 『中山大障害』を付け加えてもオッケーですけど」

ホープフルステークス有馬記念、それから中山大障害。週末の中山競馬はエキサイティングなレースが目白押し。

今日、福岡県から東京に帰省してきたばっかりの中村さん。中山競馬場が物理的に近付いてテンションがアップしているのか、一刻も早くレース展望がしたいような表情だ。

わたしは中村さんのテンションにノッてあげて、

「是非『大障害』も付け加えましょーよ。わたし、中村さんがアツく語ってくれるのを楽しみにしてたんです」

と言いつつ、前のめりに。

……しかし、ここで、

「創介くぅーーーん」

と、わたしの真向かいソファから、不穏な声……。

空気を読むつもりも無い葉山さんが、

「このあと、マオちゃんに会うんでしょう?」

と、笹島(ささしま)マオさんとのコトで、中村さんを突っついていく……。

「……会いますが」

中村さんが答えたら、すかさず、

「遠距離カップルの感動の再会なんだから、キスしないとウソよねぇ!?」

と葉山さんは浅ましくも……!!

心なしか、中村さんのかけている眼鏡がずり下がったように見える。

中村さんが可哀想。

葉山さん、ここまで極悪になれるだなんて……!!

「明日は誰がどう考えたってクリスマスイブよ!? レース展望ドコロのハナシじゃ無いじゃないのよ!?」

際限無く加速する葉山さんの極悪さに対してわたしは、

「葉山さん、お口にチャック!!! 昨日みたいに、わたしから競馬雑誌を投げつけられてもいいんですか!??!」

ずり下がり気味の眼鏡を立て直してからわたし方面を向いてくる中村さんが、

「競馬雑誌を、投げつける……!? あすかさん、高校時代よりも、ますます強気さが増したんだねぇ」

と驚きつつ言ってくるけど、気にしない!