【愛の◯◯】ボーイフレンドがぶっちゃけあり得ないから叱る

 

昨夜聞いたデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」という楽曲がアタマから離れない。珍しくポピュラー音楽のプレイリストを再生していたら流れてきた。7分以上の長さの曲だけど聞いていてダレなかった。スルメ的というかなんというかで、段々と引き込まれていっているのを認めざるを得なかった。

「レッツ・ダンス」が延々と脳内回転しているワケだが、グラム・ロックを代表するスターミュージシャンにアタマの中を乗っ取られてばかりなのは良くない。若き日のデヴィッド・ボウイとは似ても似つかないけど、柔らかにハンサムな顔立ちの年下の男の子が眼前(がんぜん)の席についている。

羽田利比古くん。羽田愛センパイの弟さん。そして、わたくし川又ほのかの、ボーイフレンド。

木曜日の午後1時半過ぎ。わたしの実家たる喫茶店『しゅとらうす』にお客さんはあまり居ない。スイーツを欲して来店してくるお客さんで賑わうのはもう少し先の時間帯だ。中弛(なかだる)みというかなんというかの時間帯の中で、お小遣い目当てでエプロンを身につけているわたしは、カウンター席についている利比古くんと向き合っている。

ガラスコップを全て拭き終わったわたしは、

「あのさ」

と言ってから右肘(みぎひじ)で頬杖をつき、

「ご存知の通り、企業から内定をプレゼントされたんだけど――」

と言った後で、3秒間コトバを溜め、

「ぶっちゃけると、『モチベ』不足なの」

利比古くんが、

「『モチベ』? 『モチベーション』の略ですよね? なんだか、川又さんらしくない。そういう俗っぽい略し方は、川又さんには……」

わたしは苦笑しながら遮(さえぎ)って、

「帰国子女だから、そーゆートコに厳しいんだねえ」

やや俯(うつむ)く利比古くん。

利比古くんはコーヒーカップの把手(とって)に指をかけるけど、なかなか持ち上げようとしない。

 

× × ×

 

それから15分後。

利比古くんがほとんど下向き目線になってしまっていたから、脳内のデヴィッド・ボウイが薄れかかっているわたしは、流れを変えてみたくなって、

「6月9日まで、あと4日だねえ! 4日しかないねえ!」

と、正面の利比古くん目がけて前のめりになっていく。

流石にビックリしたのか、利比古くんは顔を上げる。

大好きなハンサムフェイスが視界に際立つから、わたしは嬉しい。

嬉しいながらに、

「あすかちゃんの、22回目の、バースデー。来たるべき4日後の『本番』に向けて、準備に抜かりは無いのかな?」

親友の戸部あすかちゃんは実家たるお邸(やしき)で利比古くんと距離が近い部屋で寝起きしている。それを踏まえた問い。

胸前(むなまえ)で腕を組んでみる。ジトォーーッという目線レーザーを利比古くんに注(そそ)ぎ込む。わたしだってあすかちゃんと同じ年度産まれ。年度が1つ下の利比古くんを翻弄するのは得意な方なのだ。

敢えてコトバを切ってみる。敢えて問いかけの意図を説明しないでおく。

考えさせる。

『『準備に抜かりは無い』という自信があるのか。自信があるのならば、具体的には……』

そんなコトバを、声に出すコト無く、目線レーザーに含ませる。「示唆(しさ)」の2文字である。長いつきあいなんだから、わたしのお気持ち、きっと分かってくれるよね?

眼と眼が合っているだけではなく、わたしの方から利比古くんを翻弄できているから、味わい深い愉(たの)しさが出てきて、胸前での腕組みをやめられない。

だが、しかし。

「……プレゼント、まだ、買えてなくて」

そんな衝撃的な発言が、利比古くんの口からマジで唐突に飛び出てきたから、今年に入ってから間違いなく最高の驚きに打たれて、のけぞるようにカラダを動かしてしまう。

「ちょ、ちょっとちょっとちょっとッ」

体勢を懸命に立て直しつつ、わたしは、

「利比古くんってもしかして、『身近なヒトにプレゼントあげるのが遅れてしまいました』の常習犯!?」

「まだ『遅れる』と決まったワケじゃ無いです。……今回は」

ボーイフレンドのショボくれた声に腹が立ってきて、

「ぶっちゃけあり得ないよ。あり得ないよね、150%。わたしなんか、6月に突入する前に、某商業施設に出向いて、あすかちゃんのバースデープレゼント購入してるんだよ!?」

嘘なんか言わない。「証拠」はわたしの部屋に存在している。

わたしの部屋に連れ込んで「証拠」を見せるのも1つの案だが、いろんな意味で面倒くさいコトになりそうだから、わたしはボーイフレンドを睨みつけるだけ。

「『某商業施設』って、どこですか? ぼく、具体名を――」

ショボくれてはいないけど間の抜けた声を遮って、

「ヤダ。教えないっ。プレゼントを買う場所は、自分で考えて、自分で決めなさいよっ」

と叱る。

『決めなさいよっ』という言い回し。21世紀産まれの女の子が普段全く使わない言い回し。そのはずなのに、なぜかわたしの周りには、こういう言い回しを多用する21世紀産まれ女子が少なくなくって。

例えば、利比古くんのお姉さんの羽田愛センパイが、そんな女子の中の1人なのだ。

……影響されちゃってるのかな。