「コーヒー美味しかったわ」
侑(ゆう)が言ってくれた。
「うれしい」
わたしはそう言い、
「お代わり淹(い)れてあげようかしら?」
侑は苦笑し、
「ううん。1杯でじゅうぶん。あなたみたいにカフェイン耐性が強いわけじゃないんだし」
「そっか。わかった」
わたしは、ダイニングテーブルの椅子から立ち上がり、2つのコーヒーカップをキッチンに持っていき、水を流し始めた。
洗っていると、背後から、
「アツマさんはいつ帰ってくるの?」
と、侑の声。
「18時ぐらい」
答えると、
「じゃあ、あと2時間は、あなたと2人きりで過ごすのね」
と、愉(たの)しげな声が返ってきた。
2人きりで過ごすのを強調したのはなぜだろう。
× × ×
カップを丁寧に洗い、丁寧に拭いた。
ダイニングテーブルに再び近付いていくと、侑が腰を徐々に浮かせているのが眼に入った。
それから、完全に立ち上がり、横目でわたしを見てくる侑。
「愛」
わたしの名前を呼んでくる。優しさだけでなく、甘えたいキモチも籠(こ)もっているような声。
「わたしのそばに来てほしいんだけど」
お願いされた。
違和感を覚えつつも、侑の前まで歩いていく。
「どうしたの?」
侑の真正面で訊く。
「……どうしたもこうしたも、ないんだけど」
照れ笑いで侑が答えた。
その次の瞬間。
包み込まれる感触が、わたしにやって来た。
背中と胸に侑のカラダを感じる。侑の体温が濃厚な体温で、心拍数が上がる。わたしの焦りを心拍数が示している。
「んーと……。なぜに、抱きつき? つらいことでもあって、わたしに寄り掛かりたいとか?」
「つらいことなんかないわ」
驚くほど甘えた声が返ってきた。
「それなら、どうして……」
わたしの疑問に構うことなく、
「こうして抱き締めてると、わかる……。あなたのカラダの方が、やわらかいのね。予想してた通りだった」
と言って、背中に回した手の強さを2段階ぐらい上げるのだった。