【愛の◯◯】ココロの底から愛している証拠

 

「川又(かわまた)さんに叩かれたり踏まれたりしたトコロ、まだ痛みが残ってるんじゃないの?」

朝食後のコーヒータイム。昨夜のアツマくんと川又さんの「一件」に関して、真向かい席のアツマくんに問うてみる。

「まーさか」

川又さんから与えられた痛みが残っているのをアツマくんは否定して、

「昨夜(ゆうべ)この部屋に帰ってきた時点で、痛みなんか消え失せてたよ」

「ホントぉ?」

「ホントだ」

まだ突っつきたいわたしはニヤニヤとなって、

「川又さん、腕っぷしの強さも、踏みつける足の強さも、わたしに匹敵するレベルなのに☆」

「……冗談だろ」

「うん、半分は冗談」

「『半分』って、おまえなー」

ここで、わたしはニヤニヤするのをやめて、穏やかな微笑を顔に作り上げ、幾分真面目な視線を彼目がけて送り、

「あなたに分かってほしいのは――」

と言ってから、ほんの少しだけ声を溜めたあとで、

「ほのかちゃんは、とっても良(い)い子だってコト」

川又さんの下の名前は、『ほのか』。

キモチが籠もると、『川又さん』呼びから『ほのかちゃん』呼びにステップアップする。

 

× × ×

 

夜の7時過ぎ。ダイニングテーブルの椅子に腰掛けてホットコーヒーをもてあそびながら、アツマくんの帰宅を待つ。

野菜の下ごしらえはカンペキだった。

 

――やがて、ピンポーン♪ とチャイムの音。

軽やかな足取りで玄関ドアに向かう。ドアロックを解除してあげる。

「外、めちゃくちゃ寒いぞ。風がヒュンヒュン吹いてる」

アツマくんのコトバを証明するかのように、冷たい空気が部屋の中に入り込んでくる。

ドアを閉めてくれる彼に、

「アツマくんでも『こたえる』寒さだったの?」

「あぁ。今月1番の寒さだったんじゃないのか」

彼氏を「くすぐる」のが好きなわたしは、

「それなら、わたしのカラダであったまればいーじゃないのよ」

と冗談めかして言っていく。

そしたら、彼氏は、グイグイッ、とわたしのカラダに接近。

両腕を掲げた数秒後には、わたしのカラダを抱き締めていた。

先制攻撃を受けたわたしのカラダが熱くなる。

アツマくんのカラダの熱の方が強い。

アツマくんの積極性に負けたのが、ちょっと悔しかったりもする。

 

× × ×

 

丸テーブルの上に学術書を積み上げた。

一風変わった読書が今夜はしてみたかった。いわゆる「拾い読み」である。ザッピングの如く、適当に開いた箇所から20ページ~30ページ程度読み進めるのを繰り返していくのだ。

意味の無い読書かもしれない。でも、読書は意味だけじゃ無いのである。

 

「なんだあー、ずいぶんヘンテコな読み方してるじゃねーか、おまえ」

というアツマくんからの雑音には当然耳を貸してあげない。

 

× × ×

 

お気に入りの70年代洋楽を詰め込んだプレイリストをPCで再生する。MTV全盛の80年代とは違った良さがある。アナログな音が胸に染み込む。『70年代だなんて、キミたちの親御さんが産まれた頃の音楽では?』みたいな余計なコメントには耳を貸さない。

 

「おれ、ねむたくなってきた」

1時間以上プレイリストを聴いていたら、気の抜けた声をアツマくんが出してきた。

「しょーがないわね」

ソファ座りのアツマくんの様子をカーペットから眺めていたわたしは、彼に向かって距離を詰め、

「今日のわたしは優しさ120パーセントだから、あなたが先に寝室に入るのも許してあげる。でも……」

と言って、それから、彼の逞(たくま)しき胸に飛びついていく。

帰宅時のアツマくんによる抱き締めのお返し。

完全に甘え気分で、抱きつきのままにアツマくんのシャツの背中をくいくい引っ張りながら、

「満足できないのなら、スキンシップをもう1段階強くするけど」

「……アホかっ。今以上に強くされたら、逆に眠れんくなっちまうだろーがっ」

そんな風に彼氏は抵抗するけど、恥ずかしさのようなモノが声音に混じっているのを彼女たるわたしに隠すコトはできない。

彼女だから、声に滲み出た感情ぐらい読み取れる。

 

× × ×

 

彼氏が寝室に引っ込んだあとでリビング奥のわたし専用スペースの小テーブルに向かっているけど、広げた日記用ノートに1文字も記せていない。

スキンシップのよろこびを引きずっているから。

まだ、カラダ全体があったかい。

アツマくんをココロの底から愛している証拠。