おれと藤村は実況パワフルプロ野球に興じている。
「戸部」
「んっ?」
「8月になっちゃったね、もう」
「…なったが」
「…季節が過ぎていくの、早いね、ってこと」
「……そうか」
「秋になって、大学の後期が始まる。卒論出して、後期が終わったら――もう、卒業だ」
「……卒業、か」
「あっという間に、社会人だよ」
たしかに。
光陰矢のごとし、ってか。
「――そういえば」
「? なあに、戸部」
「おまえの就職を、おれはまだ祝ってなかった」
「……だっけ」
「就活、ご苦労だった。内定、おめでとう」
「……それだけ?」
「なんだよ不満か」
「祝うって言ってて、肝心の祝福のことばがテキトー過ぎ」
「悪かったよ」
「ほんとうに良くない」
「ま、おれって、もともと不器用だし」
「…そうかな?」
「ミートカーソル動かすのにも必死だったし。それで、祝福のことばもテキトーに」
「…パワプロを言い訳にしないでよ」
ミートカーソルを「強振」に変える。
藤村の投球を、真芯(ましん)に当てる。
スタンドに大飛球が吸い込まれていく。
「うおー特大ホームランだ」
「142メートル……」
「悔しいか?」
「…悔しいし、ムカつく」
「ごめんなあ」
「……」
「罪滅ぼしに、『祝福のことば』を、おまえにもっとかけてやろうか」
「……え!?」
× × ×
帰り支度の藤村に、
「もっとゆっくりしてっても構わんのに」
と言う。
玄関の方角を藤村は見やりながら、
「あんまり長居(ながい)されても……困るでしょ」
と。
そんなことはない。
「そんなこたーない。迷惑する人間なんか、ここにはだれひとりいない」
「……優しすぎるよ。戸部。戸惑っちゃうじゃん」
おれに背中を向け続け、
「ねえ。
わたし――戸部を呼び捨てにし始めたのって、いつぐらいからだったっけ」
と突然に言う藤村。
「は? なんだそりゃ。唐突すぎる。
唐突すぎるし、おまえがおれを呼び捨てにしたのがいつだったか、なんて、おまえのほうがおれより鮮明に憶えてるんでは――」
「わたし、思い出せないの」
そう言って振り向く藤村。
「ねえ、戸部はきっと憶えてるんじゃないの?? 戸部だったら、そういうことには敏感で――」
少し詰まる、おれと藤村の距離。
「敏感ってなんだよっ。だいいち、こんな質問にどんな意味合いが…」
「…知ってる? 戸部」
「な、なにをだっ」
「オンナは……気まぐれだってこと」
ぬなっ。
「戸部……」
想定外のつぶらな瞳で、
「わたしたち、就職したら……会う機会、少なくなるね」
とか言ってきやがるから、何事かと思っちまう。
視線がいったん下がったかと思うと……笑い始める藤村。
なんなんだよコイツ。
「センチメンタルになっちゃった」
可笑しそうに言って、
「あんたのことなんか、異性(オトコ)として考えたことなんて、いちどもないのに」
と言いやがり、
「いまも、そんなふうに感じてなんかないし、これからも、ずっとそう」
と言いやがる。
目線をふたたび上げる。
そして、
「愛ちゃんを……ぜったいに、幸せにしてよね」
と言ってきて、
「彼女を幸せにしなきゃ、こ・ろ・す」
と、脅してくる。
物騒な。
「――物騒な。」
「いいでしょ? わたしらしさ満点で」
「そういう問題じゃない」
「バカねぇ」
「ちっ」
――右手で握りこぶしを作り始めた。
なんだよ、今度はっ!!
「戸部。去りぎわの――あいさつ」
「ハァ??」
「――あんたにイッパツお見舞いしてから帰るわ」
「……どこを殴る気だ」
「――エヘヘ」
「こ、答えろや」
「や~~だ」