昼過ぎ。待ち合わせの駅に流(ながる)くんがやって来る。
なんだか冴えない彼。
これからデートするってゆーのに。
「猫背じゃない? 流くん」
「そ、そーかな。カレンさんには……そう見えるか」
「わたしじゃなくたって、見えるよ」
ぬっ、と彼に迫り、顔を近づける。
「距離感、近くない……?」
そんなコトを言っちゃう流くんがどーしよーもないので、
「あんまりだらしなさ過ぎたら、背中をバッグで叩くよ!?」
と言って、睨むように見る。
「ごめん。公衆の面前できみに叩かれないように、頑張るよ」
だったら今から背筋伸ばして。
頼りないんだからっ。
× × ×
ゲームセンターに行く。
流くんとプリクラが撮りたい。
プリクラは昔からの恒例行事。
入店するやいなや、
「もっとキャピキャピした服を着てくれば良かったかも」
と、上着の襟元をつまみながら言ってみる。
わたしながら、わざとらしさ満点である。
無言になる彼。
未だ冴えない。
「ねえ!!」
大声で、わたしに注意を向けさせて、
「流くんは、どんなコーディネートが理想!?」
「だれの、コーディネート?」
「わたしの!!」
「急に言われても」
「がくーーっ」
肩を落とす『演技』をするわたし。
「もっとわたしのことちゃんと見てよね。宿題」
「宿題かあ」
「とっととプリクラ入るよ」
そう告げた2秒後にはプリクラのカーテンに触れているわたし。
デコレーションを選びながら、
「流くんって、数秒間だけスゴいイケメンになるときあるよね」
「数秒間だけ?」
「うん。数秒間だけ。良くも悪くも」
× × ×
プリントアウトされた流くんの顔面と、真正面に立っている流くんの顔面を見比べる。
「だんだん冴えてきたみたいね」
わたしの指摘に、
「ありがとう。ところで――」
「なによ」
「次、なにするの」
「え? 決まってるでしょ。飲み屋行くわよ」
慌て気味に腕時計を見る彼。
「ま、まだ15時にもなってないよ」
「もう開いてるお店を知ってるからっ。この時間帯に呑んでおけば、明日にあまり響かないでしょ?」
「確かに……。土曜日じゃなくて、週の真ん中の祝日なんだもんな」
「そーゆーことよっ」
角ハイボールを立て続けに3杯飲む。
それから、タッチパネルでスクリュードライバーを注文。
「きみって、そんなに飲むピッチ速かったっけ」
「いろいろあるから、今日は速くなるの」
「いろいろあるから?」
「そ。いろいろあるからよ」
「それって例えば、ストレスだとか」
「ストレスが無いほうがおかしいんじゃないの?」
ここでわたしは背筋を正して、
「ねえ。あなたの創作文芸活動の進捗はどーなの」
「え。唐突だね」
「投稿の目処(めど)は立ったの?」
彼は中ジョッキのビールを少しだけ飲んでから、
「まだ」
と答える。
スクリュードライバーの到着の遅れを恨む。
「そんなことでいいのかな」
胸の下で腕を組み、わたしは、
「環境に甘えてるんじゃないの?」
流くんは、
「環境って、例えば?」
「それぐらい自分で考えなさいよ」
スクリュードライバーがまだ来ない。
テーブルの端っこを右人差し指で連打する。
× × ×
攻撃的になり過ぎたし、呑む量も多過ぎた。そんな反省もあることはあって、
「流くんゴメンね。問い詰めみたいになっちゃって」
と謝りながら、彼の前を歩いていく。
「お詫びに」
と言って、
「わたしのマンションで、優しくしてあげるわ」
と言ってから、立ち止まる。
距離を詰めた彼が、
「きみのマンション?? もう夕方だよ」
「それがなにか?」
「ん……」
振り向いてあげない。
彼のうろたえた表情を想像するのが楽しいから。
「優しくしてあげるって言ってるでしょー?」
彼の顔面に赤みがさしかかっているコトだろう。
手に取るように想像できる。
「『カレイドスター』のDVD観ながら、優しくしてあげるんだから」
後ろから彼が、
「……きみのいちばん好きなアニメのDVDを再生する理由は?」
決まってるじゃない。
「『カレイドスター』を観たら、優しい気持ちになれるから」
さてさてさて。
『カレイドスター』、第何話から観よっかな。
20周年記念イベント開催、おめでとうございます……。