【愛の◯◯】「性格ブス」って言わないで

今年はなんだか大型連休や3連休が多いが、体育の日も終わろうとしている。

で、きょうが10月14日。

もうこんな季節ーー。

 

それで、

わたしの17歳の誕生日まで、

ちょうど1ヶ月になった。 

 

「(お皿を拭きながら)…17歳かぁ」

 

× × ×

 

あすかちゃんは昨日のスコットランド戦(←ラグビーW杯)に狂喜乱舞して、部屋にこもりっきりでスポーツ新聞の記事を書き続けている。

 

流さんは彼女さんとデート。 

 

「(^_^;)ひまだなー」

 

 

アツマくんの部屋

♪コンコン♪

 

「(ドアを開けて)なんだ愛か」

「入ってもいい?」

「どうぞ?

 ヒマなのか? おまえ」

「さすがにわかっちゃうかー」

「宿題は?」

「もうした」

「予習は?」

「もうした」

「復習は?」

「やってないわけないじゃない、バカじゃないのw」

「言葉が悪ぃなあ、バカって言ったやつがバカなんだぞ」

「ーーそうだね。」

「なんでそこはそう素直なんだよ」

 

「お、おい、唐突に素っ頓狂な声あげんな」

「アツマくん」

「なに」

「もしかして、本を筆写していたの!?」

「あーそうだよ」

 

 

bakhtin19880823.hatenadiary.jp

 

おまえが本を書き写す代わりに、おれがおまえの書き写してほしい本を書き写してやる」 

 

「……で、おまえに依頼されたのが、」

カルヴィーノの『見えない都市』

 

見えない都市 (河出文庫)

 

 

 

見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

 

 

「葉山の愛読書だったんだっけか?」

「そう。先輩が、よく文庫本を持ち歩いていたから、わたしも読みたいと思っていたんだけど、」

「まだ読むのがしんどいのか」

ーーどうかなww

「(;´Д`)おい! じゃあなんのためにおれがおまえの本をーー、

 

 って言っちゃ、だめなんだよな。

 おれが『筆写する!』って言い出したんだから」

「……どこまで進んだ?」

「全然進まねえよ。まだ20何ページとか」

「まあ筆写だからね。

 

 ーーアツマくん、腕や肩、痛くない?

 指はどう?

 ペンだこ、できたでしょ」

「なんてことないよ、鍛え方が違うんだ」

「(´・_・`)なんだ、わたしがさわってあげようと思ったのに」

「(;´Д`)『さわって』とか…イヤらしいぞおまえ」

 

「(アツマくんのベッドにどーんっ、と座って)

 だって暇だったんだもん」

「少しは話に脈絡をつけような……」

「なんで暇だったかわかる?」

「……」

アツマくんがどっかに連れてってくれないんだもん、わたしを

「……それはだなー、おまえのコンディションやら何やらも…台風もあったし…」

ふたりでどっか行きたいよ。買い物でも食事でもなんでも」

 

「ーーこの性格ブス。」

「うわっ!! ひどいひどいひどい」

「…あのさ」

「…ん?」

「おまえの誕生日、来月の14日だったよな。

 あと1ヶ月じゃん」

 

「どうして憶えててくれたの……」

 

ベッドに乗ってくるアツマくん。

わたしに顔を近づけるアツマくん。 

 

「アホ。

 憶えてないわけないだろ

 

「…あ、あ、あ、あつまくん、

 ちょっと、えーっと、そのね、

 その、きょりがちかいというか、せっきんしてるというか」

「おまえに近づいてなにが悪い」

「……、

 ……、

 

 わたしのかお、そんなみたい?

 

その言葉をわたしが言った瞬間、

アツマくんは、ガックン、と膝から崩れ落ちた。

 

…どうして? 

 

 

【愛の◯◯】藤村、甘えん坊モード

AM10:00

 

急遽おれの邸(いえ)に泊まると言った藤村。

その藤村が、10時になっても起きてこない。

あんにゃろ💢 

 

ガチャ

 

おっはよー♫

 

「おっはよー♫ じゃねえよ!!

 今何時だと思ってるんだ藤村ぁ!!!!!!」

 

「(´・ω・`)」

 

「髪もボサボサだし!!

 服もちゃんと着てないし!!

 

 もっときちんとしろ馬鹿、だいいち大学は…」

 

「さぼっちゃったw」

 

(; ・`д・´)こ、こんにゃろっ 

 

「(; ・`д・´)……、

 

 しょうがねえなあ、

 ほんとにしょうがねえなあ、藤村は。

 

 ハァ…( ;-ω-)=3

 

 ま、いいや。」

 

「いいの戸部? 説教モードじゃないのw」

「おまえ自分ん家(ち)に帰りたくないんだろ」

 

(・ω・`;)どうしてわかるの……

 

ソファーでクッションを抱きしめる藤村。

 

ワケアリかよ。

 

せめて髪ぐらいセットしてから『おはよう』って言ってくれ。 

 

「(小さく丸まって)ママとケンカした……

 

「(;´Д`)おまえは小学生かっ!!」

 

・・・・・・

 

「(;´Д`)ほんと仕方がねえヤツだな、おまえは。

 きのうは『1日だけ戸部の妹になってあげる』とかなんとかほざいてたが、

 きょうものっけから、甘えん坊の妹みたいに振る舞いやがって」

 

(目を伏せる藤村)

 

「おまえはもっと勝ち気なタイプかと思ってたのに。

 らしくねえ。

 

 …しょうがねえなあしょうがねえなあ」

 

「…戸部?」

 

「おれがおまえんちに電話してやる。

 そんで、おまえのママさんに事情を話す。

 そんでもって、藤村、おまえもちゃんとママさんにあやまるんだぞ!

 電話でいいから、さ」

 

「(ぽかーんと驚いた顔で)戸部…

「わかったか?」

「(震えたような声で)戸部…

「ん??」

わたし…

「は?」

髪、ちょっと伸びたの。

 戸部なら気づいてくれると思ったんだけどな~~ww

 

 

(;; ゚Д゚)ゴルァ!!

 

【愛の◯◯】1日限定で戸部の妹

……、

……、

 

 

…むくり。

 

あ、

あれれ??? 

 

戸部の邸(いえ)のソファーで、

毛布をかけられて、

寝ていた。

 

いま、夜9時。

 

「(テレビに映ったニュースを見て)ノーベル化学賞か…、

 って、そうじゃなくてっ」

 

藤村さぁん

 

戸部の妹のあすかちゃんが、無邪気にソファーに飛びついてくる。 

 

「あすかちゃん。」

「はい」

「おはよう」

「はいw」

「あすかちゃん、」

「はい?」

「なんでわたし、戸部の邸(いえ)にいるんだっけ」

「えっ?w

 ねぼすけさんですか?」

「(-_-;)」

「藤村さん、

 とりあえず、わたしと一緒におフロに」

 

× × ×

 

脱衣所

 

「あすかちゃんとここのお風呂入るなんて、珍しいな。

 ーーそうだわたし、昼過ぎに、戸部に説教しに来たんだった」

「説教ですかww」

「そう。だらしないってーーって、

 ……」

 

「ーーどうしたんですか藤村さん?

 硬直してますよ~?

 

 あ、

 いやらしいw

 

言えない、

言えないけど、

気づかれてる、

 

あすかちゃんの胸に、釘付けになっていた、

 

あすかちゃんのブラジャー、

かわいいけど、

大きい。

 

× × ×

 

浴場

 

『ぽちゃっ』

 

 

「…寝落ちしちゃうなんてなー。

 歳なのかなー、大学生にもなると」

「お兄ちゃんが毛布かけてあげたんですよ」

 

ギクッ

 

「それと、藤村さんがあんまりにも疲れてそうだからって、軽くマッサージしてあげたって」

 

ギクッッ 

 

「…そうだった。

『なんで愛ちゃんをもっと気づかってあげないの』って、

 ひたすら戸部を罵倒してたら、

 だんだん息切れがしてきて、

 戸部、『大丈夫か?』ってーー」

 

「お兄ちゃんは誰にでもやさしいですよね」

……悔しいけど。

 

「わたしお兄ちゃんのこと、最近好きになりました」

「(゚Д゚)エッ」

「……前よりもw」

「(^_^;)…そっか。

 きょうだいとして、ってことね。」

「おねーさんが」

「愛ちゃんが?」

「『妹のことが大切じゃない兄なんていない』って、前に言ったんです。

 それをようやく実感してきたんです」

「……それは、そうだよ」

 

「(´-ω-` )ウトウト…

 

 ∑(*'д'*)ハッ」

「藤村さん、おつかれみたいですねえ~」

「いけねw

 (ノェヾ))ゴシゴシ

 

 ーーふ~っ

 わたしも、お兄ちゃん、欲しかったかもな~」

 

× × ×

 

リビング

 

「あ! 戸部だ!! きょう泊まっていくから」

「ふ・じ・む・らぁ~、大変だったんだからな、おまえを寝かすの!」

「悪い悪いww

 

 きょうだけは、あんたの妹になってあげるから

「(足を踏んづけて)そこで固まらないでよバカっ

 

 

 

【愛の◯◯】ザ・ビートルズ「Taxman」(ともう1曲)弾き語りしてあげるんだからね!

・学校にて

 

「愛ちゃん、すごーく浮かない顔ね。

 元気ないの?」

「アカちゃん。

 ベイスターズが、

 ベイスターズが……、負けちゃった

「(^_^;)あーっ」

「それに…、

 筒香が、

 筒香が、

 筒香が!!

「(゜o゜; つ、つつごうさんがどうかしたの!?」

「(放心状態で)筒香…が…メジャーリーグ…に…

 

 

× × ×

 

クライマックスシリーズ敗退と筒香のダブルパンチで、授業も上の空だったわけだけど。

日曜(第2戦)の乙坂のサヨナラホームランを眼に焼き付けていたから、それを思い出して、元気を出すことにした。

 

× × ×

 

戸部邸

 

『ただいまー』

 

「おかえりなさい、あすかちゃん。」

「あ、ただいまです、おねーさん」

 

「ギター、弾けるようになった?」

「やだなー、まだまだですよぉ」

「ま、ほどほどにね」

 

「(まじまじとわたしの顔面をのぞきこむように、)おねーさん。」

「え、な、なに」

「おねーさんの顔に元気が戻ってきた気がします」

 

「どうしてわかるの……」

 

「おねーさん…www」

「ど、どうしてそこで苦笑いするの」

「い、いえ、いいんですよ、いいんですよww」

「??」

 

「おねーさん、矢印、上向きですね」

「なんの矢印?

 あ、

 調子、か。

 納得。

 

 ありがとあすかちゃん、わたしもっと元気になる。

 それでガンガン本が読めるようになるね」

「ま、ほどほどでいいんですよ、ほどほどで」

「えーっ」

「あんまり気を張ると、また矢印が下に向いちゃいますから」

「そっかあ…それもそうね。

 じゃあお互い、泣きわめかない程度に頑張ろうw」

 

『泣きたいときは泣いたらいいんじゃないのかあ』

 

「アツマくん…」

「お兄ちゃん…」

 

「(・・;) (;・・)」

 

「えっ、お、おまえらふたりともなんだその表情は」

 

 

(;-_-)無神経。

 

「あのねえ」

「愛…」

「わたしたちそんなに、か弱い存在じゃないのよ」

「そんなこと言ってねえよおれは」

「泣いてるばっかしじゃないのよ」

「そ、それはわかってる、」

「ほんとうに?

 女の子の気持ち、理解してる?

 女の子の気持ち理解してるって、

 わたしとあすかちゃんのホントのところわかってるって、

 胸を張って言い切れる!?

 

「(;;・д・)くっ……」

 

「それはお兄ちゃんにあんまりイジワルですよ、おねーさんw」

「(;・・)た、たしかに、言い過ぎたかも、しれない、わね」

 

「愛」

「なによ」

「年末にさ、」

「年末?」

「あすかも、なんだけど」

「わたしも?」

「うん、ふたりとも、予定を空けといてくれよ」

「まだ先の話でしょ」

「わたしクリスマスはだめだよ」

「クリスマス?」

「バンド、バンド」

「あー、そうだったなそうだったな」

「アツマくん💢」

「メンゴメンゴ、もっとあとの予定だ」

 

「ところで。」

「まだなんかあるのお兄ちゃん…突然出てきて」

ビートルズのCDがいっぱいあるなあ、って」

「ああw わたしがさっきまで聴いてたのよ」

「原点回帰か?」

「音楽の?」

「音楽の。」

「まあそんなところかしら。

 それにしてもアツマくん、『原点回帰』なんてうまい言葉思いつくね。

 どうしてそんなに察しがいいの?」

 

アツマくんは何も答えず、苦笑いするばかり。

あすかちゃんも、なぜだか吹き出しそうになって、笑いをこらえている。

どうして?

 

 

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「こんなにあるんですねえ」

「もっとあるってば。関連商品全部合わせたら、テーブルからあふれちゃうよw」

ビートルズですもんねえ」

「ところであすかちゃんのバンドは、ビートルズをコピーしたりしないの?

 アジカンが、アマチュアのころ『HELP!』をコピーして演奏してたとか、聞いたことがあるけど。

 ビートルズの歌詞の英語、簡単で歌いやすいから、あすかちゃんたちもチャレンジしてみたら?」

「(^_^;)ボーカルの奈美が壊滅的に英語がヘタなんです」

「そ、それでもチャレンジしがいはあるよ、ビートルズ英語だから!!」

 

「(ピアノの椅子に座って)そうだなー、あすかちゃんは、ジョージ・ハリスン的な立ち位置になるのかなー」

「バンドで、ですか?」

「そうよ」

 

「愛、なんか弾いてくれるのか?」

「まだいたのお兄ちゃん💢💢」

「いいだろ💢💢」

 

「はいはいケンカしない!! 

 今夜は弾き語りしてあげる」

「(ノ≧∀)ノやったー!」

「(ノ≧∀)ノやったー!」

 

(;;^_^)……きょうだい。

 

「そうねえ、

 消費税も上がったことだし、

 『Taxman』にしましょうか。

 

 Harrisonだし。

 

 で、Taxmanだけじゃ、締まらないから、あと1曲弾き語りしてあげる」

「(ノ≧∀)ノわぁ~い♪」

「(ノ≧∀)ノわぁ~い♪」

 

 

 

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【愛の◯◯】月曜日のどんより中村部長に意外な進路希望が発覚!?

はい! わたし戸部あすか。ギターの練習やったりスポーツ新聞作ったりてんてこ舞いだけど、2学期に入って毎日がすっごく充実してるから、女子高生って素晴らしい!! 

 

それにしてもきょうの中村部長、異常なまでにテンションが低くて、どんよりどんよりした空気が、部長の周りに漂っていた。

「どうしたんですか?」と、わたしが訊いてみたところ…… 

 

回想

 

「どうしたんですか?」

「…やっぱ、負のオーラ、感じる?」

「部長、すごく元気がない気がします」

「当たり」

「…なぜに?」

 

「昨日の夜、きみはフジテレビを観なかったか」

「バレーボールなら観てましたけど」

「ああ、バレーボールじゃないんだ……バレーボールのあとで競馬中継があったんだ……」

「Σ(゚Д゚;)競馬中継!? 夜中に、ですよね!?」

「国際中継だったんだ、フランスから。

凱旋門賞』っていうレースだったんだけど。

 日本の馬が3頭参戦したんだけど」

「それを勝つと、なにかいいことがあるんですか?」

「競馬のオリンピックで金メダルを獲るようなものだよ。日本競馬の悲願なんだ」

「なるほど。

 で、でも、今日ずっとそんな浮かない顔してるってことはーー」

「そうさ。

 orz3頭とも惨敗したんだ……

「(^_^;)ぶ、部長が沈んでる理由がよくわかりました」

 

× × ×

 

「部長。」

「なんだいあすかさん」

「お馬さんもいいですけどーー、

 受験、頑張ってください。

 

「……(・・;)」

「(;´Д`)な、なんでそこで固まるんですか部長!?」

 

<ガサッ

 

「あ、なんか赤本みたいのが落ちましたよ部長。

 部長のカバンから落ちたのでは?

 さすが部長、志望校対策とか、やってることはやってるーー、

(拾う)

 

 え!?

 この大学、首都圏の大学じゃないですよね!?」

「鋭いね」

「わ、わたし、1年生で受験のことにあんまり詳しくないけど、すみません、こんな名前の大学聞いたことないーー」

「(;´-∀-)フフフ…ま、そういうことだよあすかさん」

「どういうことなんですか」

「続きはWEBで」

「!?!?」

「ごめん、どこにある大学か知りたかったらググってみてよ、ってだけw」

 

回想終わり

 

……それで、部長の志望校らしき大学の名前でググってみたんだけど。

 

あーっ、

そういうことかー、って。

 

でも、

すごい決断をするんだな、

中村部長。

すごいや。

 

 

 

 

× × ×

・おねーさんがテレビの野球中継(クライマックスシリーズ)にかじりついている

 

「わー、ハマスタすごい雨降ってる」

「続行するでしょ」

「するんですか?」

「するのよ、してもらわないと困る。

 これから逆転するんだもん。

 

 …なんでここ一番で伝統芸するかなあ」

「伝統芸、?」

「(¯―¯;)国吉のワイルドピッチ阪神に先制されたのよ…!」

「嗚呼……」

 

・ラッキーセブンだ、ベイスターズ!!

 

 

【愛の◯◯】「おまえの代わりに、おれがおまえの本を書き写す」

前回

 

あのあと、帰りぎわに、葉山先輩がこう言ってくれた。

 

羽田さんの読書が、 また軌道に乗り始めたらさ、

 ふたりでいっしょに本を読もうよ。

 ね?w

 

わたしは、なんていい先輩を持っているんだろう。

神さまに感謝したい。

 

× × ×

それでも。

思うように読書できないのを分かっていても、本のあるところに、自然に足は向かってしまう。

 

学校から帰る途中、公立図書館の入り口にふわふわと吸い込まれていった。

そしたら、新刊コーナーに、こんな本が並べてあった。 

 

読書実録

 

ベイスターズファンというつながりもあったし、保坂和志は苦手な作家ではなかった。

なによりも、『読書実録』 という書名が、読書にもがき苦しんでいるわたしの眼をひいた。

藁(わら)にもすがる思いで、わたしは保坂の本を手に取り、閲覧室で読み始めた。

 

かろうじて最初の章を読み終えることができたわたしは、ふらつく足どりでコピー機のあるコーナーまでたどり着き、必要な部分をコピーした。

 

戸部邸

 

「ねえ、アツマくん、ちょっとわたしの話を聴いて」

「ちょっと、じゃなくて、なんでも話していいんだぞ。

 そのために早く大学から帰ってるようなもんなんだから」

「(-_-;)そう……」

「大げさ、って言わないんだなw」

「(^_^;)大げさじゃないと思うよ。

 うれしい、わたしのこと、気づかってくれて」

 

「本に関する話なんだけど…」

「おい、本読むのつらいんじゃないのか」

「つらいよ。でも、読んじゃったの…」

 

わたしは事(こと)のいきさつをかいつまんで話した。

 

 

読書実録

読書実録

 

 

吉増剛造っていう詩人、知ってる?」

「知らない」

「(-_-;)アツマくん、もっと勉強して……」

 

吉増剛造が、最近、筆写ーー本の書き写しをしている。

 そのことを知った保坂和志は、吉増剛造に触発されて、自分も書き写しを始めた。

 最初の部分しか読めてないから、うまく説明はできないけど、そういうことが書いてあったと思う。

 巻末に、保坂が書き写した本のリストが載ってたけど、それらの本がそのまま引用文献であり、参考文献なのね」

 

「で、おまえはなにがいいたいんだ」

わたしも本の書き写しがしたいの

「マジかよ」

「ピアノを弾くことも、料理を作ることも、手仕事じゃない?

 だったら、ものを書くことだって、手仕事であるべきで、

 たぶん…たぶん、読むことも、手仕事だから」

「書くことと読むことは、同じことなのか」

「そこは表裏一体と言って。

 

 そ、それで…それでね、

 ど、読書の、リハビリ? も兼ねて、筆写を…書き写しをしようと、

 まーそういうわけで、

 そうしないと、わたし読書に戻ってこられない気がする……」

「ずいぶん荒療治(あらりょうじ)だな」

「わかってる」

「本をまるまる書き写すんだろ。

 すげーからだに負担がかかるじゃねーかっ。

 自分の腕を痛めつけて、それが特効薬になるのかっ?」

「筆写は自分で自分を痛めつける行為じゃないよ、言いすぎ」

「重苦しく考えるな、愛」

「だってこうでもしないと解決にならないよ。

 アツマくんは、わたしの読書リハビリに反対なの!?」

「おまえがやろうと思ってるのは、リハビリにならない。

 火に油を注ぐ」

 

「…どうしてよっ」

 

思わず、彼から、アツマくんから眼をそらしてしまう。 

 

「愛、命令だ」

「さ、指図しないで」

いいから聴けっ!

 

 おまえが書き写しで読書リハビリするのを禁止する」

「どうしてよ、どうしてよ、どうしてアツマくん」

だからよく聴けって!!

 

 お、ま、え、が、書き写すのを禁止するって言ってんだよっ」

どどどどういうこと

おれがおまえの本を書き写す

 

 

「…(゚Д゚;)はぃい!?

 

 

「おまえが本を書き写す代わりに、おれがおまえの書き写してほしい本を書き写してやる」

「(゚Д゚;)それが…なんになるの。

 無駄骨もいいとこじゃない」

「愛よ、わかってないなあw

 

 おれは、無駄骨とか無意味とか、そういうの、ちょっと嫌いなんだ」

 

「(・_・;)……、

 本気?」

 

 

 

でもーー、

アツマくんに、

アツマくんについていけば、

なんとかなる気がして。

 

だから、

アツマくんは、

口から出まかせを言ってるんじゃないって、

 

 

信じられる。

アツマくんなら。

 

 

 

 

【愛の◯◯】羽田さんに「愛」のお返し

夕方の戸部邸

わたし葉山。

羽田さんに頼まれて、お邸(やしき) までやって来た。

 

「こんにちは羽田さん」

「こんにちは、葉山先輩。

 わざわざここまで来させてすみません」

「いいのよ。

 適度に外には出たいし」

「疲れませんでしたか?」

「平気だよw」

「お茶でも飲んでしばらく休憩しませんか」

「うん、

 気をつかってくれて、嬉しい。

 でも、

 羽田さんーー、

 あなたのほうが、いまは、わたしより疲れてそう。」

 

「(シュンとして)……」

 

「持ってる本を、譲ってくれるんだよね。」

 

(こくん、とうなずく)

 

「じゃあ、羽田さん、あなたの部屋に行かせて」

「お茶はーー」

「まず、あなたの事情を、部屋で聴かせてもらうのが先」

「(しょんぼりと)……」

 

× × ×

羽田さんの部屋

 

「すごい積ん読だね」

「(弱々しく)読めずに積まれていくばかりです…」

 

「(羽田さんの顔をきちんとまっすぐ見て)

 どうして本を譲る気になったの?」

「だ、『断捨離』じゃないけど、思い切って片(かた)しちゃおうと思って」

「違うな。」

 

「(困り顔で)えっ…」

 

「もっと根本的な問題があるのね。

 絶対そう」

「どうしてわかるんですか」

本棚を見るのもつらいんでしょう

「どうして、どうしてわかったんですか!?」

「あなたの電話の声、なにかを決心したような口ぶりだった。

 

 読書がつらいだけじゃない、

『本』というものの存在自体が、あなたにとって、苦痛になってきてる。

 

 寺山修司は、『書を捨てよ町へ出よう』って言ってるけど、

 羽田さん、あなた、本棚ごと投げ捨てたいんじゃないの?」

べつにっ、そこまで極端になってないです、わたし

「たとえ話よ。

 

 でもーー羽田さん、あなたは、あんなに好きだった読書することを、辞めてしまいたいぐらいに、追い詰められているのね

 

(うつむき続ける羽田さん)

 

「けれど、羽田さん、その決心はーーまちがってると思う」

そんなっ、読書を辞めてしまうなんて、決心も覚悟も、そんなものなくって

「じゃあなんでわたしに電話したの、ここまで呼んだの」

(おびえ気味に)怒ってるんですか…

 

…ちがうよ。

 

「羽田さん…ベッド、座らせてもらうね」

 

(羽田さんの隣に腰掛けるわたし)

 

「ねえ、羽田さん」

「な、な、なんですか」

抱いてもいい?

 抱きしめても

 

次の瞬間、

羽田さんのからだを、

そっと、

やさしく、

ふわっ、と、

包み込んであげる。

 

「先輩…恥ずかしいです」

「あーら。

 あなたがわたしの卒業式の前夜にしてくれたのと、同じことやろうとしてるんだよ

「せんぱい……」

「なーにっ」

「……つらいです」

「わかるよ。

 わたしも、いろいろつらいし、

 いろいろ、疲れてる。

 

 いまはーーわたしがあなたを、いたわってあげる番。

 

 …よしよし。

 つらいね。

 つらいよね。

 しょうがないよ、

 泣くのも。

 わたしだって、泣き虫だし。

 いっしょに泣いてあげようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

「落ち着いた?」

「だいぶ」

「戸部くんがさ」

「アツマくんが?」

「戸部くんが帰ってきたら、ちゃんと言うんだよ、

 つらいってこと」

「う、うまく説明できるかな」

「いいじゃん、『つらい』って、ひとことだけ言えば。

 きっと、やさしくしてくれるよ、わたしよりも、もっと」

 

「(本棚を少し眺めて、)ねえ、わたしあの本好きだった。

 あの本も。

 あれもw

 

 ーー読んであげようか、

 羽田さんに」

「読み聞かせ…ですか」

「うん! どの本がいい?

 あなたが読めないんだったら、わたしが読んであげればいいじゃん」

「じゃあ、

 お言葉に甘えてーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】愛をなぐさめ、あすかを寝かせ…

帰宅した。

そしたら愛が、グッタリしたような表情でソファーに座り込んでいた。 

 

おかえり、アツマくん…

 

「なんだ。

 おまえらしくないぞ。

 

 ーーもしかして、

 本が思うように読めないのか」

 

 

どうしてわかるの……

 

「顔を見ればわかる」

「あのね、集中力が1時間もたないの。

 本の内容があたまに入って来なくなるの」

「集中力が1時間ももてば充分だと思うが?

 

 おまえはなー、読書っつーもんを、絶対視しすぎるんだよ」

「ウチの学校の保健の先生みたいなこと言うね。」

「いいか?

 いろんなものに、眼を向けてみろよ。

 

 音楽とか、

 料理とか、

 スポーツとか。

 

 おまえは、いろんなものの神様に、祝福されてるんだから。」

「神様に…祝福!?」

「ほら、たとえば、ピアノの神様とか」

 

(微笑んで、)変なの。

「よ、よーするに、愛、おまえはいろんな才能に恵まれてるってことだよっ」

「わかったわかった!w

 

(おれの右肩に手を置いて)ありがとう。

 部屋で音楽でも聴いてくるわ。

 

 

× × ×

 

『ただいまー』

 

「おーあすか、おかえり」

 

「(ソファーに身を投げ出して)

 ふぁー、もう、くったくた!!

 

「ギターにスポーツ新聞に忙しいもんなあw」

 

 

すると、またたく間に、

おれの隣で、妹が、

睡眠を開始したのである。

 

・15分経過

 

ほんとうにスヤスヤ寝てやがる。 

 

・45分経過

・起きる気配がない

 

…困ったぞお。 

 

 

× × ×

あすかの部屋

 

とりあえず、爆睡しているあすかを、

部屋まで運んでやった。

 

・そして……

 

『むくり』

 

あれぇ?

 なんでわたし、わたしのへやにいるのかな~?w

「帰ってきた途端グーグー寝始めたんだよっ!!」

やだっ、兄貴エロいw

 連・れ・込・み?ww

 

 

(゜o゜; こ、こいつ……、

寝ぼけてやがる!!!

 

「(部屋のドアに向かい)ほ、ほら、はやくその制服着替えて、夕飯食いに降りてきなさい」

 

 

おにーちゃーん、

 わたしの制服、

 脱がしてw

 

「 (;´Д`) 」