晩ご飯を食べ終えたあと。わたしの部屋。
お泊まりに来ていた太刀川(たちかわ)ヒカリさんとアイスクリームを食べている。アイスクリームなので、晩ご飯の中には含まれない。
わたしは当然のごとくバニラアイス。ヒカリさんは残念ながらチョコチップクッキーアイス。
バニラ味こそがココロとカラダをいちばん癒やしてくれると思うのだがそれはいいとして、
「わたし、朝ご飯のあとでソッコーで会社に向かったので、『詳しいハナシ』をヒカリさんから聴いてなかったワケなんですけども」
と声を発してから、わたしのベッドに腰掛けているヒカリさんにジットリと微笑みかけてみる。
度肝を抜かれるスタイルの年上女性たるヒカリさんが、
「昨日の夕方、利比古(としひこ)くんのコンディションが悪そうだったから、あたしが優しくしてあげた時のコト?」
「そーですそーです」
残り20%程度になったバニラアイスのカップを丸テーブルに置き、
「ヒカリさん、ただ優しくしてあげただけじゃーなかったんでしょ? オトナのお姉さんとして、『お手当て』を……」
「もぉ~~っ。キワドいぞ~~、あすかちゃ~~ん☆」
「そのお顔は、どんな『お手当て』したか是非とも報告したい……ってお顔にしか見えないんですけど!!」
「するどいわね」
美しい微笑がヒカリさんの顔面に柔らかに広がる。
「じゃあ、あたしもあすかちゃんもアイス完食したら、詳しく掘り下げていくコトにしましょっか」
やったあ。
× × ×
ヒカリさんと協力して、利比古くんの情け無さを目一杯掘り下げていたら、2時間近くも経過してしまった。
わたしは明日も勤務だ。真夜中まで起きているのはマズい。本日の勤務のくたびれもまだ拭い去られているワケではないし、睡眠はちゃんと取りたい。
で、あるからして。
ヒカリさんとは丸テーブルを挟んで向かい合っていたんだけど、同じ方向を向いて寄り添いたかったから、がばあっ、と腰を上げる。
それから、ヒカリさんの左横までやって来て、ぼすん、と勢い良く腰を下ろす。
ベッドに隣同士で腰掛けるシチュエーションが出来上がった。
ショートボブのヒカリさんの髪色が眩しい。薄茶色で、地毛。
23区内の某マンションで兄貴とふたり暮らししている『彼女』の超・ロングヘアの栗色も羨ましいけど、ヒカリさんのショートボブの薄茶色もまた羨ましい。何の変哲も無い黒髪なんだもん、わたし。髪の長さも両肩までだから、『彼女』の超・ロングヘアやヒカリさんのショートボブと比べると、負ける。
「あすかちゃんは——」
口を開くヒカリさんが、
「愛(あい)が邸(ここ)に来た時は、ベッドを共有してお眠りしたりするの?」
栗色超・ロングヘアの『彼女』について問われたから、『彼女』の最高の妹分であるわたしは嬉しくなる。
ヒカリさんの左肩に右肩を少し寄せ、
「しますよー、比較的、しばしば」
『比較的、しばしば』という表現が面白かったのか、ヒカリさんの笑みの度合いが上がる。
「『おねーさん』なんだもんね、あすかちゃんの。疑似姉妹関係というかなんというか……よね」
「まさに」
力強く答えるわたしは、
「ヒカリさんには、妹分みたいな存在の女の子、いないんですかー?」
問いを呈示されたヒカリさんは、きらびやかな目線を送りながら、
「いるわよー」
いるんだ。
「いるんですね。学校の後輩の子だったり?」
「そうそう。女子校中等部時代の、1個下」
ヒカリさんがなぜ『女子校中等部時代の~』なる表現を用いるのかというと、高校生になる時に共学校に転校したから。
当然、デリケートな事情が絡んでくる。ので、妹分であるという女の子のコトを掘り下げてはいかずに、
「わたしの『おねーさん』ですけど、この部屋に自分からやって来て、『一緒に寝て!』とオネガイしてくるコトも、比較的しばしばでして」
「そーなの? ……甘えんぼさんになっちゃう時もあるのね、あすかちゃんに」
「オトナになった今でも、です♪」
「へえぇ……」
興味津々であるからか、ヒカリさんの方からもカラダの距離を詰めてきてくれる。
「あすかちゃんの方から愛の温もりを求めるのと、愛の方からあすかちゃんの温もりを求めるのと……どっちのパターンが多いのかしら」
彼女からのクエスチョン。案外、キワドい言い回しが好きみたい。
「ハッキリ言いますと、後者ですね」
「愛の方が、より多く甘えるんだ」
そう言ってからヒカリさんは、
「——萌えるわね」
草かんむりの『萌える』以外の表記はあり得ないだろう。
わたしとおねーさんの関係に萌えてくれて、嬉しい。適度なジェラシーならば、歓迎する。
「——あすかちゃんの方が、いいカラダしてるんだもんねえ」
余計なコメントも、余裕で聞き流してあげる。