マンション部屋。夕食後のダイニングテーブル。
「おまえの後輩の成清(なりきよ)くんは今どうしてるんだ」
アツマくんが訊いてくる。
「プライバシーってモノがあるでしょ?」
わたしははぐらかす。
「成清くんも拳矢(けんや)くん同様、おまえと同時に卒業して……」
と言うアツマくんを遮り、
「成清くんがボーカルを務めてるバンドのコトなら、情報を提供してあげてもいいわ」
成清くんボーカルのバンドには、アツマくんの妹のあすかちゃんもギターとして所属している。
「あすかも居るバンドのコトか……。バンド名、『ソリッドオーシャン』だったよな」
「そーよ」
答えるのと同時にマグカップを両手で持ち上げ、
「あすかちゃんが社会人になって忙しくなったから、バンド活動は縮小気味なんだけど……」
ここでコトバを敢えて切って、マグカップの中のブラックかつホットなコーヒーを静かに啜る。
そしてそれから、わざとらし~い微笑を浮かべてみる。
「なんかあったんか、バンド内で」
慌て気味のアツマくんは、
「人間関係のもつれ……だとか」
「妙に鋭いのね~~!!」
敢えて大げさに声を出すわたしは、
「『もつれ』とは、少し違うんだけど……」
と言ってから、かなりの間を置くコトによってコトバを溜めて……それからそれから、
「ベースのレイちゃんは知ってるでしょ? 背がスラリと高くて、ポニーテールにする時が多くて、バンドメンバーの中でいちばん気の強い子」
「あすかよりも気の強い娘(こ)なんか。そういう情報を耳にするのは初めてなんだが」
「そのレイちゃんとね、成清くんに……まつわるコトなのよ、実は」
少しの時間の空白のあとで、アツマくんの口元があからさまに狼狽(うろた)え始める。『何か』に気が付いたとしか思えない。
「わたし、偶然目撃しちゃったのよ。三軒茶屋駅の近くで、レイちゃんと成清くんが、ふたりきりで……!!」