マンション部屋。夕方のリビング。
愛(あい)が、奥の方の自分専用テーブルに向かいながら、ヘッドホンで音楽を聴いている。
おれが距離を詰めたら、やがて、愛がヘッドホンを外した。
「あすかちゃんが最近よく聴いてるアルバムを聴いてたの。くるりの『NIKKI』ってアルバム」
訊いていく前に伝えてくる愛に、
「まーた、おまえらが産まれる前のアルバムかよ」
全身が急激に沸騰していく愛が、グワッと振り向いてきて、
「何を言うのあなた!? 2005年リリースのアルバムなのよ!? わたしもあすかちゃんも既に産まれてるのよ」
はいはい。
もう少し落ち着こうね。
× × ×
リビングソファ手前のテーブルを挟んで向かい合い。
「アツマくん。あなたはもっと、あなたの妹を大事にしていくべきだと思うわ」
「具体的には」
「決まってるでしょ。明後日のあすかちゃんのバースデーを、全身全霊で祝福してあげるのよ」
「……もうちょい具体的に」
「あなた自身で具体化するのよ。バースデー当日までの宿題よ」
× × ×
おれはリビングソファ手前のテーブルに居残って考えている。
あすかも社会人になった。どんどんオトナになっていく。コドモ扱いするような言動は、より一層控えるべきか。……控えるべきなんだろうな、たぶん。
もちろん、「応援」をしてやりたい。
働くのを応援してやりたいだけではない。
おれの妹は、人間関係的なコトで、ずいぶん藻掻(もが)いているみたいなのだ。具体的には、川又(かわまた)ほのかさんへの向き合い方のコトだとか、利比古(としひこ)への向き合い方のコトだとか。
物理的に背中を押すのもいい。ただ、それよりも大切なのはやはり、兄としてのキモチを籠めた「コトバ」で背中を押してやるコトなのだろう。