「流(ながる)くーん」
「なに? 梢(こずえ)ちゃん」
「私、とっても嬉しいの。久々に、ブログに登場するコトができて」
「い、いきなり、最高度なメタ発言をするのは、どーなんだろうか」
「今日の記事は『地の文が無い』。この点が大事なの」
「??」
「分かんないか〜。……ホラ、地の文が存在しなければ、必然的にメタになるのは避けられないって、そう思わない?」
「きみは何を言わんとしているの……」
「ま、取り敢えず、金曜の夜なんだし、晩酌だな」
「え!?」
「新酒だよ〜。今年酒(ことしざけ)だよ〜〜。流くうぅん」
× × ×
「広々としたお邸(やしき)のリビング。明日美子さんはもう寝室に入り、あすかちゃんと利比古くんは外出中。2人だけで贅沢にリビングを使って、新酒を心ゆくまで味わい……」
「ちょっと待って梢ちゃん」
「なんで」
「地の文無いから、場所の説明するのは親切で良いと思うんだけどさ」
「何か不満でも」
「不満とは違うんだけど……。ぼく、22時になるまでには、自分の部屋に引っ込みたいんだけど」
「ゲッありえない」
「お、おいおいっ」
「22時になるまでって。幾らなんでも早過ぎ。小学生なの?」
「コドモでは……無いけども」
「あー、アレか。応募した小説の新人賞、結局賞を取れなかったから、部屋で『ぼっち反省会』がしたいんでしょ」
「反省会するわけじゃないから……。賞を取れなかったのは、そりゃあ悔しいんだけども」
「だったら、なんで小学生みたいな時間に部屋に引っ込もうとするの」
「次に書く小説のコトを考えるんだ」
「へぇーーーっ!!」
「ななななに、その叫びは!?」
「私てっきり、流くん、しばらくヘコむかと思ってたのに!!」
「……沈まないよ、そこまで。ポジティブなコトだってあったから」
「ポジ要素??」
「うん。ぼくの投稿した小説、何回か選考はパスしていたでしょ? その過程で、編集者のヒトの眼に留まったみたいで」
「連絡が来たとか?」
「来た。だから、今回の投稿が今後に繋がるモノになったんだ」
「それは良かったねえ。祝福するよ、マジメに」
「ありがとう」
「愛ちゃんが流くんの編集者役になってくれてたよね。あの娘(こ)に感謝してあげなきゃだね」
「当然だよ。恵まれてるよな……信じられないぐらい文学に詳しい年下の女の子が、信じられないぐらい身近に居るんだから」
× × ×
「梢ちゃんはどうなの? 4年の後期で卒業間際じゃないか。きみは27歳なんだし、残された時間は正直あまり長くない。だけど、きみの口からは……」
「就職活動のコト?」
「そうだよ。……きみの方から何にも報告が無いからさ。職場で仕事をしていても、気がかりになる時があるんだ」
「心配性だね」
「だって……」
「ふふふっ」
「そ、その微笑(わら)い、なに」
「なんとかなるっしょ☆」
「お、おいっ!!」
「私、別に、社会をナメてるワケじゃないよ。社会人経験があるワケなんだし」
「……してるの? たぶん、してるんだよね??」
「就活を?」
「してなきゃ……おかしいじゃないか」
「まさかの説教モードか」
「長々と説教する気は無い。でも、ぼくはね、きみより1つ年上なんだ」
「無理筋〜〜」
「無理筋って何だよッ!! あんまり飛躍したコトばっか言わないでくれよっ!!!」
「どひゃあ☆」
× × ×
「あすかちゃんのバイトは、すこぶる順調みたいね」
「そうだねっ。梢ちゃんの就活状況と比べたら、一目瞭然だよねっ」
「まーだピキピキしてる。怒りが収まってなーい。萌えポイントだ、流くんの萌えポイント」
「ふんっ。」
「うおっ!! 可愛らしいスネ方。アラサー男子とは思えない」
「……あすかちゃんのバイト先は、南浦和駅に近い。梢ちゃんは、これが何を意味してると思う?」
「何を意味してるの? 流くんの口から教えてよ」
「浦和競馬」
「あー。そーだそーだ。競馬場の最寄り駅なんだよね、南浦和駅って」
「浦和競馬が開催される日は、レース開始前は、新聞の競馬記者の溜まり場になってるみたいで。ぼくは少し心配なんだ。彼女が悪い影響を受けないだろうかって」
「ギャンブルに染まりかねない、と」
「そうだよ。ギャンブルはハマるとコワいからね」
「でもでも。あすかちゃんも、もう立派なオトナなんだし、分別ぐらいつくでしょー? 流くんなら分かってるはずだよ。だって、キミは長年あすかちゃんの成長を見届けてきたんだし。彼女がちゃんとした娘(こ)であるのぐらい、把握できてるでしょーに」
「ま、まぁ、しっかりした娘であるのは、当然分かってるよ?」
「そ・れ・に。競馬って、正確には『ギャンブル』ではなくて、『公営競技』って括(くく)りなんじゃん。ラスベガスのカジノとかよりも断然健全なんじゃん」
「海外のコトは良く分かんないけど。……公営競技とはいえ、馬券絡みの事件や問題は、しばしばニュースを賑わせてるし」
「流くんも、おカタいね〜〜」
「アルコール……まわってきてるんじゃないの、きみ?」
「まだまだっ!!」
「心もとないよ……」
「ほんとーに、流くんは、カタいアタマだよねえ。『いわタイプ』のポケモンかなぁ??」
「ぼくの頭をイワークやイシツブテに見立てないで欲しいんだけど……」
「古っ!!!!! イワーク!?!? イシツブテ!?!? 完全にゆとり世代のオッサンじゃん」
「さ、酒瓶(さかびん)、取り上げられても良いの!?!?」
× × ×
「流くん。利比古くんのアルバイト、なかなか決まんないよね。あすかちゃんの順調さとは、まことに対照的」
「アドバイスしてあげた方が良いかなぁ」
「彼、アルバイト問題以外にも、色んな◯◯に縛られてるって感じがするし」
「その◯◯には何が入るんだろうか、梢ちゃん」
「それは、日付が変わってからの、おたのしみよぉ〜〜♫」
「いや、まだ金曜ロードショーも折り返し地点なんだけど」