思ったより早起きできた。
進歩だ。
朝のワイドショーはもう始まっているけれど。
進歩だ。
夏休みが本格的に来たって感じ。
――大江千里の曲が聴きたくなってきた。
なんとなく。
おとうさんが譲ってくれた大江千里のアルバムを、ラジカセにセットする。
『また、じぶんが産まれる遥か前の音楽ですか……』っていうツッコミは、やめてね。
× × ×
古い文学作品や、古い音楽が好きだっていう子……わたしと同年代でも、いっぱい居るんじゃなかろうか。
なんとなく、なんだけど……きっと。
……さてさて、大江千里の某アルバムを聴き終わり、ベッドにごろーん、となって体力を温存させたあとで、わたしは起き上がり、スマホを充電コードから外した。
秋葉風子さんからLINEが来ている。
『起きてる??』
わたしは『起きてます!』と返信。
『じゃ、そろそろ、いけるよね』
『いけますいけます、いつでも』と返信。
返信してから、前日に部屋に運んでおいたPCを起動させる。
× × ×
「グッドモーニング、羽田さん」
画面の向こうで秋葉さんが挨拶。
「グッドモーニングです、秋葉さん」
「ふふ。…羽田さん、きょうはバッチリだね」
「バッチリ…??」
「すごく元気がありそう」
「エッ、そう見えますか?」
「見える」
「んーっ……。早起きできたから、かしら」
「早起きだったんだ」
「ハイ。今月いちばんの早起きでした……。
それから、」
「それから??」
「秋葉さんのお料理が、美味しかったから……。
だから、元気が出てきてるのかも」
「ほんとう!?」
軽く驚いたあとで、秋葉さんのほっぺたに赤みがさす。
なにゆえ。
「は、恥ずかしがらなくたって、秋葉さぁん。せっかく出てきたわたしの元気が、おかしくなっちゃいますよ……」
「……あのね」
「?」
「うれしいの。
じぶんの彼氏さんに『好きだ』って言われるより……うれしい」
「そんなっ」
慌てるわたし。
「い…言い過ぎですよっ。キユキさん(秋葉さんの年上の彼氏)が、可哀想」
「…かなあ」
「大げさで紛らわしい表現は、ちょっと…」
「そっかー」
× × ×
「――わたし、ほんとうにうれしくて幸せなの。きのうわたしが作った料理、『羽田さんの口に合うのかなあ??』って、気が気でなかったんだもん」
「――美味しかったですよ。お世辞じゃありません」
嘘偽りなし。
お世辞では、ありえない。
「すごく――上達してると思います、秋葉さんのお料理スキル」
「羽田さんが上手に教えてくれたからだよ」
「でも、わたしがレクチャーしたのって、3回程度で」
「その3回の教えかたが最高だったんだよ」
さ…最高って。
「ま、独力(どくりょく)でも、がんばったんだけどねー」
「独力……」
「おかげで、指に3つも絆創膏を巻いちゃったけどね」
「そ……そこまで、がんばったんだ、秋葉さん」
「案外、努力の人なの、わたし」
「努力の人……。」
「他のサークルメンバーには、内緒よ?」
「な、内緒にしたほうがいいんだ」
うふふ……と意味深な笑みの、画面の先の彼女。
「それはそうと」
「は、はい。なんでしょうか、秋葉さん」
「――アツマくんも、お料理食べるのに同席してもらったんだけどさ」
「…はい」
「――強そうだった。彼。」
「強そう…!?」
「いろいろな意味でね。
ケンカが強いとか、そういうことよりも……こころの強さ、感じちゃった」
「……。
秋葉さんも、アツマくんを絶賛ですか」
「絶賛するしかないもん」
「……彼、いつでも強いわけでは」
「だけど、ピンチのときは、アツマくんこそが、あなたのヒーローになってくれるんでしょ?? 羽田さん」
……。
わたしの、ヒーロー……。
「…………たしかに」
「そうだよね、あなたのヒーローなんだよね」
「はい……」
「もう、くっついちゃいなよ☆」
「ほえっ」
「な、なんでカードキャプターさくらみたいなリアクションするの」
「だって……!」
「……野暮、か。
くっついちゃいなよ、って言ったけど。
とっくに――くっついちゃってるんだよね」
「……!!」
「だよね。
言ってたでしょ? あなた。
彼を好きになったのは、高校1年のときだった……って」
……どうして憶えてるの、秋葉さん。
わたし、たしかに、言った記憶、あるけど……!!