おれの前には、茶髪の見知らぬ女子。
いったい……だれ!?
「えっと……きみは……」
「はじめまして」
「……」
「わたし、秋葉風子(あきば ふうこ)っていいます」
「……。
もしかして。
愛の、サークルの、上級生??」
「ビンゴ☆」
秋葉風子なる女子は微笑んで、
「4年生だから――アツマくん、あなたと同じ学年」
と言ってくる。
つーか、おれのパーソナルな情報、知ってんのかよ。
愛を通じて、情報が入ってきたってか。
「きょうは、なんのために……。愛のお見舞い??」
訊けば、
「それもある」
と即答。
「それ『も』あるって……お見舞い以外に、なにか」
「うん。お見舞いだけじゃ、足りないと思って」
「……足りない?」
「そう」
…秋葉風子さんは邸(やしき)のフロアを見回して、
「ねえアツマくん、キッチンってどこ??」
とか訊いてくる。
というか、タメ口かよ。
というか、もう下の名前呼びかよ。
「……こっち」
おれは素直に指差す。
「ありがと~」
「キッチンが使いたいのか?」
「そ。お料理」
秋葉さんは、マイバッグらしきものを持ち上げ、
「食材、購入済み」
と言う。
「お料理って……愛のために、か」
「もちろん」
「料理……得意なの?」
おれがそう言った途端に、苦笑いになる秋葉さん。
どーゆうこった。
なぜか、秋葉さんは、おれとの距離を詰めていく。
そして……おれの顔を、じーーっと見上げてくる……。
「……なに」
「ねえねえ。――思わない?」
「な、なにをだよ」
「――わたしの身長、意外と低いって」
「はあ!?」
見上げ続けながら、
「『顔の割りに背が低いよね』って、言われることがあるんだ、わたし」
と…レスポンスに困る発言を。
「アツマくん。あなたの身長もだいぶ高いけど」
「……」
「見たところ、わたしより15センチ以上高い」
「どうかしたか……それが」
「んーーっ」
「お、おいっ」
「羽田さんの身長、知ってるよね? あなたは、彼氏なんだもの」
「…知ってる。160.5センチ」
「やっぱり、わたしの身長とほとんど変わらないや」
「……それが??」
「羽田さんの気分になってた」
「はあっ!?」
「『あー、彼女はいつもこうやって、彼氏であるアツマくんのことを見つめてるんだなー』、って」
「ぬな…」
秋葉さんは少し後ずさってから、
「わたしが勘違いしてほしくないのは、あなたをずっと見つめていたいとか、そういうヨコシマな気持ちは全く無いです、っていうこと」
と告げてくる。
ふーん、そうでありますか。
「…わたしにも彼氏、いるからね。わたしよりだいぶ年上なんだ」
…そうだったのかよ。
× × ×
「じゃ、キッチンお借りしますね」
ニコニコ顔で秋葉さんは宣言。
宣言して、それから、じぶんのカバンから…エプロンを取り出す。
それからそれから…エプロンを装着する。
おれを一瞥(いちべつ)してから、弾むように軽やかな足取りで、キッチンへと……消えていく。
× × ×
「――秋葉さん、もう来た?」
階下(した)に下りてくるなり、愛が訊いてきた。
「来たよ。いま、キッチンだ」と答えると、
「ちゃんと応対、できた?? 彼女に」と、さらに訊いてくる。
「まぁな……。いきなりの来訪者だったから、戸惑ったけど」
「わたしと約束してたのよ。きょう来て、ごはんを作ってくれるって」
「えぇ……。前もって伝えてくれよな、そういうことは」
「悪かったわ」
「まったく。」
「……ねえ」
「ん?」
「意外と身長低くなかった? 秋葉さん」
「そ…それはどうかな」
「ほんとうに意外よね。167センチ以上はありそうなルックスなのに」
「167って……また、微妙な」
「だけど、思ったほど身長がないのが、彼女のいちばんのチャームポイントなのよ」
「チャームポイントぉ?」
「アツマくん」
「……」
「わかってないわね」
「…あっそ」