【愛の◯◯】『姉パワー』発動開始

 

両親の家に来ている。弟の利比古(としひこ)と一緒に来ている。

金曜の夜。両親は出張で家に帰ってこない。

となると。

 

「中華丼の方が良かった?」

八宝菜を突っついている最中の利比古に問うてみる。

利比古の箸がピタリと止まる。

「中華丼の方が、食べやすくて良かったかもしれないわね」

優しく言ってあげる。

いつもの2割増しの優しさを声に籠めてあげた。

利比古の食べっぷりが見るからに弱々しかったからだ。

姉であるわたしの手作り料理をうつむき通しで食している。

落ち込んでいるのね。

いろんな要素が重なって、今みたいな落ち込みに至ってるんだって思う。

優しくしたいわ。

たった1人の姉として。

おとうさんもお母さんも今夜は帰らないんだから、なおさら。

「……そんなコト、無いよ。お姉ちゃんの八宝菜、とっても美味しいよ」

ハンサムフェイスを上昇させてくれないまま利比古は言うけど、

「『とっても美味しい』を、もっと具体的に説明してほしい」

と、わたしは、イジワルに。

利比古が完全に口ごもってしまう。

八宝菜が冷めるのは良くないから、

「――ゴメンナサイね、イジワルなコト言って。お食事、再開しましょうね」

と告げ、

「わたしが、あんたのお食事を見守ってあげるから」

と、甘く告げる。

利比古が真下を向いてしまう。

可愛い仕草なんだけどねー。

 

× × ×

 

「あんたの深いトコロには、触れないようにするわ」

食後のコーヒーも2杯目に差し掛かったわたしはズバリと言ってみる。

真向かいの利比古は、動揺。

「いきなり何言うの……」

型通りうろたえるんだけど、

「バレバレよ。精神的に、相当参ってるのが」

と、姉のわたしはまたもやズバリと。

うろたえが2倍になる弟。

わたしに目線を寄せられず、

「……どうしてわかるの」

とナヨナヨと言うけど、

「わかんないワケ、なーい☆」

と、わたしは愉しく、容赦無く。

 

× × ×

 

「ぼく、そろそろ……」

利比古は立ち上がって逃げようとするけど、

「行かせないわよ」

と、わたしは愉しく容赦無く、ピシャリ。

「部屋に引きこもってWikipediaに没頭とか、ちょっと許してあげられないわねー」

「う、Wikipediaするために部屋に行くんじゃ、ないからっ」

「嘘つくの、下手過ぎ」

怯えるように固まる利比古。

わたしの方を向き続けられなくなり、逃げ道を探すように後ろを向いてしまう。

こんな弟も可愛いんだけど、やっぱりこの空間に留めておきたいから、

「このフロアでわたしと過ごす方が、絶対良(い)いから」

と言い、

「わたしと寄り添うのが、立ち直る近道よ」

と言い、椅子からスパッと立ち上がり、軽やかに弟に歩み寄って、

「あんた、いつまでも苦しいキモチのままだと、ヘンな方向に行っちゃいそうだし」

と言ってから、耳元に口を寄せて、

「姉のチカラで、助けてあげる」

と、ささやく。

ビビった利比古が、わたしから少しだけカラダを遠ざける。

そして、

「……イヤらしいよっ」

と、懸命に抵抗する。

だけどもわたしは利比古のカラダに限りなく近付いて、

「素直になりなさいよ。――姉弟(きょうだい)でしょ?」

と告げ、その1秒後、ぎゅむっ、と抱き締め始めていく。

カラダを包み込み始めるやいなや、

「相変わらず、わたしの彼氏とは大違いね。やわらかいから、コレはコレでいいけど」

と言っちゃう。

右肩から二の腕辺りまでをゆっくりと撫でていき、癒やす。

余分なチカラが抜け切っていないのが簡単に分かる。

背中を3回、ポンポンポン、と軽く優しく叩いてあげる。

それから、抱き締める強さを30%上げてあげる。

弟の抵抗力が緩んでいくのを肌で感じる。

 

――この程度で弟が立ち直るとは思っていない。

だから、

「ねえ、オネガイがあるんだけど」

と声を寄せたあとで、弟のカラダからいったん離れ、弟の両手にわたしの両手を軽く優しく絡ませていく。