【愛の◯◯】日本語上手のあすかさんには、頼れない

 

夜。ぼくの部屋。小泉小陽(こいずみ こはる)さんとのビデオ通話が終わったところだ。

小泉さんが小泉さんらしさを取り戻したのを強く実感する。数ヶ月前までは、ビデオ通話をしていても元気が無いのが容易く感じ取れてしまっていたから心配だった。あの頃と比べると、まさに完全復活である。

小泉さんの明るい笑顔が強く印象に残った。ぼくも頑張らなければいけないと思った。

 

× × ×

 

時刻は23時を過ぎている。

ぼくは勉強机にて、『いちばん頑張らなければいけないコト』に取り組んでいる。

手紙を書いているのだ。

もちろん、手書き。

今日が5月11日。仕上げる期限として設定した5月31日まで、あと20日。

 

『こんな言い回しは日本語文法として正しいんだろうか?』

不安になって、国語辞典のページをめくる。

でも、国語辞典を参照しただけでは不安が拭えず、スマートフォンを手に取り、検索エンジンの助けを借りてしまう。

スマートフォンを机上に置いて、細い溜め息をつく。

こんなコトで、5月末日までに仕上げられるんだろうか……と、自信を無くす。

高校時代の国語の成績が芳しくなかったコトだけが日本語を上手く扱えない要因ではないような気がする。日常の中で日本語を丁寧に用いるのを怠っていたツケというかなんというか……。

思えば、

『利比古(としひこ)くん、その日本語の使い方は間違ってるよ』

と、あすかさんに注意されたコトが、これまでしばしばあった。

あすかさんは『高校生作文オリンピック』の『銀メダリスト』にまでなったのだから、当然のコトながら日本語を丁寧に用いるし、当然のコトながら日本語への感覚の鋭さもぼくなんかとは段違いだ。

あすかさんに、日本語上手になる秘訣とかをもっと教えてもらうべきだったのかもしれない。

この手紙はぼく独りだけで書き進めていくのだと決めているから、あすかさんの手は借りられない。

あすかさんは、今、この部屋とは至近距離のあすかさんの部屋の中にいる。

ドアをノックできるワケもない。

孤独な悪戦苦闘は続いていく。

自分で決めたコトなのだから、覚悟を固めるしかない。