【愛の◯◯】『ゆるふわ』を否定した途端に豹変

 

校舎の中にはヒンヤリとした静けさが漂っている。1階の廊下を突き進むおれはやがて、数十年前までは理科準備室として使用されていたという小規模な部屋の入り口付近までたどり着く。

占い系のクラブ活動が3つも存在している我が校なのだが、『未来形占術(みらいけいせんじゅつ)クラブ』はその中で最も規模が小さい。確か、籍を置いているのは3人だけだと思う。

『未来形占術クラブ』はコンピューターを駆使する未来予測が「売り」となっていて、その合理的な方法(メソッド)をおれは気に入っている。狭い活動部屋だが周囲が全く騒がしくないのも良い。

左拳で入り口扉を叩く。『どうぞ』と言ってくるのが聞こえてくる。左手で入り口扉を引き、室内に足を踏み入れる。横長デスクの手前の椅子に腰掛けている同級生女子と向かい合うカタチになる。

「トヨサキくんとこうして向かい合うのも約2週間ぶりだね」

天ヶ原(あまがはら)さんとは逆サイドの椅子に腰掛けるやいなや、そう指摘される。

「梅雨が去って、カラリと晴れて、本格的な夏が来て。大多数の女子生徒はとっくに盛夏服、トヨサキくんもこの部屋に来るまでに、盛夏服の女子のグループとすれ違ったりしたはず」

そう言う天ヶ原さんは盛夏服じゃないですね。しかも、夏服の上に1枚羽織ってるし。唸りを上げているエアコンから放たれる冷たい風が冷た過ぎるというコトなんでしょうか。

「あ、トヨサキくん、今、こう思ってるんでしょ。『何か羽織るんじゃなくて、エアコンの温度を調節すればいいのに』って」

うっ。

するどい。

「いろいろ意見はあるだろうけど……女子高校生は、3年生にもなると、エアコンの設定温度じゃなくて着る服の枚数で体感温度を整えるモノなんだよ」

んんっ……。

「やっぱりピンと来ないか、男子には☆」

 

× × ×

 

おれの現状を聞き取り、聞き取った情報をデスクトップPCに打ち込んでいく。この繰り返しで、天ヶ原さんは未来予測を進めていく。

エンターキーを勢い良く強打する天ヶ原さん。「結論」が出たみたいだ。

「あなたの相談内容はあなたの卒業後の進路に関するコトなので、わたしがこれから言うコトだけを参考にするのではなく、先生方や親御さんの御意見にも耳を傾けてあげてください」

前置きの彼女。案外マジメなのである。

「あなたは進学先の候補を3つ挙げてきて、もし入学した場合、どの大学が自分にいちばんフィットするのか……というのを予測してくれるように言いましたね?」

「ああ」

頷きつつ答えるおれ。

「まず、あなたが『第1志望の最有力候補だ』と言ってきた都内某・私立大学ですが……」

彼女は、コトバを短く溜めてから、

「分析の結果、『刺激が強過ぎるのではないか?』という答えが出てきました」

「刺激が、強過ぎる」

「ハイ」

彼女は、彼女から見て右サイドのデスクトップPCの画面に目線を寄せながら、

「『100人単位の規模でバカ騒ぎするような環境には、向かない可能性が高い』と分析結果には記されています」

へぇぇ……。

ずいぶん厳しい分析結果ではあるが……言われてみれば、何百人かで大騒ぎするようなサークルに身を置くとか、おれには耐えられないような気もするな。

「トヨサキくんの所属しているクラブ活動のメンバーも、わたしたち『未来形占術クラブ』と同じく、計3名でしたよね?」

「そうだ」

「『小ぢんまりとしたコミュニティに居た人間が、巨大な集団にいきなり投げ込まれると、適応するのは非常に困難なのではないか?』とも、分析結果は記述しています」

「なるほど」

「これは、あなただけじゃなくて、わたしにも言えるコトです」

「なるほどな。おれらと同じで、計3名でクラブ活動してるんだもんな」

「体育会系ではなく文化系。どこまでも『ゆるふわ』な空気。……わたしたちのクラブのコトなんですけど、自虐的にならざるを得なくって」

右のこめかみを右人差し指で押さえる天ヶ原さん。

なんだか、占いや未来予測から逸れていっているが、

「『未来形占術』は、『ゆるふわ』なんか。それはちょっと、羨ましいな」

と、おれは、逸れていく流れに敢えて乗っていくコトにする。

天ヶ原さんの眼が見開かれて、

「エッ、トヨサキくんのトコは、『ゆるふわ』じゃないの!?」

と、驚きの籠(こ)もった声がおれに直撃してくる。

予測できなかった反応。

大丈夫か、天ヶ原さん。

……そもそも、

「天ヶ原さんには、この部屋で、ちょくちょく話を聴いてもらってるし……おれのクラブが気の休まるような環境ではないってコトも、伝えておいた記憶があるんだが」

「わたしにそんな記憶は無いッ」

天ヶ原さん!? 急に前(まえ)のめりかつ早口になるのは、ドッキリするから、できればやめて!?

「アレなの?? 残る2人が、トヨサキくんを痛めつけたりしてるの?? 残る2人がそんなに攻撃的だとしたら、衝撃的過ぎるんだけど!!」

あのね!? 猛スピードで身を乗り出してこないで!? 男子であるおれにカラダをどんどん近付けてくる方が、よっぽど衝撃的だよ!?

わかる!? プライベートゾーンって、わかる!?

「わたし、気になり出したら止まらなくなる性質(タチ)なんだよ。わかるでしょ、わかってくれるでしょ!? トヨサキくんの両肩だって、掴みたくなっちゃうんだからッ!!」